旅
男は学校が大嫌いだった――
ルールはあるが、誰も守らない。
授業中でも騒がしい教室。
同い年の輪の中で生じているカースト。
ルールはあるが、ただのお飾り。
強いものが、気分でルールを決めている。
強者に目をつけられると、
その世界のルールが、自分の不利になるように変化する。
自身を偽って過ごす毎日が嫌いだ。
みな、表には出さないが、
お互いに牽制しあって過ごしている。
友人も例にもれず。
きっかけが何だったかは、正直よくわからない。
とある日、強者の怒りを買ってしまった。
トイレから教室への帰り道だった。
肩で空をきりながら、正面から向かってくる強者。
目のやりばに困り、ハンカチで手を拭うふりをした。
が、通りすがりに重い一発をもらい、その場に倒れこんだ。
その後のことはよく覚えていない。
というよりは、ひどい耳鳴りと淀んだ視界で、それどころではなかった。
あばら2本の骨折と、顔の腫れ。
ついでに、おおきなたんこぶ。
何をしたわけではなく、理不尽にやられた結果だった。
その後の展開は、想像した通りだった。
警察沙汰にしたくない学校
それを無視して、当たり前だが、警察に被害届を出す両親。
報復をおそれて、警察沙汰にするのを止めるよう説いた。
が、結局こうなった。
報復は、忘れかけたころにやってきた。
街のお祭りだ。
友人と屋台をまわっていたときのこと。
人混みの中から、腕をがっしりと掴まれた。
顔をみるまでもなく、心臓が跳ね上がった。
振り返ると、強者がすごい顔で睨んでいた。
恰幅の良い仲間を数人つれて。
そのまま屋台裏路地に連れ込まれた。
友人は一緒にきていない。
恐怖でゆがんだ顔をみせずに済む。
覚悟を決めかけたとき、
大人数人が怒声をあげながらやってきた。
自分の前に割って入り、強者たちと揉め始めた――
もう後のことは覚えていないが、
それからすぐ、父の都合で引っ越しをすることになった。
友人の手紙で知ったことだが、
強者たちは、この事件で街の悪に目をつけられ、こっぴどくやられたらしい。
あれから数十年たつ。
今思えば、悪いと思えた学生時代の経験が、大いに役立っていると感じる。
あの経験で、理不尽と弱肉強食を知った。
環境に潜む理不尽は、転校後にあっさり消え驚いたものだ。
もう人生も折り返し地点?まで来ている。
なぜ急に学生時代のことを思い出したのかは分からない。
だが、当時の感傷が深く蘇る。
これから先の旅路に、あといくつほど、
山が現れるだろうか。
これから先も、乗り越えた経験は役に立つのだろうか。
はたまた、懐かしい思い出として、感傷に浸れるのだろうか。
安定したせいか、歳を食ってからは、変化が少ない毎日だ。
もうトラブルはごめんだが、
たまにはお偉いさんに文句の一つでも言ってみようか――




