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始まりのアリスと銀の弾丸  作者: 遠堂 沙弥
日常の崩壊
7/24

研究都市、潜入

 勢いが止まらず、長くなってしまいました。

どうぞ休み休み読んでください。

 アリス達は研究都市の、少し離れた場所で車を停めて様子を窺っていた。

すぐ目の前には懐かしい・・・研究室がある大きなビルがそびえ建っている。


「あの・・・、研究都市へは行かないんですか?」


 車の外に出ていたアリスは、コンコンと車の窓を叩いて中にいるカインに

話しかける。

すると様子を窺いに行っていたキーラが音もなく、いつの間にか戻って来ていて

アリスの質問に答えた。


「日が暮れてから行く、今行ってもこいつが足手まといになるだけだからな。」


 そう憎まれ口を叩くように、キーラは車の中にいるカインを指さした。

彼の言葉が聞こえていたのか・・・カインはキーラの方を見ている、しかし

サングラスをかけたままなので睨んでいるのかどうか、アリスには確認出来なかった。

紫外線に弱いカインに話しかけることに気が引けたアリスは、ずっと回りを警戒

しているキーラの方に話しかけることにする。


「あの・・・、でも確か研究都市では外界との出入りは夜の7時までとなって

 いたはずですよ?

 完全に暗くなってからじゃ、門が閉じられてしまって・・・守衛さんに相手して

 もらえなくなってしまいます。

 前にも・・・研究都市に物資を届けに来た業者の方が、守衛さんとモメている所を

 見たことがありますから・・・。

 ここは時間にとても厳しい場所ですし、1秒でも遅れてしまったら翌朝の6時まで

 完全に門が閉ざされてしまいます・・・。」


「な~に、多少暗くなりさえすりゃそれでいいんだ。

 そうだな・・・今の時期なら、5時位になりゃ丁度いいか・・・。

 それまではここで待機だ。

 オレはともかく・・・カインの奴は夜の方が活動しやすくなるし、そっちの方が

 かえって好都合なんだよ。」


キーラの穏やかでない口調や話の内容から、アリスは嫌な予感がしてくる。


「あの・・・、まるで不法侵入するような口ぶりですけど!?」


「オレ達連れてこの中に入るんだ、当然だろ。

 大体オレ達、ここに入る許可証とかそういうの持ってねぇし。」


 えぇ~~~~っっ!?

アリスはこの二人が守衛と一悶着ひともんちゃく起こす覚悟を、今した。

やがて辺りは暗くなり・・・、とうとう研究都市へ入る頃合いとなってしまった。

車に乗り込み、運転は変わらずキーラが・・・助手席にはアリスとカインが交代する。

出来るだけ問題を起こさないように、安全に入る方法として面識のある人物を助手席に

乗せた方がうまくいくかもしれないと踏んでのことだ。


(うまくいくでしょうか・・・、かなり不安です。)


 緊張気味にシートベルトをして、アリスは引きつった笑顔のまま車が発進した。

太陽が微かに見え隠れする中、カインは完全防備を解いてようやく美しい金髪と顔が

表に現れる。

バックミラーからカインの美しい顔を眺めて、アリスはつい見とれてしまっていた。


(・・・女の人よりも綺麗な男の人なんて、初めて見ました。

 カイン君ってホント、綺麗過ぎます・・・あそこまで綺麗だと殆ど罪です。

 正直あたしなんかよりずっと綺麗だし、女として複雑過ぎます・・・。)


 そんなことを考えながら自分で自分の首を絞めたアリスは、がっくりと肩を落として

ショックを受けている様子だった。

当然そんなことは露とも知らずに、キーラは車を走らせる。

やがて大きな門が見えて来て・・・、守衛が二人いるのが見えた。


「あれです・・・、あそこで車内の確認とかするんですよ。」


「わかってる、・・・行くぞ。」


 車は守衛の指示に従って停車し、窓を開ける。

一人は運転手の身元確認の為に近寄り、もう一人は少し離れた場所から様子を窺う。


「運転免許証を見せて。」


「ほらよ。」


 キーラはジャケットの胸ポケットから免許証を取り出すと、守衛に渡す。

それをじっくりと眺めて、守衛は本人かどうか確認しているようだ。

免許証に問題がなかったのですぐにキーラに返すと、今度は先程より柔らかい

表情になって話しかけて来た。


「ここにはどういった用件で?

