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第八話 有力者会議




 ────


 あれから、エクスは晴れて集落の一員として認められた。

 エクス自身は何か目的を持って旅をしていたらしいが、別に急いでいる様子はなさそうだった。

 興味津々で嬉しそうにしながらエクスは、しばらくの間このグリーンパーク集落の一員となることに快諾した。

 だが……。




「……」


 沈黙して、何か作業をしているエクス。

 そんな所に休憩時間になったギースがやって来た。


「よう! エクス! お前がここに来てそろそろ二週間経つが、どうだ? ここの生活には慣れたか?」


 エクスは作業を続けながら、顔をギースに向ける。


「……みんないい人ばかりだし、集落の暮らしには満足しているよ。だけど……」


 そう言いながらエクスが行っている作業。

 高く積まれた機械の残骸の山……、エクスは残骸を一つ一つ、導線や装甲板に繊維類、各種機器類などに分解し分別を行っている最中だった。


「さすがにずっとこれを続けるのは……ちょっとキツイな。すごく退屈でしんどいし」


 

 集落に住む住民には、それぞれに仕事があった。

 機械生物を狩る狩猟隊に外敵から集落を防衛する防衛隊……だがそれだけではない。

 集落には狩猟して来た機械生物の分解、加工を行う職人業に、集落に存在する発電所、メンテナンスベースなどの施設の整備を行う整備業、さらには遠くにある他の集落にまで出向き物々交換で取引を行う商人まで存在する。

 


 エクスが集落で暮らすようになり早二週間……。

 与えられた仕事は集落の仕事の中でも最も簡単かつ単純作業な、残骸の仕分けだった。

 

「もっと刺激のある仕事がしたいな。それこそ、セリス達みたいな狩猟隊の一員とか。それに──確か僕は用心棒としてここにいるって話じゃなかった?」


 そんなエクスの愚痴に、ギースは困ったように頭を掻く。


「まぁそう言うな。狩猟隊や、防衛隊なんかは結構危険で普通だって任せられる者は少ないんだ。それにまだ二週間って言うのもある、例えどんな奴だとしても、初めは簡単な仕事しか任せられないだろ?

 用心棒として働いてもらうのも前みたいに、女王の手先が来た時だけでいい。一応客人でもある。野生機械生物まで相手させるわけには、行かないらしいからな」


「変な気遣いは要らないよ。……ああ、面倒くさい」


 彼は彼なりにしゅんとなったエクスを、励まそうとする。

 

「ははは、危険な仕事は無理だろうが、基本多くの住民の仕事はローテーション制で入れ替わることがある。お前の仕事も今度からは屋上の太陽光発電機の整備作業に回してもいい。

 今の仕事も、十分に出来ているからな」



 するとそこに、セリスがやって来た。

 ギースは彼女に声をかける。


「……おかえりセリス! そっちはどうだったかい?」


「こっちの仕事はいつも変わらないさ。ただ……」


「はぁーあ、いいよねセリスは。僕なんかずっとこんな退屈な仕事だよ」


 相変わらずエクスは不満をもらしていた。余程、退屈だったのだろう。


「エクス、仕事に貴賤はない。どれも大事な仕事だ。文句を言わず、仕事に励むことだな。

 それよりギースさん……」


 セリスはギースに近づくと、耳打ちで何やら小声で話す。一応、頭部の側頭部には聴覚センサーの類があるようだ。

 ギースは何かを聞いたのか彼女に頷く。


「ああ……分かった。今から向かう。 

 ……悪いなエクス。ちょっと用事が出来た、愚痴ならまた今度聞いてやるさ」


 そう言ってセリスとギースは何処かに向かった。


 ──こんな事なら、集落に留まらなければ良かったかも。……はぁ──


 溜息をつきながらエクスは一人、作業へと戻った。




 ────

 セリス、ギースを含む、五人の集落の有力者は、地下深くの都市管理コンピュータ本体前、つまり長老の居場所へと来ていた。

 五人の有力者と、長老を入れれば六人全員が、高い緊張を身に感じている。

 ギースは隣の、セリスに小声で話す。


「……まさか、これはあの事についての話し合いか?」


 あの事とはエクスがこの辺り全土を支配する、『人類女王』の使者に対立を挑んだ事だった。


「それ以外にあると思うか? だが、そうだとしても話し合いがどうなるのかは──俺にも分からない。集落の行く末もどうなるか……あのエクスだって」


 そもそもこんな混乱を招いたのはエクスだと、有力者の多くは考えている。それはセリスも例外ではない。

 恐らく例外はギースと長老くらいだろう。何しろ二人は女王に不満を強く持っている。つまりエクスの行動は、単なるきっかけとしか考えていなかった。


「まぁ行く末は想像つく。今更女王と話し合いなど難しいに決まっている、いつか戦うしかない。……問題はエクスだ。奴ら、変な考えを起こさなければいいが……

 幸いエクスが人間だと知っているのは、俺とギリー、セリスと長老だけだ。もし人間だと知れたら、追い出されるだけで済むかどうか」


「言葉を慎んだ方がいい、ギース。何も反乱と決まったわけではない、エクスの事も……結局はこれから決まることですから」




 

