後悔
「別れよう」
最後の一文はとても簡潔なものだった
ピンク色にデコレーションした携帯を胸に抱く
きっと既読は明日の昼くらいにつくんだろうな。
私が今からする事と、
どっちが早く彼の元に辿り着くんだろう?
ぎし
足を乗せた椅子が音を立てて軋む。
まっすぐ立つと、目の前には輪っかに結んだ縄
がゆらゆらと揺れていた
────────────────────
いつからだろう、
彼の瞳に自分が写っていないと感じ始めたのは
ああ、そう、そうだ、あの人が
あの人が現れてからだった
私は一昨年、彼に一目惚れした
真っ黒な目を見つめた瞬間、いともたやすく心を奪われてしまったのだ。
それからは猛アピールの嵐だ。毎日話しかけて少しでも会話を増やそうとし、肌や髪のケア、メイク、歩き方、笑顔も何もかも、彼の為に頑張って頑張って頑張ったのだ。
「いいよ、よろしく」
告白の返事はとても淡白なものだったけれど、YESが聴けただけで天に上るように嬉しかった。思わず泣いてしまって、彼に笑われた。恥ずかしかったけど、やっぱり大切な思い出だ。
それからは毎日がキラキラと輝き始めた。生まれ変わったような気分だった。
彼から話しかけてくれる
好きに好きと返ってくる
当然のように触れられる
何もかもが嬉しくて、楽しくて。
────それが崩れたのは、あの人が転校して
来てからだった。
彼は私を構わなくなった
好きにありがとうと返ってくるようになった
手を繋ぎたくても繋げない日があった
どうして?
どんどん離れていく背中に気が狂いそうだった
行かないで行かないで行かないで行かないで
声は届かない
そして私は決断をした
彼に捨てられるなんて耐えられない
でも彼に迷惑を掛けたくない
このまま彼の中から私が消えるなんて嫌だ
────────だから
────────────────────
一気に首が締まる
覚悟していても、やっぱり怖いものは怖い。
指が自然と縄に伸び、必死に解こうと動く
「ゔぅううぅぅぅっ」
頭が膨れているような気がする。
ぐらぐらと視界が揺れ、涙が溢れる
ごめん、ごめんね
───あなたの傷になりたいなんて。
私には心配してくれる親なんていない。親戚も
施設の人も頼りにならない
ずっと暗かった私の世界に光を灯してくれた彼。
それだけで感謝すべきだったのに、
笑って身を引くべきだったのに。
ごめんなさい、忘れられたくなかったの
目の前が黒く染め上げられていく
最後の最後、脳裏に浮かんだのは
こちらをみて微笑む彼との思い出だった
────────────────────
ピコンと
携帯が光る
「今までごめん、別れたくない。
勝手だって分かってるけど、もう一度君と
向き合いたいんだ
チャンスを下さい」
ヴ────ヴ────ヴ─────
気づいたときにはすべてが遅すぎた