 紹介状、あるいは通行証を持っていたら・・・それを出してくれるかい。」


 来た・・・、とアリスは神に祈るような仕草をして・・・心臓がドクンドクンと

早鐘を打っていた。

しかしキーラはあっけらかんとした口調で、あっさりと答える。


「あ、そういうの持ってねぇんだ。

 実はオレ達、こっちにいるアリスとニューヨークで知り合ってさ・・・。

 休暇を利用してこいつん家に遊びに来たんだよ。」


(キーラく~ん・・・、そういうのはハッキリ言っちゃダメです~~っ!

 完全にアウトです~~っ! 

 ほら、守衛さんものすごく怖い顔に戻っちゃったじゃないですか~っ!

 あ・・・、なんかこっち見てます~~っ!)


 誤魔化そうと思えば思う程、アリスの顔はどんどん引きつって来る。

片手を振り、何とかキーラの言葉に合わせようとするが・・・後部座席でカインが

がっくりとうなだれているのがバックミラー越しに見えた。

すると・・・。


「あれ・・・?

 あんた確か、ドクターバースさんの所の・・・アリスちゃんだったかい!?

 この間自立する為だって言って、ニューヨークに行ったばかりじゃないか。

 ・・・ん?

 ということは、アリスちゃん・・・彼等は君の友達!?」


思わぬ展開に、アリスは冷や汗たっぷりに無理矢理笑顔を作るとうんうんと頷いた。


「なんだ・・・、ドクターバースの娘さんだったら問題ないな。」


「それじゃ・・・!」


アリスの表情が輝いたのはほんの一瞬で、すぐさま急降下してしまう。


「君達、車から出て。

 アリスちゃんの友達なら、特別に入場許可出来るけど・・・これも規則だからね。

 危険物を持っていないか・・・、本当に君達がアリスちゃんの友達なのか。

 そのチェックだけはさせてもらうよ!?」


 キーラは後部座席のカインと視線を送り合い、それから黙って車から降りた。

二人は両手を車のボンネットに付けて、大人しくボディチェックに応じる。

アリスはそんな二人が突然守衛に向かって暴力を振るわないか、ハラハラしながら

見守っていた。

しかしカインもキーラも実に大人しい態度で、武器や危険物を持っていないことが

判明し・・・、とりあえず第一関門は無事に突破することが出来た。


「悪いね、これもここの都市のお偉いさんが定めた規則ってやつでさ。

 それじゃ最後に・・・、君達二人は本当にアリスちゃんの友達で・・・

 実家に遊びに来ただけなんだね?」


 まるで取り調べのように・・・、口では謝っているがどこか疑ったような口調で

再度・・・同じような質問を繰り返した。

アリスが何となくキーラの顔色を窺うと、だんだんと彼の表情に『我慢の限界!』と

言う文字が浮かんでいるような・・・そんな態度が表に出ようとしている。

「あわわわ・・・」となりながら、アリスがちょいちょいとカインの服の裾を

引っ張って何とかキーラの状態を伝えようとした。

それが伝わったのか、伝わっていないのか・・・カインは小さく溜め息を漏らしながら

守衛に話しかける。


「守衛さん、鋭いなぁ・・・。

 オレが彼女の『ただの友達』じゃないって、一目で見破るなんて・・・。

 これじゃアリスのお父様に会う前に、秘密を明かさなくちゃいけないじゃないか。」


(・・・え? 何を言ってるんですか、カイン君!?)