 そしてようやく、話し合いが始まろうとしていた。

 だが長老は基本聞いているのみで、こうした話し合いに加わることはあまりない。進行役を務めるのはまた別の人物だ。

 有力者の一人、やたら頭の大きく細い六本腕のマニュピレーターを持つタコのような機械人が、最初に発言した。

 彼は集落の経営を担う、言わば長老を別にすれば集落の主導者的立場な人物であり、今回の話し合いの進行役だった。


「さて、君たちを呼び出したのは他でもない。……これからの集落の行く末を話し合いたいと思ったからだ」


 六本のマニュピレーターをせわしなく動かしながら、さらに続ける。


「まず二週間前のあの一件、エクスと名乗るよそ者が女王陛下の使者を打ちのめしたことだ。あの件で我々と女王陛下の間に深い溝が出来てしまった。その対処を如何するか、君たちの意見がぜひとも聞きたい」


 すると、まるで大樽を思わせるかのような機械人が憤慨した様子を見せる。

 角ばった頭部の口元の排熱孔から、怒りを表すように高熱の蒸気を勢いよく噴き出す。


「こんな恐れ多い事など私は許すことが出来ない! 事情すら知らない余所者が出しゃばったせいで今こうして、危機に直面しているのではないか!

 大体全ての元凶である余所者を今でも集落の一員として置いて、歓迎していること自体がどうかしている! それにあの者は我々と違う存在に思える。何処から来た何者で、その正体すら分からないではないか。集落に置いておくのも……危険な気がしてならない! 

 ここは……あの者を捕え女王陛下に引き渡して許しを請うしかないだろう!」




 彼は集落外の交易と外交を取り仕切る機械人だ。その立場のせいか女王の恐ろしさを、よく耳にして知っていた。

 余所者であるエクスを引き渡すと言う選択も冷酷かもしれないが悪意はなく、これも集落の全員のために最適な方法と信じていた。──が。


「何だと!」


 これにはギースが黙っていなかった。


「言わせておけば勝手なことを! 今度の件で挑発したのは、あの下劣な女王の使者だろうが!

 それにセリスにまで手を出そうとしていた、当然の報いだ!」


「ギース! 一度女王陛下の逆鱗に触れればどうなるか、知らないお前ではないだろう? その兵力は強大で、以前にも納め物を断った集落が全滅させられた事もある。あの時は私自らが交易を行おうと向かった時だった。あるのは、ただただ破壊のみ……実に酷いものだった。

 私はただ我々の集落をあの場所のようにしたくないだけだ。どうか分かって欲しい」


「その為にエクスを引き渡すって言うのか、卑怯者め! エクスは集落を守るために戦ったんだぞ! 今度は俺たちが女王と戦う時だ、これ以上屈するなんて耐えられん!」


「……何てことを言う! むしろお前の方が勝手ではないか! 自らの我儘で、集落の住民全てを危険に晒すとは」



 意見が平行線な二人を見かね今度は別の有力者が止めに入る、今度は優しい女性の声だ。


「はいはい、ギースもそしてガインさんも落ち着いて。ここには話し合いに集まったのでしょう?」


 その姿はさながら貴婦人のように美しく、全体に着こみ広がる機械のパーツはまるでドレスのように見える。

 タコ型の機械人は安心したかのように額を拭う仕草をする。運営管理能力には長けているのかもしれないが、これでも結構な小心者らしい。


「助かったよ……リズ。私では収拾がつかなかったところだ」


「礼には及びませんわ、ウーシェイさん。それにギース、熱くなるのは分かるけど貴方はちょっと言いすぎよ」


「それは悪かった。……だけどリズは一体どう考えているんだ?」 


「確かに、こんな事態になったのがエクスちゃんのせいなのは否定できないわ。セリスちゃんを助けてくれたのは嬉しいけど、もう少し考えて行動してくれたらとは思うわね。

 ……でもエクスちゃんはいい子だし、追い出すのも可哀想でしょ? 引き渡したところで許してくれるか分からないもの。ここはまだ、様子を見てもいいんじゃないかしら?」


 ここで初めて、長老が言葉を話す。


〈ああ、今はこのまま集落に置いていても、問題はないはずだ。それにあれから二週間経つが動きは見られない。次の貢ぎ物の時期までもまだまだ先でもある、様子を見るのも……悪くないだろう。考える時間は十分にある〉


「だそうよ、みんな。他に……何か意見はないかしら」




 これには全員反対意見はなかった。


「……そう言えば、セリスちゃんは言いたいことはないかしら? 一言も口にしていないけど、遠慮しなくても良いのよ?」


 唯一、今まで話していなかったセリスは首を横に振る。


「いえ、私はこの中で一番の新参者ですから……特に言えることはありません。それに──」


 そして彼女はこう伝えた。


「──それに私はこの件について、未だ悩んでいます。確かに、エクスの存在は危険である事には同感しています。

 ですが……同時にその者については悪い気がしないと言うのも、また事実です。しばらく行動をともにした私だからこそ断言出来ます。

 強いて言うとするなら、どうかあの者に心からの温情を。それが、私からの願いとなります」

 

 確かに女王の使者との衝突に際しては、本気で追い出した方が良いとも一時は思っていた。

 しかし……後から考えればあのよそ者、エクスは悪人には思えず、有無を言わさずに追い出せるほどの非情さは持てるものではなかった。


 ──それに私とエクス……『よそ者』と言う点では、共通しているものな──


 これにはその場にいる全員が、反論しなかった。

 ウーシェイは頷く。


「勿論だとも、ここにいる以上はエクスとやらも我々の仲間だ。すぐに追い出すような真似はせん。

 では今回の会議はここで終わろう。……この問題については、改めて考える場を設けるとしよう」



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