『紅の兄弟』の本部、到着
長らくお待たせいたしました。
更新速度と同じように物語の進み具合もかなりゆっくりですが、少しでも面白い物語を書けるように頑張りますのでお付き合いよろしくお願いいたします。
「はい、カインくんにはコレ」
ヴァンがそう言うとカインに帽子、サングラス、マスク、コート、手袋など・・・日光を遮るのに必要なアイテムをあらかた買い揃えてたので、それらを手渡す。アリスから見ればそれはとても異様な光景であったがカイン達からすれば、吸血鬼の種族には必須アイテムなせいか―――――――何の違和感もなくそれらを着こなした。
それからキーラには少しシックなスーツを渡すが最初は拒否していた、元々ストリート系の格好を好むキーラは動きにくい衣装を着ることに拒絶する。
「ちょっとの辛抱でしょうが、今の『紅』はキーラ君達が在籍してた頃みたいにラフじゃないんだから・・・最初だけでもいいからこれ着なさいっての!」
「そんじゃヴァンは!? あんたまさかそのヒッピー姿で本部に行くつもりじゃねぇだろうな!?」
アリスはソファに座りながら二人のやり取りをまるでピンポンの試合を見るように交互に視線を移していた、キーラの指摘にヴァンの格好に改めて目を瞠ると厚手のもふもふとしたコートに何重にも重ね着しているシャツ、だぶっとしただらしないズボンに丈の長いマフラーを首に巻いていて、どう見ても怪しくてだらしない格好であった。
しかしヴァンはこの格好が気に入っているのか、両手で着ている服を抱き締めるように掴みながら着替えることを拒否する。
「オレ様はいいの! つーかこの格好でないと組織の連中にはオレ様だってわかってもらえないし・・・」
「なんだそりゃ・・・、ったくホンットに都合のいいおっさんだな」
ヴァンにこれ以上何を言っても無駄だと思ったキーラは未だに不服そうな表情で、奥の部屋に行って着替えることにした。それからヴァンはアリスの方に向き直るとにやにやとしたいやらしい目つきで、鼻の下を伸ばしながら話しかけて来る。
「そんじゃアリスちゃん、着替えるの手伝ってあげるからこっちの部屋へ一緒に行こうか!」
「―――――――え!?」
アリスはヴァンに買ってもらった着替えの入った紙袋を抱き締めながら背中を押され、キーラがいる部屋とは反対方向へと連れて行かれる。勿論それはカインが制止した。
「お前は調子に乗り過ぎだ、アリス―――――――一人で着替えられるよね?」
「はい・・・、それじゃフラン君。フラン君の服も買って来たから一緒に着替えましょう!」
「・・・着替え? アリスが行くなら僕も行く」
「―――――――あう」
マフラーをしっかりと掴まれたヴァンは残念そうな顔でアリスとフランを見送った、振り向くとカインに今にも殺されそうな目つきで睨まれていたので自重することに決めた。
数分後、黒のジャケット姿で現れたキーラ―――――――そして薄い色調のドレスを着たアリスと対面する。フランは子供らしい服で、どうしても隠せない顔のつぎはぎはつばの広いキャップを被ることで工夫した。
「おじさんなかなかセンス良いじゃないか、アリス・・・よく似合ってるよ」
「あ・・・ありがとうございます、カイン君」
「おじさんはヒドイな、・・・おっさんの方が親しみ感じちゃうのはどうしてかしらね」
真正面から褒められて頬を染めながらアリスがお礼を言う、キーラは横目でアリスの格好を見つめながら口をへの字に曲げて何も声をかけなかった。
「そんじゃ全員準備出来たってとこで、そろそろ出発しようやね。
本部へは車ですぐだから地下に行って車に乗ってちょうだい、まぁ大体10分もあれば到着するかな」
(そ―――――――そんな近くだったんですね、シャルルさんのいる本部へは・・・)
刻一刻と真実を知るシャルルという人物に会う時間が迫る度に、アリスは胸の鼓動を抑えられなかった。初めて会う人物に緊張しているのとは少し違う―――――――まるで、その人物に会うこと自体を拒否しているような感覚に近かった。
当然なぜそんな風に感じるのかアリスにはわからない、ただ―――――――これで本当に後戻り出来なくなると思うと逃げたくなる気持ちを抑えられなかったのだ。
ヴァンの運転する車に乗っておよそ8分、道が渋滞していなかったこともあって予定より早く到着することが出来た。到着した所はまるで大富豪のいる城へ行くような光景だった、大きな門の前には守衛がいてヴァンは顔パスで入ることを許可される。それから門が開かれて車が進んで行くと約3分程緑が広がる庭を走って行き、それから目の前にとても大きな建物が見えてきた。
車の窓から外を覗きながらアリスは驚きを隠せない。
(うわ・・・すごい、テレビで見たセレブのお屋敷みたいです!)