 案の定、さっきまでとは全く違う態度の変わりように・・・守衛が少し警戒態勢に

入っていた。

そんなことすら気に留めず・・・、カインは平然とした態度のままだった。


「まぁまぁ・・・、落ち着いてくださいよ。

 実はオレ本当のことを言うと・・・、彼女に一目で恋に落ちてしまったんですよ。

 今日ここへ来たのも、彼女と結婚を前提としたお付き合いをさせてもらうように

 お父様に挨拶する為・・・。

 せっかく内密でここまで来たのに、守衛さんに先に告白することになるとは

 思ってもみませんでした。

 お願いですからこのことは守衛さんの胸の中に秘めておいてもらえませんか?」


「・・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・・。」


 当然、誰もが言葉を失い・・・愕然とした顔になっていた。

石のように硬直したアリスは、今のカインの言葉をハッキリと聞き取ることが出来ずに

目を丸くして・・・カインをじっと見つめている。


(え・・・、・・・え!?

 今カイン君・・・、今・・・何て言いました!?)


 カインの台詞をマトモに受け止めて、アリスが動揺しているとキーラから足を軽く

蹴られて我に返る。


(バカ・・・、その場凌ぎの嘘に決まってんだろうがっ! 

 真に受けんな!)


 声には出さずにそう訴えるキーラであったが、どうやら動揺し過ぎているアリスには

通じていない様子だった。

しかしカインの嘘を真に受けていたのは、アリスだけではなかったようである。


「え・・・、ウソ!?

 だってアリスちゃんがニューヨークに行ったのって、ついこの間だよ!?

 会ってすぐじゃないか・・・、それで結婚とか決めちゃって本当にいいの!?

 君の愛に嘘偽りはないんだろうね!?」


 守衛さんの詰問の主旨が変わっていた。

いつの間にかアリスへの愛を確認するようになっており、余計に話がややこしくなって

きて・・・キーラは頭痛を我慢するような仕草で頭を抱えている。

にっこりと微笑んだカインは、突然アリスの肩に手を回し・・・守衛さんによく見える

ように態度で示した。


「これがオレの愛だよ。」


「・・・んんっ!!?」


 カインの唇がアリスの唇を塞いだ。

突然の出来事に両目を大きく見開いて・・・、すぐ目の前にカインの真っ白な肌が

見える。

やがてアリスの口の中へ、強引にカインの舌が侵入してきて・・・初めての感触に

全身の力が抜けていった。

カインの舌がアリスの口内を這い回り、気のせいか全神経がこの一点のみに集中して

いるような・・・、そんな奇妙な感覚に囚われる。

そしてなぜか、それどころではないのにカインの犬歯がとても鋭いように感じられた

のがとても気になっていた。

時々尖った牙のようなものが、アリスの舌に当たり・・・自分もカインの口内に舌を

絡ませていたことを認識し・・・、そんな淫らな自分に愕然とする。

まるで腰が抜けたようにがっくりと脱力するアリスの体を、カインは支えるように

抱き締めて・・・なおも激しいキスを繰り返す。

わけがわからなくなってきたアリスはその感触に全ての力を吸い取られたような感覚に

なって、・・・もはや気を失う寸前であった。


「あ~~っ、わかったわかった!

 わかったからもうやめなさい、みっともない!!」


 守衛さんが慌ててカインを制止する。

その言葉を合図に、不敵で邪悪な笑みを一瞬浮かべたカインはキスをやめると・・・

いつの間にか天使のような爽やかな微笑みに変わっていた。


「全く・・・、最近の若者は何を考えているのやら・・・。」


 そう呟きながら、守衛さんは遠くで硬直しているもう一人の守衛に合図を送ると・・・

大きな門が開いて中へ通されることとなった。


「ほら! 結婚前提でも何でもいいから、・・・早く通りなさい!

