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始まりのアリスと銀の弾丸  作者: 遠堂 沙弥
日常の崩壊
5/24

矛盾

 数分経ってようやくキーラが適当に作った料理を手に持って、寝室に入って来た。

見るとチキンライスのいい香りが漂って来て、思わずお腹が鳴る。

見事にお腹の音を聞かれたアリスはキーラとカインの顔を見て、苦笑されていることに

恥ずかしさを覚えた。

アリスはベッドに腰掛けたまま、キーラとカインはリビングから持って来た椅子に

座ってチキンライスをほおばる。

音を立てずに静かに食べるカインとは真逆に、よっぽどお腹でも減っていたのか・・・

ガツガツと3人の中で一番早くチキンライスをたいらげたキーラ。

アリスはそんな正反対の二人を目の当たりにしながら笑っていたが、よくよく考えて

みて・・・この光景がとても異常だということに遅れて気付く。


(あたし・・・、笑っている場合じゃありませんでした!

 この二人が一体何者なのか、まだ何も正体がわかっていないというのにっ!)


 そう考えると、せっかくのチキンライスの味が落ちてしまった。

急にスプーンを口に運ぶスピードが落ちたアリスを見て、カインが気遣うように

声をかける。


「・・・もしかして、不味かった?

 それともこの馬鹿が下品な食べ方をするから、食欲を殺がれちゃったのかな?」


「おばえ・・・っ、ンなごと言ってっと・・・ぼう何も作ってやんねぇどっ!?」


 口の中に一杯ほおばりながら喋るものだから、キーラが何を言ってるのかよく

わからなかったアリスは・・・やはり我慢し切れずに笑ってしまう。

アリスの顔に笑顔が戻り・・・、安心した二人の顔にも笑顔が戻る。


(・・・何だか不思議です。

 二人が笑うと、心が落ち着くというか・・・不安がなくなるというか。

 なぜかとてもほっとします。)


 そんな不思議な感覚になりながら、アリスは早く二人から事情を聞く為に

急いで食事を済ませようと・・・チキンライスをキーラのようにたいらげてしまった。



 食事が終わり、キーラが食器を片付けて戻って来ると・・・いよいよ本題に

入ることになった。

真剣な面持ちになるアリスに対し、カインやキーラはどこか怖い雰囲気を

放っている。

最初に話し出したのは、金髪の美しい青年・・・カインだった。


「アリス・・・、今からオレ達が話すことは全て真実。

 信じられないことかもしれないけれど、それが・・・君の本当の姿なんだ。

 正直・・・、相当な覚悟が必要になるけど・・・。

 君は、君の真実を知る覚悟が・・・あるかい?」


 出だしから覚悟を問われ、アリスは急に怖くなった。

自分の真実が・・・、一体何だと言うのだろう?

もしかして記憶を失う前の自分は、とんでもない犯罪者だったのだろうか?

一瞬カインの問いに言葉を失うアリスだったが、・・・ごくんとツバを飲み

瞳を真っ直ぐに見据えて、答える。


 本当の自分を知りたい。

このまま自分のことを何も知らずに生きて行くことなど、出来はしない。

本当の自分を知った上で、父と姉の元へ・・・戻りたい。


それがアリスの答えだった。


「・・・はい、覚悟は出来ています! 

 研究都市を出た時から、・・・あたしは自分のことを知りたくてここまで

 来たんですから!

 だから教えてください、あたしの本当の両親がどこにいるのか・・・。

 あたしが本当はどこで生まれて、どんな風に育ったのか!」


 アリスの答えに、カインとキーラは目を合わせる。

少し戸惑っているような・・・、困っているような・・・そんな瞳で。

その態度の意味がわからないアリスは、二人の態度に首を傾げていた。

少しの沈黙の後、キーラがアリスに向かってぶっきらぼうに尋ねる。


「お前・・・、もしかして・・・。

 知りたいことって・・・、自分がどこの出身なのか、とか。

 親戚や兄弟がいるのか、とか。

 そういう一般的な範疇はんちゅうの話をしてねぇか?」


 言葉の意味が、よくわからない・・・。

そう思ったアリスはキーラの問いに、どう答えたらいいのかわからずにいる。

アリスのそんな態度が答えだと・・・そう判断した二人は、深い溜め息を

つきながら再び顔を見合わせた。


「・・・マジかよ。

 本っ当に何も覚えてないのな・・・。

 これじゃオレ達が今から話すことを聞いたって、100%デタラメ教えてるって

 思われんのがオチじゃねぇか!」


 片手で頭を押さえながら、キーラが呆れるように言葉を吐き捨てた。

その横でカインも同じような・・・、悩ましい表情を浮かべている。


「あの・・・っ、一体何の話をしようとしていたんです!?