アリスが食い入るように外の光景を見つめているのでヴァンが面白そうに声をかける。
「全く人気のない森の奥に、ひっそりと組織の秘密基地があると思った?」
「はい、正直そんな感じを想像してました。地下に秘密基地があるとか・・・もっと意外な感じを想像してましたけど、こっちの方が意外でビックリしました」
「まぁ最初は誰でもそう思うかもね、なんたって人ならざる者を束ねる組織ってんだから・・・もっと秘密裏に基地を作ってるって思う方が自然でしょ。でも最近じゃどこの組織も人間社会になじんで生活してるから、逆に言えばそっちの方が厄介かもね。外からじゃまさか所属してる人物の大半が化け物だなんて、普通の人間なら想像しないでしょうから。でも―――――――アリスちゃんが今までいた『白の騎士団』が世界的有数の科学者集団として名を馳せて、それなりの権力と地位を持っているように『黒の黙示録』も『紅の兄弟』も人間社会に貢献することで社会的地位をちゃんと持ってるのよ。だからこうやって堂々と屋敷を構えることが出来るってワケ!」
ヴァンが少しだけ補足説明している間に車は屋敷の玄関前へと到着した、そこには黒いスーツに身を固めた屈強な男が3名立っておりヴァンの車が到着した途端に歩み寄る。全員車から降りるように指示されてアリス達は車から降りた。すると黒スーツの男がアリスの姿を見るなり口を大きく開けて、驚いた仕草をしている。
サングラスをかけていたので細かい表情を見ることは出来なかったが、3人共アリスに一定間隔の距離を保ったまま―――――――ヴァンに話しかけている。
「シャルル様から話は聞いている、すぐに中へ通すように言われてるからそのまま応接間へ行くように」
「あいよ、ご苦労さん」
ヴァンが軽く挨拶するが男は笑みどころか会釈することもなくやり過ごしている、しかし目の前をアリスが通るとやはり息を飲んだように緊張している空気がアリス本人にも伝わるように気分があまり良くなかった。
(な―――――――何なんでしょう!? あたしの格好、そんなにおかしかったんでしょうか・・・)
彼等の態度が気になるアリスはどこかおかしい所がないかちらちらとドレスの裾や足元に視線を配りながら探すが、どこも変な所はなかったので首を傾げる。するとカインがはにかみながらアリスに声をかけた。
「きっと君のドレス姿があまりに綺麗だったんで言葉も出なかったんだよ、大丈夫。気にしなくてもおかしい所はどこにもないよ」
(そういう台詞がよく平気で出るよな、こいつは・・・)
カインの歯の浮くセリフを傍から聞いて呆れていたキーラは、屈折した表情になりながら無視した。アリスはカインの言葉に笑顔で返すが、当然その言葉を真に受けているわけではない。
きっと彼等の反応には何かあるんだと、そう思わずにはいられなかった。
そしてその答えはきっとこの先に居るシャルルという人物から聞くことが出来ると―――――――アリスは改めて心の準備をした。