 そしてドクターバースに拒絶でも何でもいいから、・・・打ちのめされなさい!」


「祝福、ありがとう。」


 それだけ言うと、カインは何事もなかったかのようにさっさと後部座席に乗り込んで

しまった。

石像のように硬直したまま突っ立っているアリスに、キーラが平手チョップをかます。


「おら、お前もさっさと車に戻れ。」


「・・・えっ!? ・・・あ、・・・あれ!?」


 顔を真っ赤にして・・・ほんの少し瞳を潤ませながらアリスは、呆れた顔で見つめる

キーラにようやく気がつく。

それからすでに車内に戻っているカインを確認し、・・・呑気にアリスに向かって手を

振って来る彼の姿を少しだけ恨めしく思った。


「ど・・・っ! カイン君・・・どういうつもりで・・・あんなっ!」


 動揺がおさまらないアリスが微かに怒りで体を震わせていると、平手チョップの

2撃目を食らう。


「・・・あうっ!」


「どういうつもりもこういうつもりも・・・、どうだっていいんだよ。

 あいつにとっちゃ、な。

 さっさと車に戻れって言ってんだろ! もう1撃食らいたいか、あぁ!?」


 キーラの脅し文句に、アリスは大人しく助手席へと戻って行った。

車が発進して遂に研究都市の内部へと侵入することに成功するが、アリスはそれ以降

決してカインを視界に入れることはなかった。

ずっと窓の外を眺めるフリをして、先程の忌まわしい出来事を一刻も早く抹消させる

為に・・・アリスはカインの顔を見ることも、話をすることも全て拒絶する。 



 数分ほど舗装された並木道を走らせていると、ようやく住宅街に通じる入口が

見えて来た。

それを目にして・・・、アリスはようやく『帰って来たんだ』と実感する。

しかし安心はしていられない、何をする為にここへ戻って来たのか・・・。

それを考えると手放しで喜べなかった。


「あ・・・れ?」


「・・・どうしたの?」


 カインに声を掛けられ、思わず反射的に返事をしようとしたが・・・すぐさま

口をつぐませた。

そんなアリスの態度を見て、カインはからかうような表情で笑みを浮かべている。

一向に何があったのかを話そうとしない態度にしびれを切らしたキーラが同じ

質問をした。


「どうしたかって聞いてんだよ、いい加減にしろよなお前!」


「な・・・っ、それをキーラ君が言うんですか!?」


 ムキになって反論するが、それこそキーラには関係のない話だったと思い・・・

ようやく落ち着きを取り戻して、アリスは住宅街の様子がいつもと違うことを話した。


「今はまだ・・・、5時半ですよね。

 おかしいです・・・、いつもなら主婦の方や子供達が外を出歩いていてもいい

 時間帯なのに。

 まるで誰も住んでいないみたいに・・・、静か過ぎます。」


 アリスの言葉に同意したのか、住宅街へ入る前に一旦停車して様子を窺った。

カインもキーラも目を凝らすように中を見て、それからキーラは窓を開けて

何やらくんくんと・・・臭いを嗅ぐような仕草をする。


「・・・どうだ? 何か臭うか?」


 カインが尋ねる。

・・・が、キーラは首を傾げるだけで怪訝な表情を保ったままだった。


「いや・・・、何も。

 ってゆうより・・・、何も臭わないのがかえっておかしい。

 普通なら色んな臭いが入り混じっていてもおかしくないのに、グールの臭いどころか

 生きてる人間の臭い・・・つか、気配すら感じられねぇんだ。」


 キーラの言葉にますます怪訝な表情になったカインは、笑みを消し・・・外への

警戒をより一層強めた。


「まさか・・・、気取られた!?」


「その可能性が高いな、オレ達は特に隠密で行動していたわけじゃないから。

 アリスと接触した情報が・・・、すでに流れていても不思議じゃないさ。

 ・・・ま、それ位は最初から予想していたことだけどね。」


