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始まりのアリスと銀の弾丸  作者: 遠堂 沙弥
日常の崩壊
16/24

小休憩

 真っ暗闇の中で慌てふためくヴァンに半ば呆れながらキーラが電気のスイッチらしきものを見つけて押すと、案の定・・・車庫内の蛍光灯に明かりがついた。

そして車庫のシャッター付近に目をやると、そこには車の横で無様に素っ転んでいるヴァンの姿があり更に呆れ顔になる。


「おっさん、仮にも自分の車庫なんだろうが・・・。

 真っ暗になってもどこに何があるか位わかんだろうがよ、何で足元のバケツに足引っ掛けるかな。」


「んなこと言ったって!

 雑誌記者って取材の為にあちこち走り回るんだから、事務所にはたまにしか戻らないのよっ!

 どこに何が置いてあっても記憶しておける程、ここに長く滞在してるわけじゃないんだからねっ!!」


惨めな姿のままで反論するヴァンを尻目に、車から降りたカインはアリスを支えながら今後の指示を仰ぐ。


「それで? ここに着替えや食事があるって思ってもいいのかな。

 どこへ行けばいいんだい、早くしてくれないとアリスの体調が良くないみたいだから・・・早く横にさせてあげたいんだけど。」


「あの・・・、あたしは大丈夫・・・です。

 それよりフラン君の方が、あたし心配で・・・。」


 必死な眼差しでキーラに抱き抱えられているフランの方を見つめながら、アリスは顔面蒼白で今にも倒れそうな状態だった。

どう見てもアリスの方も大丈夫には見えないカインは、支えている手を決して離さずに声をかける。


「アリス、君の身体も気がかりだよ。

 あまり無茶だけはしないで、君を守り抜く為にオレ達がいるってことをどうか忘れないで欲しい。」


 カインが優しく諭すように声をかけると、カインやキーラがとても心配そうに自分のことを見つめている視線にようやく気付いたアリスは、貧血を起こしたような目まいを感じながらも小さな声で謝った。


「・・・ごめんなさい。」


 アリスの状態が芳しくないこともあってヴァンはすぐさま起き上がると、ふらふらとした足取りでキーラ達を案内した。

車庫の奥に手狭な階段があってそれを上って行って扉を開く、中はいかにも雑誌の事務所といわんばかりに散らかっている。

見渡す限り本や書類や写真の山がたくさんあり、足の踏み場を見つけることにも一苦労であった。


「そっちに大きめのソファーがあるから、とりあえずアリスちゃんとそっちの坊やを寝かせてやってよ。

 キーラ君、台所はこっちにあるから何か温かいものでも・・・そうねぇ、ホットココアがあったわ。

 それ作って飲ませてあげれば少しは落ち着くと思うわよ。」


 てきぱきと指示しているように聞こえるが、指示しながらあちこちに散乱している自分の衣服を片付けたり本の山に足をぶつけたりしている所を見る限り、ヴァン自身が一番一杯一杯に見える。

ヴァンのジャケットやらマフラーやらがたくさん山のように積まれている中からようやくソファーを見つけたカインは、それらをまるで汚い物でも触るみたいにつまんでポイポイと放り投げた。

そしてやっとアリスを座らせることが出来て、ひとまず安心する。

まだ意識が戻っていないフランを膝枕しながら、アリスは愛おしそうにフランの頭を撫でてやった。

アリスの側に付き添う形でカインは部屋中を慌てて片付けるヴァン、そして台所でお湯を沸かしているキーラへと視線を移しながら溜め息をつく。


「ところでアリス、この子は一体どうしたんだい?」


 カインは研究所に入る前にアリス達と別れて行動していたので、アリス達がフランとどこで知り合い・・・どうしてここまで一緒に来ることになったのか、その経緯を知らなかった。

アリスは思わずキーラの時みたいに怒られるかもしれないと思って口ごもる、バツの悪そうな顔になったアリスを見たカインは優しそうな笑みを作って宥めるような口調で安心させた。


