ゴキブリの初速はな・・・
俺は自然にその名を口にしていた
「アルケミスト・・・コッチローチマン・・・!」
その瞬間、俺は生き返った
「え?」
起き上がった俺の目の前に最初に映ったもの、それは異形になった自分の手だった
茶色いトゲトゲの甲冑のような物に覆われた手になっていた
それは例えていいうなら・・・ゴキブリの前足に似ていた(五本の指は流石に残っているが・・・)
「これが・・・俺だと?」
次に俺は校舎のガラスに反射した自分を見た
その姿は・・・
全身が先ほど見たトゲトゲした茶色い甲冑に覆われている自分だった
甲冑というよりは、甲虫の体表の外殻そのままと言う方がいいかもしれない
そして頭部は、全体が西洋鎧みたいな甲冑に覆われ
睨み付けるような吊り上がった黒い瞳と
長い触覚が生えた姿へと変わっていた
その姿はまさしく怪物・・・怪人と言って差し支えなかった
どうなってんだ・・・?
何が起こっている?
この姿はいったい、俺は死んだはずじゃ・・・?
全てがあまりに突然のことで頭の理解が追い付かない
そんな俺の姿を見た蜘蛛の怪人とヒーロー達は信じられないと言った顔でこちらを見ていた
全員敵意はこちらに向けたままだ
「コックローチマンだとふざけやがて!、たかがゴキブリのくせに!」
戸惑いと焦りが見える蜘蛛の怪人は、こちらに攻撃をしかけてくる
「・・・うわっ!」
まずい今度こそやられる
混乱した俺は咄嗟に怪人のいる逆の方向、少女に攻撃を加えていたヒーローたちの方へ走った
その速さは、秒速だった
自分自身でも驚いている
俺は人間じゃあり得ない速度で跳躍していた
一秒も経たない間に、ヒーロー達の間を通りすぎていた
頭の理解が追い付かない
なんでこんなに早いんだ!?
だけど、必死に手を振って走ったせいか・・・
「え?・・・これ人の頭・・・・」
俺の手には、間を通った時の右手側にいたヒーローの頭部が握られていた
目に生気がなく、舌が力なく垂れ下がっている、首からは血がポタポタ流れ脊髄の一部が見えていた
確実に死んでいる
「うわあああああああ!」
その衝撃的な事実に俺は大きく叫んで、頭部を放り投げていた
「こいつ、やりやがった!」
「おちついて!あなた・・・気持ちは分かるけど!」
そこへ先ほどのパーカーの少女が俺に対し、落ち着くよう促してきた
落ち着けって言っても・・・こんなのどうしたら・・・
「今はここから逃げることに集中して!」
そうか・・・・・ここから逃げなきゃ・・・・そうだ逃げるんだ
「逃げる・・・・・逃げる・・・・逃げる・・・・」
逃げるんだ・・・・
オマエハ、ホントウ二ソレデイイノカ?
「!?」
突然頭の中に声が聞こえた
カタコトだが俺の声によく似ている
いや・・・これは・・・
俺自身の本音・・・?
「どうしてだ?」
「・・・・・・え?」
そうだ
俺はなんでここにいるんだ?
そうだ、少女を助けたいと思ったからだ
俺が逃げれば、この少女は助からないかもしれない
俺は、俺の中から聞こえた声に従おうと思った
それがもしも悪魔の声でも
少女を助けたいと思った気持ちは、嘘じゃない
「この力があれば、俺は君を助けられるじゃないか」
そう言った俺の表情は引きつっていてさぞ悪役みたいな顔だったろうな
「あんた何言って・・・」
少女は困惑の表情を隠せないでいる
「さぁこい」
俺は蜘蛛の怪人・ヒーロー達に挑発的な言葉を贈る
「なんだと!」
「ふざけやがって」
激昂した蜘蛛の怪人とヒーロー達は、一斉に俺に襲い掛かる
「知ってるか?」
「ゴキブリはな・・・」
せいぜい格闘技習ってくらいで戦闘経験や技術がない
だけどゴキブリの知識だけはある
俺はめちゃくちゃに高速で動き回る、腕を足を振って相手に引っかければいい
それだけで・・・
「新幹線並みの速度で動き回れるんだ」
「その初速は世界最強だ!」
相手の手足や頭部はちぎれ飛んでいった
この場にいる全てのヒーロー達が、バラバラに吹き飛んで死んでいった
血しぶきが少女の顔にかかる
「う・・・・ああ」
「くそ!逃げるか!」
蜘蛛の怪人だけは逃げて行った