 余裕のある口調で、カインがコートを脱ぎ・・・まるで英国紳士のような衣装に

なると微かに含み笑いを浮かべている。


「アリス、オレ達は君に真実を見てもらう為にここまで来た。

 恐らく君に関する情報は、君が住んでいた家に置いていないだろう。

 あるとすれば・・・研究所、それもドクターバースの研究室か・・・。

 もしくはバースの娘の研究室か、そのどちらかに保管されてるはずだ。

 つまり・・・、君と共に研究所へ侵入することになる。

 いいかい? 君には少し荒っぽい場面を見せてしまうだろうから、

 それは我慢してね。」


 優しい言葉でそう告げるカインに、アリスは胸がドキドキと高鳴っているのを

感じた。

碧眼の瞳をした美しい青年に優しい言葉をかけられ、しかもついさっき『あんなこと』

があったせいで・・・アリスは自分でも変な気持ちになっていることに気付く。

しかし、アリスの返答を聞く間もなく・・・キーラが苦笑気味に言葉をかけた。


「確認してる余裕はなさそうだぜ!?

 ・・・ったく、一体どうなってんだよ。

 さっきまで臭いなんざしてなかったのに、いつの間にかグールの大群に囲まれ

 ちまったみたいだ・・・っ!

 そこら中に腐った死体の臭いが、ぷんぷんしてきやがったぜっ!!」


 そう叫ぶとキーラはアクセルを踏み込んで、一気に住宅街を駆け抜けようとした。

突然の勢いにアリスは遠心力で背もたれに体を打ちつけて、思わず咳き込む。

一体どうしたのか声をかけようとするが、乱暴な運転に喋ることすらままならない。

・・・と。

アリスは車に向かって来る人間の姿を捉えて、悲鳴を上げた。


ドォンッ!!


「きゃあああぁぁあっっ!!」


 轢いた・・・。

轢いてしまった・・・っ!


 慌ててキーラに車を止めるよう声をかけようとしたが、それ以前に町の様子が

恐ろしい光景に変わっていることに・・・先に気付いた。

次々と・・・どこから出て来たのか、さっきまで人の気配が感じられない位に

誰一人として見当たらなかったのに・・・。

家や柱の陰からどんどんものすごい勢いでアリス達の車に向かって来る人間の群れ。

車のスピード、そして紫外線対策の為の窓ガラスのせいでハッキリと確認出来なかった

が・・・彼等の様子が、ある人物と酷似していることに気付く。

驚愕した顔で、アリスは彼等と・・・ニューヨークのマンションで自分を襲って来た

男と・・・状態が一致していることに気付いたのだ。


「あの人達は・・・っ、・・・あれは一体何なんですっ!?」


後部座席からカインが説明する。


「彼等はグールと言って、まぁ・・・端的に言えばゾンビみたいな化け物、かな。

 外見は人間の姿をしているけど、彼等は生きた人間とは異なるんだ。

 血と肉を求めてさまようリビングデッド、ただし映画に出て来るような動きが

 スローなゾンビとはワケが違う。

 知能がない分、本能のみで活動する・・・疲れを知らない全力タイプさ。

 映画のゾンビだったら噛まれたりすると同じようにゾンビになったりするけど、

 彼等に噛まれても仲間になったりしないから安心していいよ。」


「そ・・・っ、それがどうしてこの町に・・・こんなにたくさんいるんですっ!?」


 右へ左へ、減速、加速。

それらを繰り返してキーラは、襲い来るグールをやり過ごそうとしていた。


「んなもん、この研究所の奴等がこいつらを作ったに決まってんだろっ!

 どうせこいつらは失敗作だろうけどなぁっ!!」


ドォーンっ!


 二人程グールを撥ねるが、それでもキーラは構うことなく研究所の一番大きな

ビルを目指して車を走らせた。


「・・・くそっ!!」


 まるで研究所への道を閉ざすかのように、大量のグールの群れでバリケードを

作り・・・これ以上はさすがに通れない。

そう判断したキーラは一旦道を外れ・・・、研究所とは正反対の方向へと走らせる。


「カイン、どうするっ!?

