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第七話 人類女王


 ────


 切り立った荒山に囲まれた山岳地帯。

 草木も生えず流れる水も淀んでいる。生命の痕跡は……ないに等しい。

 だがそんな場所にも関係なく、機械は動く。それも──数多く。

 辺りには数百体近い機械歩兵が巡回警備を行い、幾つも見張り台や防壁が築かれてまるで山全体が砦のようだ。

 そしてその中央には機械で築かれた城がある。いや……城と言うような生半可なものでない。まるで大型の工場や発電所、そして要塞の要素が複雑に入り混じったそれはとても形容し難い、混沌とした巨大構造物だった。




 そんな場所に機械馬に乗ったフード姿の使者が、城へと向かう。

 山道を駆け城門の前まで辿り着くと、その両側には仁王像のように立つ六メートルを超す大型ロボットの門番が二体立っている。

 頑丈な体躯に、それぞれが手に持つ巨大な槍と斧。その威圧感はいくら女王の使者である彼でさえ、感じずにはいられなかった。使者の姿を察知したらしく、門は音を立て──ゆっくりとその口を開ける。



 ────


「……失礼します、女王陛下。ご報告に参上しました」


 使者は恭しく深く一礼する。

 城に入り、ここはその奥深くの玉座の間。暗く奥へと長い空間に、左右には何本もの柱と壁にはパイプや導線が張り巡らされ様々な機器が間から生える。

 そしてその空間の奥に鎮座するのは、全身に漆黒のローブを纏った何者かだ。

 

 使者のボロボロなローブとは違い、その身を包むローブは滑らかかつ艶やかで傷一つない。座る玉座までも機械ではなく、黒瑪瑙を加工して造られた漆黒の玉座だ。

 それらは背後にある完全なる闇の中に溶け込み、その闇の中には何があるのかは──使者ですら見ることは出来ない。

 しかしそんな闇の中、ローブ姿の頭部には女性の顔を模した銀の仮面を被されている。まるで神話の女神を思わせるような美しい女性の顔が闇に浮かぶ。

 ──その人物こそ唯一の人類と名乗る、人類女王の姿であった。




 拡声機が何処かにあるのか、女王の厳かな声が反響して大きく響く。


「ダモスか。報告とは……何だ? 反乱分子、レジスタンスの件か?」


「はっ! その……レジスタンスにつきましては……」


 女王の使者ダモスはそれに口淀んだ。


「……早急に見つけ出し、一掃しろ。その為に我が歩兵の一部指揮権を貴様に渡したのだからな。最も……それは全体の百分の一ではあるのだが」


 仮面の中で、女王はクックッと笑い声を立てる。

 そしてホログラム映像が宙に映され、映像には例の機械歩兵が大量に工場内で製造されている光景が映されていた。

 機械人の集落から集めた機械の残骸、それが無数にコンベアに乗せられ溶鉱炉で溶かされる……。

 溶かされた金属は型にはめられて、機械歩兵、そして様々な兵器のパーツへと生まれ変わる。


「見ろ、我が軍隊が更に増強されている様を。私は数十年もかけてこの大陸を支配し、機械どもを支配下に置き資源を集めて来た。歩兵だけでない、武器や兵器も製造のさ中だ。

 これも……大陸のみならずその外、全世界にまで勢力を伸ばすためだ。レジスタンスはその障害となる、大したものではないが獅子身中の虫と言うではないか、その芽を摘むのがお前の仕事だ。

 それで、レジスタンスについては何か分かったのか?」


 ダモスは苦々しげに答える。


「いえ……レジスタンスの居場所は未だ、不明のままです。しかし……グリーンパーク集落において変わった存在を確認しました」


「ほう?」


「奴は私が引き連れた歩兵を何体も、一人で相手にする程強く。それに…………自らを人間だと名乗っておりました」


 その言葉に女王は反応を見せた。


「人間だと? 本当にそんな事を言っていたのか?」


「はっ! 唯一の人類の生き残りである、女王陛下を差し置いて人類を僭称する者など不届き極まりないことではありますが……あまりにも異様な者でありまして」




「私は人類女王、世界を治める資格を持つ唯一の人類……か」


 まるで何か思うところがあるように、女王は一人呟く。

 ──が、我に返った女王はダモスに指示を出す。


「とにかく今は放っておけ。グリーンパーク集落には監視兵を送り、随時様子を観察させよう。あそこには……『彼女』もいるからな」 



 しかし、これにダモスは反発した 


「私に言わせれば、その者こそ一番怪しいものだ。あの『出来損ない』の女は──」


 ダモスが反論を言い終わることはなかった。

 突然、壁から伸びる一部の尖った機器の先端から強力な電撃が放たれ、ダモスを襲った。


「ぐあぁぁぁぁっ!」


 電撃に身を焼かれ、叫び声を上げてダモスは倒れた。

 焦げたローブが黒ずみ煙が上がる。 


「……無礼者が、お前の代わりなどいくらでもいるのだぞ。

 まさか自らの立場を間違えていないだろうな? このように下賤で、愚かで、醜いお前を使っているのは単に手駒として扱い易いからだ。よもや優れた存在だと自惚れてはおるまい?」


「いえ……決して、そのような事は……」


「私の力を借り、上に立ったつもりの狐めが。何なら権限を全て取り上げ何処かの機械人どもの集落に放り捨てようか。それでもその口が利けるか、見物だな」


「私が! 私が悪うございました! どうか慈悲を! ……慈悲を下さい、女王陛下!!」

 

 起き上がれず床を這いずりながらも、必死に懇願するダモス。

 女王はそんな姿を、まるでゴミを見るかのように見下ろす。


「もはやお前には用はない。引き続き、レジスタンスの捜索を続けろ。……分かったのなら、早々と私の前から……消えろ」


「はっ…………仰せのままに」


 傷ついた身体を引きずりながら、ダモスは玉座の間から去る。



 そして一人残った女王はダモスとともにグリーンパーク集落に出向いた機械歩兵の記録映像にアクセスし、それをホログラム映像に映し出す。

 何体もの機械歩兵を余裕に一人で相手にする、銀髪の異邦人──

 その姿を見た女王は目を僅かに光らせた。


 ──この者が例の……。確かに外見は人類と相違ない姿をしている。だが──


 女王は声をあげて一人、玉座の上で嗤う。

 




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