 記憶喪失のあたしが知りたいことと言ったら、本当の両親のこととか・・・。

 他に兄弟姉妹がいないのか、とか。

 本当の名前とか・・・、そういうことじゃないんですか!?

 他にどんなことがあるって言うんです!?」


 身を乗り出すように、アリスは必死になって訴えかけた。

二人が一体何を知っているのか・・・、何が言いたいのか。

それが全くアリスにはわからないので少し焦っていたのかもしれない。

アリスの必死の訴えに、カインが困ったような表情を浮かべながら話し出す。


「わかった・・・、とにかく落ち着いて・・・!

 君の知りたいことを全て教える、その為にオレ達はこの2年間・・・ずっと

 君を探し・・・君を追いかけて来たんだから。」


「2・・・年!? あたしが記憶喪失になった時から・・・!?」


「そう、オレ達は元々・・・3人で旅をしていたようなものなんだ。

 各国を渡り歩いて、日本で活動していた時に・・・オレ達は君を失った。

 君は記憶を失い・・・オレ達に関することを全て忘れて、奴等の元で育てられた。

 アリス・・・、君の遺伝子を我が物にしようと企んでいる組織。

 『白の騎士団』に捕らえられ、その自由を奪われていた。

 君をていのいいモルモットにする為にね・・・。」


 アリスは一瞬、目まいがした。

カインが言ってる言葉の意味が、わからない。

彼が一体何を言ってるのか・・・何が言いたいのか、その意味がわからない。

そして次第に・・・、その言葉がアリスの義理の父達を侮辱していることに気付く。

・・・そう思うと、だんだん腹が立ってきた。


「何を・・・、言ってるんです!?

 それはお父さんやお姉ちゃんのことを指して言ってるんですか・・・?」


 あくまで静かな口調で、相手に失礼のないように・・・。

もしかしたら自分の理解の仕方が間違っているのかもしれない・・・。

確認するように、まずは相手を怒らせないように・・・慎重に言葉を選んだ

つもりだった。

信じられない・・・、その言葉がアリスの顔に表れていたのか。

カインは静かな面持ちで、今の言葉を聞いた。

しかしキーラに至っては今のアリスの言葉が気に食わなかったのか、少し

苛立った表情を浮かべている。

キーラが反論しようとした仕草を誰よりも早く察知し、カインが制止した。


「君の面倒を・・・、保護者として君を引き取った人物。

 確か『エディオール・バース』・・・、そういう名前じゃないのかい?」


「・・・・・・っ!!」


 ドキンとした。

確かに研究都市の中では、誰もがその名を知る程の有名人だった・・・。

名高い学者であり名医であった父の名を、外の人間が知っていても不思議ではない。

しかし・・・それが、彼等の口から出てきたら・・・驚きを隠せなかった。

まるで父が聞いたこともない組織の関係者だと、そう確証付けられているようで。


「確かに・・・、そうですけど・・・っ。

 お父さんとその組織が、一体何の関係があるって言うんです!?」


 これ以上聞くのが、本当は怖かった。

知りたくもないことを知らされそうで・・・。

思い出したくないことを、教えられそうで・・・。

しかしついさっき、彼等の目の前で『覚悟』を語った以上・・・逃げるわけにも

いかなかった。

ここで真実を聞かずに逃げ出すことは、父や姉を裏切ることにも繋がると思ったから。

アリスは・・・、知らなければいけないという思いに駆られていた。


「・・・君は余程、ドクターバースのことを信頼しきっているようだね。

 それだけドクターバースに『刷り込み』をされていたと言うわけか・・・。

 アリス・・・、よく聞いて。

 オレ達からアリスを引き離し・・・、日本からアメリカへ渡って・・・外界から

 隔絶された研究都市に君を隔離したのも全て、ドクターバースの策略なんだ。

 彼は君の中に隠された謎を解明する為に・・・いや、君の遺伝子を使って新たな

 ・・・未知なる生物を作り出す研究材料として君を欲した。

 ドクターバースにとって君という存在は、ただの実験道具でしかないんだよ。」


「嘘・・・っ、そんなの嘘です!!