 このままこいつを乗り捨てて、研究所に向かうかっ!?」


「そうだな・・・、とりあえずグールが一番少ない場所まで一旦引こう。

 後のことはそれから考える。」


「よしっ!」


 フルスロットルで、キーラはグールの群れを振り切った。

どうやら研究所を守るような形でグールを放したのか、研究所から遠ざかる程に

グールの数も減り・・・アリス達は全くの逆方向から研究所を瞠っている。


「このままじゃ研究所に侵入するのは難しいな。

 仕方ない、ドクターバースが持っている研究資料はオレが取って来よう。

 3人で向かうには、敵の数が余りにも多過ぎるからね。

 キーラ、お前は彼女を死んでも守れ。」


「カイン君・・・っ、一人で行くなんて無茶です! 危険過ぎます!」


 アリスが心配する声でカインを止めようとした。

それが嬉しかったのか・・・、カインは満面の笑みを浮かべると安心させるように

アリスの肩にそっと触れる。

一瞬、『あの時の出来事』を思い出したアリスはカインに対して警戒した。


「アリス、心配してくれてとても嬉しいけど・・・オレなら大丈夫だから。

 君はここで大人しくオレの帰りを待っていてくれるかい?

 ドクターバースの研究室を直接見せることが出来なくて残念だけど・・・。

 彼の研究資料は必ず持ち帰る、約束するよ。

 だから・・・、彼が一体何をしているのか・・・何が目的なのか・・・。

 その資料を見たら、オレ達が嘘をついていないことを信じてくれるかな?」


「・・・無事に、帰って来てくれるなら。」


 胸の高鳴りを抑えられないアリスは、恥ずかしそうにそれだけ呟いた。

しかしカインにとってはそれで十分だったのか、満足そうに微笑むとアリスから

手を離し・・・すっと立ち上がる。

それからキーラの方に向き直り、厳しい表情で釘を刺そうとした。


「わかってるよ・・・、だからさっさと行ってさっさと帰って来い!」


「・・・頼んだぞ。」


 キーラとはそれだけ言葉を交わし、そのまま研究所の方へ車で向かうものだと

アリスは思っていた。


「・・・・・・えぇっ!?」


 カインは普通の人間なら考えられない程の跳躍力で、一気に2階建ての屋根へと

ジャンプして・・・それを繰り返しながら研究所の方へと跳んで行ってしまった。

唖然とそれを眺めていたアリスは、ごしごしと両目をこすって・・・再び確認する。


「に・・・、忍者ですかっ!?」


がすっ!


「あうっ!!」


 キーラから本日3撃目の平手チョップを食らったアリス。

呆れた顔になりながら、キーラはとうとうカインの承諾を得ずにアリスに話した。


「うるさい奴がいなくなったから、ちょうどいい。

 いいか、オレ達は普通の人間とはかなり違う能力を持ってる。

 回りくどいのは面倒だし、一言で説明してやるからちゃんと聞けよ。

 ようするにカインは吸血鬼ヴァンパイアで、オレが狼男ワーウルフだ。

 わかったか!?」


 ぼーーーーーーん。

目が点になっているアリスの顔を見て、やっぱり説明が早過ぎたのかとほんの少しだけ

後悔しているキーラ。


え・・・? えぇ・・・っ!?


 情報を処理することが出来ていないアリスに、キーラはカインの真似をするように

ゆっくりと説明し始める。


「いいか?

 カインの奴は、太陽光線に弱い。 紫外線が弱点。 暗闇を好む。

 あいつのキスでわかってると思うが、牙がちゃんとあったろうが。」


 突然『あの時』の話題を振られて、アリスは真っ赤になりながら首を左右に勢いよく

振った。


「そ・・・っ、そ・・・っ! そんなの知りません! わかってません!!

