寄り道
ようやく嵐のような急展開が終わり、ここからゆっくりとした流れへと突入いたします。
基本的に「ほのぼの」なのを目指していますが・・・、ずっと続けるのは無理でしょうね。
『白の騎士団』の研究都市があるホープウェルから更に南・・・フィラデルフィアへ向かう為、ヴァンは一旦デラウェア高速に乗って車を走らせる。
さほど時間がかかることもなくフィラデルフィアで最も有名な橋、デラウェア川にかかるベンジャミン・フランクリン橋が見えて来てキーラ達は複雑そうな表情を浮かべていた。
「本当に戻って来ちまったな・・・。」
「あぁ・・・、まさかまたこの景色を眺めることになるなんてね。」
憂鬱そうな口調でカインが呟くと、膝枕をして寝かせていたアリスが声を漏らして目覚めようとしていた。
それまではまるで死んでしまったかのように静かに眠りに陥っていたアリスのことを少なからず心配していたカインとキーラは、呑気そうに目覚めようとしているアリスの様子を見て安堵している。
ゆっくりと瞳を開けるアリスに、カインは無意識に・・・瞳の色を確認していた。
今のアリスの両目は深く吸い込まれそうな程に美しい紫色をしている・・・、カインはほんの少しだけ気落ちした表情を見せていた。
そしてようやく意識を取り戻したアリスが寝ぼけまなこのまま、自分の顔を覗きこんでいる金髪・碧眼の青年を見つめて名前を呼ぶ。
「カイ・・・ン・・・。」
名前を呼ばれたカインは一瞬ハッとした表情になった、その瞳には孤独と寂しさが入り混じっていて・・・今にも泣き出してしまいそうな眼差しである。
まるで死に分かれた恋人とようやく会えたかのようにカインは身を乗り出す程の勢いで、アリスの顔に自分の顔を近付けて声をかけようとする・・・が、しかし。
「カイン・・・君・・・?」
虚ろな眼差しで名前を言い直すアリスに、カインの表情が凍りついた。
しかしそれも一瞬のことで目覚めたばかりのアリスにはその一瞬の変化に気付くことなく、カインはすぐさま笑顔を作って・・・改めて声をかける。
「アリス、・・・どこか痛い所はない?
何か気分が悪かったり、記憶が混同してるとか・・・おかしいところがあったら何でもいいから言ってくれないか。」
そう声をかけられるが、自分が今どういった状況にいるのか全く理解出来ずにアリスが戸惑っていると突然ヴァンが車を止めた。
「カイン君、それは少し休憩してからにしようや。
『紅の兄弟』のアジトに入る前にお前さん達、随分酷い格好だからねぇ・・・。
この近くにおっさんの事務所があるから、まずはそこで色々お色直ししましょうや。」
「お色直しって・・・。
それよりおっさん、事務所って・・・!?」
車を降りる準備をしているヴァンに、キーラはフランを抱き抱えたまま尋ねる。
後部座席ではまだふらついているアリスに手を貸しながらカインが抱き起こそうとしていた。
「およよ、まだ言ってなかったかしら!?
おっさんこう見えて情報屋、兼とある雑誌の記者をしてんのよ。
聞いたことない? オカルト・都市伝説専門のゴシップ雑誌『ベクトリズム』ってーの。」
「知らね、つーか雑誌の内容からしてロクでもねぇな。」
「ひっど! こう見えて結構ファンがいんだからねっ!!!
あ、カインく~ん! 車から降りる前に車庫のシャッター閉めるまで、ちょっと待っててちょうだいね!
お兄さん確か吸血鬼なんでしょ?
だったら外はもうすっかり爽やかな青空になってるから、そのまま車降りると命に関わるんじゃないかしら。」
「あ・・・あぁ、わかった。」
キーラとヴァンが会う以前から既にヴァンとは面識があるカインであったが、それでもヴァンの軽いノリとお姉口調にはまだ慣れないのか・・・口ごもりながらヴァンの言葉に従うカイン。
車から降りたキーラが車庫の中を見渡すと、そこはシャッターが開いてても少し薄暗いレンガ作りの建物で1階がガレージ、そしてどうやらこの上が雑誌社の事務所なのだと推察する。
車庫内は掃除道具や怪しいダンボール箱がいくつも積み重なっており、あまり綺麗に整頓がされていない状態だった。
ヴァンが完全にシャッターを閉め切ると車庫内が一気に暗闇に閉ざされるがキーラやカインは昼と夜、瞬時に視界が切り替わってもすぐ夜目になることが出来るので問題ない。
しかしヴァンだけはそうもいかないのか、まだ目が慣れていないせいでその辺に転がっていたバケツを蹴飛ばす音と共に間抜けな悲鳴が車庫内に響き渡った。