 お父さんがそんなことをするはずがないですっ!!

 あたしにどれだけ優しくしてくれたか、何も知らないでそんな酷いことを

 言わないでくださいっ!!」


 アリスは怒りの余り・・・、無意識にベッドから立ち上がって怒鳴っていた。

自分でも今までこんなに大きな声を出したことなんてない。

しかし父親を侮辱されて、悪者扱いされて・・・黙っているわけにはいかなかった。

カインはそんな激昂げっこうしたアリスを見ても、動じることなく見据えたままだ。

なおも落ち着いた口調で、話を続ける。


「それじゃ一般的な話をしよう。

 仕事か何かで日本に訪れた学者が、どこの誰かもわからない記憶喪失の

 女の子を・・・どうして引き取ることになったんだろうね!?

 親戚でもない、知り合いでもない、ましてや個人情報が一切ない正体不明の

 そんな怪しい女の子を・・・高名な学者が養子縁組する理由は?

 普通じゃとても考えられないことだよ、どれだけお人好しな学者なんだろうね。

 いくら優しい人柄だと言っても、身分証明する物が何もない女の子をそのまま

 引き取るなんて・・・正気の沙汰じゃないよね?

 普通なら、警察に預けるとか・・・施設に入れるとかしないかな。

 その辺を君はどう思ってるの?

 おかしいとか・・・、不思議に思ったりはしなかった?」


「・・・それ、は・・・っ。」


 言葉が出なかった。

カインの言葉は早口ではなく、とてもゆっくり言い聞かせるように・・・理解

しやすかった。

でも・・・、理解出来なかった。

カインの言葉の意味ではなく、・・・父親の取った行動の方が。

言われてみれば、確かに変だ。

今頃かもしれないが・・・、それはずっと引っ掛かっていたことだった。

ただそれは・・・本当に父が優しい人物だったからと、自分に言い聞かせていたから。

それ以上追及したり、深く考えるようなことをしなかったのが・・・本音だ。


「聞きたいんだけど、どうして君は研究都市を出て・・・アメリカの

 ニューヨークで暮らしているの?」


「それは・・・、あたしが自分探しをするのを許してもらって・・・。

 記憶を探す手掛かりを見つける為に、ここに・・・。」


「アパートに家具・・・、それに生活資金・・・。

 生活に必要な物は全てドクターバースが提供したんだよね。

 君は今・・・、記憶を探す手掛かりを見つける為にドクターバースの許可を得て

 ここに越して来たって、そう言ったよね。

 それも変じゃないかな・・・!?

 だって・・・、君が記憶を失う前にいた場所って・・・日本でしょ?

 どうして自分探しをするのに、ここを選んだの?

 君がここを指定したとか? ・・・それはないよね。

 だって記憶を失ったまっさらな君は、外の世界のことを何も知らない。

 そんな君が自分探しをするのにニューヨークを選ぶなんて・・・、普通じゃ

 考えられないことだものね。

 ・・・それも、ドクターバースの指示なんでしょ?

 だとすれば彼は最初から、君が自分を取り戻すことなんて出来っこないって・・・

 そうわかってて、やったことにならないかな・・・?

 ドクターバースには、全てわかっていたことなんだよ。

 君がここで一体何をするのか・・・、何が起こるのか・・・全て、何もかも。」


「あ・・・、あのっ!

 カイン君の言ってる意味が・・・、よくわかりません。

 つまり何が言いたいんですか!?

 そこからあたしに関することって、本当に繋がってるんですか!?」


 話が繋がらない、仮にカインが言うことが正しいとして。

父バースが全て仕組んだこととして、だから一体何だと言うのだろう?

どうしてそれが・・・、自分なんだろう!?


わからない・・・。

わからない・・・っ!


その時混乱するアリスを追い詰めるように、横から衝撃的なことを告げられた。


「つまりお前が普通の人間じゃない、・・・化け物だからだよ。」


・・・・・・・っっ!?


 そう・・・、キーラが告げた。

アリスは石のように硬直したまま、キーラが言った言葉を受け止める。


今・・・、何て・・・!? あたしが・・・一体何だって・・・!?