 気付いてませんよ、カイン君に牙があっただなんて・・・っ!」


「わかったわかった、今のはオレが悪かったからちょっと落ち付け!

 とにかく・・・あいつの正体は吸血鬼ヴァンパイアだ、ここまではいいか!?」


 両手で顔を押さえながら、アリスは小さく頷いた。

マトモにキーラの顔を見ることも出来ず、アリスは下を向いたまま話を聞く。


「そんでオレは狼男ワーウルフ、つまり満月の夜になると銀色の狼に変身

 するんだよ。

 満月以外の夜だったら、割と自由自在に変身出来るんだけどな。

 オレとカインは二人とも夜になると昼間の数倍、力が増す。

 だから・・・、カインのことは心配しなくても全然平気ってわけだ。」


 キーラの説明を一通り聞いたアリスは、これで今まで引っ掛かっていた謎が

かなり解けた気がした。


(それじゃ・・・あの時の銀色の狼は、・・・あれはキーラ君!?)


 周囲を警戒するように常に鼻を利かせながら、物陰から見渡しているキーラを見つめ

・・・風になびく銀色の髪と、狼の毛並みを照らし合わせた。

金色の瞳に、光の加減によって緑がかって見える・・・綺麗な色。

思えばあの狼も、同じ瞳の色をしていた。


「それじゃ・・・あの時の狼は、やっぱり・・・キーラ君。」


「動くな!」


 知らない声がして、アリスは硬直するようにその場を動くことが出来なかった。

視線だけ動かしてキーラに助けを求めるが、いつの間にか・・・キーラの喉元には

鋭い剣のような物が突き付けられていて・・・キーラも動けずにいる。

恐ろしさの余り声が出ないアリスは、自分も同じように剣を突き付けられている

ことにようやく気付いた。

現れたのは、二人。

どちらも若い男で、年齢で言えば20歳前後・・・。

一人は黒髪の長髪に・・・、もう一人は金髪のショート。

見た目の雰囲気から町中を徘徊しているグールとは、明らかに異なっていた。

彼等は恐らく人間だろう・・・。

アリスに剣を突き付けている黒髪の男が、無線機のようなもので誰かに連絡を取る。


「アリスレンヌと、もう一人・・・多分ライカンの方を捕まえたぜ。

 今からそっちへ連行するから、よろしくなっと。」


「大人しくするんだ、そうすれば手荒な真似はしない。」


 落ち着いた口調で金髪の男がそう告げると、突然キーラに向かってスプレー缶を

噴射させ・・・咳き込んだキーラはそのまま崩れ落ちてしまった。


「キーラ君っ、キーラ君っ!!」


 自分を拘束しようとする力を振りほどこうとしながら、アリスはキーラの元へ

駆け寄ろうとした。

しかし強い力で腕を掴まれ・・・、それ以上キーラに寄り添うことが出来ずにいる。


「大人しくしろ・・・っ、・・・ったく何て力だっ!

 これがアリスレンヌの力ってやつか!?」


「ユリウス、彼女に危害を加えるな。

 ・・・丁重に扱うんだ、いいね?」


「へいへい、わかってるって。」


 ユリウスと呼ばれた黒髪の男をたしなめるように一喝すると、金髪の男は

アリスの方に向き直り・・・紳士的な態度で謝罪した。


「アリスレンヌ・・・、彼なら大丈夫です。

 狼男ワーウルフの苦手な臭いで、気を失わせただけですから。

 どうか・・・大人しく、私達について来てください。

 貴女が望むなら、イーシャ博士と面会することも可能です・・・。」


 ユリウスを振り払おうとしていた力を抜いて、アリスは急に大人しくなった。

ピタリと止まったアリスの様子に怪訝になりながらも・・・ユリウスは決して

アリスの腕を離さない。


「イー・・・シャ、お姉ちゃん!?」


 アリスは抵抗をやめ、地面に横たわったキーラを気遣いながらも・・・彼等に

大人しく従うことにした。


 

 


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