カインの苦手なもの
アリスの体調が回復したことでようやく行動を開始することとなった、といってもただ単に『紅の兄弟』の創始者でもある人物と正式な面会をする為の衣装を買いに行くだけだが。
「さ~てと、そんじゃアリスちゃんが元気になったところでこの近くにあるオサレなお店でショッピングと
行きましょうか!
お金の心配ならいらないわよ~! さっきシャルルん所の使いが・・・ほれ! ゴールドカードくれたからさ。
使い放題だから遠慮なくゴージャスな服を買いましょうね!」
しかしながらテンションが高いのはヴァンだけである。
カインは全ての窓に取り付けてあるブラインドのお陰でそれ程太陽の光が室内を射すことはないが、それでも外から多少射して来る太陽光から怯えるように部屋の奥の―――――ちょうどアリスが座っているソファーの側から離れられずにいた。
キーラまだふてくされている様子で、不機嫌そうな顔つきのまま勝手にキッチンを物色している。
アリスはというとまだ目覚めないフランの様子が心配でショッピングに行く気分にはなれなかった。
そんな彼等の様子を見てヴァンは肩を竦めると、つかつかとアリスの方へ歩いて行き・・・話しかける、珍しく真剣な面差しで。
「アリスちゃん、これは君にとってもすご~~~く重要なことなのよ?
君達が『紅の兄弟』を見限って組織を抜けたことならシャルルから聞いて知ってるけど、それでもシャルルは
君達に協力したいと心から願ってるのよ。
それにただ会いたいという理由だけで呼び出してるわけじゃない、―――――――アリスちゃん。
目覚めたばかりのアリスちゃんがこの先どうしたらいいのか、そして自分が一体何者なのか・・・。
それを知る為に自立しようって決めたんじゃなかったの?
こんな所で足を止めてもいいのかしら、アリスちゃんが知りたかったこと・・・知りたくないこと。
その全てがシャルルの元にある・・・、そしてアリスちゃんがこの先無事に生き伸びて行く為に絶対避けられない
真実があそこにはあるのよ。
残酷な内容になるのは明白だけど、決して逃げられない真実なの・・・君が生きて行く為にはね。
カイン君、そしてキーラ君?
君達もそれを十分に理解出来てるはずよ、だから・・・早くお買い物に行きましょ。」
「真剣な話かと思ったら、結局のところ買い物を楽しみたいだけなんじゃねぇのかおっさん・・・。」
真面目に聞いてしまった自分に後悔しながらキーラが呆れる、しかしヴァンは口笛を吹きながら早速出かける準備をしていた。
「あ~でもやっぱりカイン君には外の日差しは酷かもね~、だったらさぁアリスちゃん!?
フラン君のことが心配なら、カイン君にお留守番を頼んでフラン君の面倒を看させたらどうかしら?」
「―――――――えっ!?」
「はぁ!?」
虚を突かれたアリスとカインが同時に声を上げた。
「だってそうでしょ? 吸血鬼のカイン君は外を出歩けないし・・・。
―――――――かと言って、完全武装の格好で町中歩かれちゃ目立ってしょーがないし。
野郎共の衣装ならオレ様が適当に見繕うことも出来るけど・・・。
アリスちゃんだけはオレ様が直に見立ててあげたいし。
でも悲しいかな・・・、オレ様ってばお二人さんに信用されてないっしょ?
だからオレ様とアリスちゃんが二人きりで出掛けることなんて、どうせ認めないでしょうが。
そんじゃ自動的にカイン君かキーラ君のどちらかがおっさんの見張りとしてついて来ることになるわけでしょ?」
にこにこと余裕の笑みを見せながら、他に断る言い訳を言わせないように穏やかな口調ながらまくし立てるヴァンの言葉に、キーラは遂に面倒臭くなったのか頭をぼりぼり掻きながら仕方なく承諾した。
「あーあー、わかったよ。 行きゃあいいんだろ、行けば!?」
「さっすがキーラ君、本当に話が早くて助かるわぁ!」
「ちょっと待て、それはつまりオレに子供の面倒を看させる前提で話が進んでるのか!?」
(こ・・・これは心配していいことなんでしょうか!?
カイン君にフラン君の面倒を看てもらうことが心配と言うことはつまり・・・、カイン君のことを信用してない
ということにならないでしょうか!?
でも全然心配ないと言えば、それも嘘になってしまいます・・・。
カイン君のこの反応から言って子供の面倒を看るという行為に相当自信がなさそうです、ここはあたしも残った
方がいいのかもしれません。
研究都市の中にある住宅街に住んでいましたから、近所の子供達の面倒を看たりしてたこともありますし。)
カインに気を使おうとアリスは頭の中で色々なことを考えていた、そもそもアリスがヴァン達と出掛けている時にフランが目覚めたら面識のないカインしか室内には残っていないのでフランを不安にさせるということは十分に想像出来ることなのだが、今のアリスはカインの反応ばかり気になってそこまで考えることが出来ずにいる。
しかし話は結局カインとフランを残して出掛けるということになってしまった。
渋い顔でフランを見つめるカイン、少し顔色が悪く―――――――どう見ても貧血で体調が悪そうである。
(まぁ、アリスレンヌの加護を受けてしまったのなら死ぬことはないと思うけど・・・。)
「―――――――出来るだけ早く戻って来いよ、子供の面倒なんて看たことがないんだから。」
(やっぱりですかっ!?)
カインの言葉に絶句していたのはアリスだけではなかった、ヴァンも不安そうな顔つきに変わり少し考え直そうとしている。
珍しく困った様子を見せているカインに、キーラは大きな溜め息を漏らすと再び面倒臭そうな口調で声を荒らげた。
「―――――――ったく、使えねぇ奴だなホント。
おい、おっさん! 本っ当にアリスに危害を加えたりしないだろうな!?」
「しないしない! するわけないっしょ!?
オレ様これでも一応今はシャルルと正式な契約を交わしてるからね。
アリスちゃんの安全第一に行動するわよ!」
慌てるように肯定するヴァンに、なぜか余計不安をかきたてるものがあったがとりあえず信じることにしたキーラ。
「オレも残るよ、こいつが目ぇ覚ました時ハラ減ってるかもしれないからな。
長期間空き家も同然だったみたいだからキッチンにはロクなもんがなかったが、まぁ缶詰があったし・・・。
もしアリスに何かあってもオレの鼻は確実にアリスを追えるからな。
もしオレ達を裏切るようなことしやがったら・・・、テメーの喉元噛みちぎってやるから覚悟しとけよ!?」
「だ・・・、大丈夫だって言ってんでしょ!? ホント怖いんだから、キーラ君ってば。」
「―――――――と言うわけだアリス、わかったらさっさと帰って来いよ。
もしおっさんに何かいかがわしいことされたら、大声出して股間蹴り上げて逃げて来い、いいな?」
「は・・・はい、わかりました。」
「ひっど~・・・。」