「大丈夫、オレはあの単細胞と違って頭ごなしに怒鳴りつけたりはしないから安心していいよ。」


カインの優しそうな笑み、そして柔らかい物腰で語りかける言葉に安堵してアリスはフランについて話し始めた。


「実は・・・、あたしがイーシャお姉ちゃんの命令で地下の牢屋に閉じ込められていた時・・・隣の牢屋に入っていた子なんです。

 何かに怯えるように震えるこの子を見ていたら、一人にしたくなくて・・・。

 置き去りにして自分だけ逃げることが出来なくて・・・、それでキーラ君にお願いして一緒に連れて来てもらったんです。

 すみません・・・、カイン君の意見も聞かずに勝手な行動をしてしまって・・・。」


青ざめた顔色で申し訳なさそうに話すアリスに、カインは怒りもせず・・・ただ微笑むばかりだった。


「そっか、それなら仕方ないね。

 君が望んだことならオレ達に反論する権利はないよ、君のしたいようにすればいいんだから。

 ただ・・・君自身が傷付く行為だけは納得するわけにはいかない、無茶だけはしないって・・・約束してくれるかい?」


 お咎めなし、ということでアリスはほっと胸を撫で下ろすとカインと約束を交わした。

ひとまずフランに関してはキーラだけではなくカインの許可も下りたと言うことで、堂々と迎えることが出来てアリスはとても嬉しそうだった。

そんな時アリスとカインの会話が聞こえていたのか、室内を片付け回っていたヴァンが反射的に口を開く。


「あれ、アリスちゃん。

 もしかしてバースの娘さんと顔見知りだったりする?」


「―――――――え!? あぁ・・・はい。」


 突然ヴァンから尋ねられて、アリスは戸惑いながら返事をする。

両手一杯に衣服を抱えながらヴァンは更に質問を投げかけて来た。


「・・・元気そうだった?」


「あ・・・、はい。」


 ヴァンにイーシャのことを聞かれて、アリスはイーシャの研究室で言われた言葉を思い出してしまった。

憎しみを込めるように吐き捨てたイーシャの台詞が今もアリスの脳内を駆け回り、だんだん血の気が失せて行く。

ただでさえ顔色が悪かったのに更に顔色を悪くしたアリスを見て、カインはすかさず背後に立っていたヴァンを殴りつけた。

するといつの間にかホットココアを持って来たキーラまでもが同じように、ヴァンの後頭部をゲンコツで殴りつける。


「あだぁ―――――――っ! ちょっと二人とも、痛いじゃないのよっ!!」


「うるさい、お前が余計なことを聞くからアリスの体調が更に悪くなっただろうが。」と、これはカイン。

「テメーは黙って部屋の掃除でもしてろっつーんだ、このボケナス!」と、これは当然キーラ。


 大袈裟に痛がるヴァンを無視して、キーラはアリスにホットココアの入ったカップを渡す。

アリスは礼を言ってカップを受け取ると一口含み、気持ちが落ち着いてきたせいか・・・先程の話を自分から戻した。


「あの、ヴァンさん。

 もしかしてイーシャお姉ちゃんのこと、知ってるんですか?」


「―――――――へ?」


 すっとんきょうな声を出して、ヴァンは目が点になりながら硬直している。

そんないかにも怪しい反応にキーラやカインまでもが訝しんで、アリスの言葉に便乗した。


「てゆうか、『紅の兄弟』の関係者ならバース親子がアリスの面倒を看てたっていうの知ってても不思議じゃねぇんだけど?

 なんでおっさん、それ知らねぇんだよ・・・ちょっとおかしくね?」


「それにバースの娘について尋ねるなんて、―――――――何か因縁があるとか?」


三人から矢継ぎ早に質問攻めを食らっているヴァンはたじろぎながら、思い切り目が泳いでいる。


―――――――――絶対何か隠してる!


 そう推察したキーラとカインは、ますますヴァンのことが怪しい人物に思えて来た。

白い目でヴァンを見つめながら返答を待つが、それは突然鳴ったインターホンによって中断させられてしまう。





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