 カインの回りくどい言い方に嫌気が差したように、キーラは鋭い眼光でアリスを

見据えるとハッキリと言い放った。


「それで全部つじつまが合うだろ。

 バースの野郎はお前の・・・化け物の遺伝子を使って、もっと強い化け物を

 作り出そうとしてんだよ!」


「キーラ、やめろっ! 

 今の彼女にそんなことを言っても、余計に混乱させるだけだっ!」


「お前の言い方はイライラすんだよ! ハッキリ言わなきゃわかんねぇだろうが!

 こいつの遺伝子は新たな化け物を生み出すっ!

 オレ達だってこいつのせいで、こんな化け物にされちまったんだっ!!

 こんな所でちんたら話しこんでても、別の刺客が襲って来るだけだろ。」


カインの言葉すら押さえ込む程の怒声を浴びせ、キーラは更にアリスに詰め寄った。


「いいか、よく聞けよ!?

 バースはお前の遺伝子欲しさにずっとお前を閉じ込めて、人体実験に利用しようと

 企んでいやがったんだ。

 今頃になってお前を外に放り出したのも、全部野郎の計算の内だ。

 次々とグールを送り込んでお前の能力を覚醒させる為に、遺伝子情報やデータを

 取るっていう理由だけでだ!

 嘘だと思うなら野郎の研究所にでも行ってみやがれ、クソみたいな実験動物の

 なれの果てがたくさん見られるぜ!?」


 まるで憎しみをこめるように・・・、怒りをぶつけるように怒鳴り散らすキーラを

アリスは初めて恐ろしく感じた。

震え・・・、目に涙を浮かべながらキーラの放つ言葉を聞いて・・・アリスは

信じられない真実を、全てぶちまけられた。

やがて、ふっと・・・何かが弾ける。

頭の中でかろうじて繋がっていた『理性』という名の糸が、ぷつんと途切れたような

感覚に陥る。

急に頭の中が冴え渡り・・・、冷静さを突然取り戻したかのように・・・アリスは

突然落ち着き払った口調になった。


「それじゃ・・・、行く。」


「・・・・・・は!?」


 てっきり怯えて泣き叫ぶのかと思った。

アリスが子供のように泣きじゃくって拒絶するのかと思っていたキーラは、

思いがけない反応が返って来て・・・よく聞き取れなかった様子である。

アリスはそんなキーラの態度を無視するように、きょとんとした顔で答えた。


「キーラ君達の言ってることが嘘だって証明する為に、あたし・・・。

 お父さん達の研究所に、行くって言ったんです。

 きっとそうでもしないと・・・、キーラ君もカイン君も・・・。

 お父さん達のことを、信じてくれないと思いますから。」


「あくまでドクターバースを信頼するんだね。

 君の方がショックを受ける結果になるんだよ、それでもいいの!?」


カインが柔らかい笑みを浮かべながら、アリスに尋ねる。


「・・・それが真実なら、受け入れるしかない・・・かもしれないです。

 でも、きっと違います。

 お父さんもお姉ちゃんも・・・、あたしの家族ですから。

 あたしは二人を信じたいです。」


アリスの真っ直ぐな言葉を聞いて、キーラとカインの表情が曇ったのがわかった。


「・・・家族、か。」


 ぼそりとキーラが吐き捨てた言葉を、アリスは聞き逃してしまう。

するとカインが椅子から立ち上がって・・・、アリスに手を差し伸べた。


「それじゃ・・・、真実を求めに・・・一緒に行こう。

 ドクターバースの研究所へ。」


優しく微笑むカインに、アリスは複雑な思いになった。


 自分の失くした記憶を取り戻す為に・・・研究都市から出て来たはずなのに、

いつの間にか・・・。

取り戻すかもしれない記憶を否定する為に、研究都市に戻ることになるなんて。

そんな風になるなんて、全く想像していなかった・・・。





 仕事の方が忙しくなり、更新が遅れてしまいました。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


 一応この小説のジャンルを「ファンタジー」にしていますが、

実際の所「ファンタジー」とは少し違うような気がしています。

まだ序盤しか書いていませんが、第一印象でもいいのでこの

小説がどんなジャンルになるのか教えてもらえたら幸いです。


あと、よければ感想など書いてもらえたら小説を書く原動力に

なるのでよろしくお願いいたします。

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