第六話 瞬く間の戦闘
自身の触腕の先をエクスに向けた。途端、機械歩兵は一斉に襲い掛かって来る。
まずは一体、目前に槍を構え突撃して来る。
「所詮は心を持たない操り人形……手加減する必要もないよね?」
エクスは繰り出した槍の突きを難なく避け、鋭い手刀で首を落とす。首は宙に飛ばされ、胴体はよろめき──倒れる。
だが残る敵はそれを気にすることなく襲撃の手を緩めない。続けて、背後から二体掛かりで動きを封じようと掴みかかろうとする。
が、機能が停止し、力を失った先ほどの歩兵の手元から槍を奪うやいなやそのまま後ろへ薙ぎ、歩兵は二体とも上半身と下半身の悲劇の泣き別れを果たした。
一体、二体では駄目だ、それなら一気に──。機械歩兵はとっさにそう判断した。三体を前面に、そして二体を後方支援に控えフォーメーションを組む。
二体の機械歩兵は後方から機関銃をエクスに向け、更に三体の歩兵が金属棒や槍を持って襲う。三対一でエクスを相手にし後方の二体が援護射撃を行う実質五対一での戦い。この人数差で一斉にたたみかけるはずだったのだろうが……それさえ通じない。
槍を片手にエクスは迫る三体の歩兵に応戦、即座に二体の歩兵を破壊、機能停止させ金属棒を振り下ろそうとする残り一体の歩兵の両腕を薙ぎ落とす。後方には銃を構える二体の歩兵の姿。内一体が一足先にエクスを狙い……引き金を引いた。が、直前に飛んで来た金属棒が胸部に突き刺さり虚空に銃弾を空しく乱射──仰け反り倒れ、痙攣して停止した。金属棒は先ほどの歩兵から奪ったものだ。
残る一体は一気に、エクスへと機関銃を乱射するも、エクスは両腕の無い歩兵を盾にして防ぎ、蜂の巣になり動かなくなった歩兵を相手に投げた。仲間の残骸に押しつぶされ起き上がろうとする間もなく、手にした槍を突き刺し止めを刺した。
倒れた機械歩兵が持っていた機関銃も奪い、エクスは右手と左手に槍と銃をそれぞれ持って得意げである。
ここまで僅か一瞬の出来事。その間に数体の機械歩兵が無残な姿を晒す結果になった。
「さてと……どうする? まだ続けるかい?」
左手に持つ機関銃の銃口を使者へと向け、そう不敵に微笑んでみせた。
「僕も、女王と同じ……人間の同類さ。もし会うのなら伝えて貰えたら嬉しいかな」
「人間──だと?」
まだ機械歩兵は残っていると言え……あの様子ではこの異邦人の相手にならないだろう。
それに目の前の何者かは、自らを『人間』だと名乗っていた。ここは──
使者はたじろくと、機械馬に飛び乗り背を向けた。
「ええい、引き上げだ! これで終わったと思うな!」
捨て台詞とともに残った機械歩兵を率いて、女王の使者はグリーンパーク集落から去った。
「……少しだけやりすぎたかな? これはさすがに、ね……」
辺りにはエクスが倒した機械歩兵の残骸、例え心を持たない機械だとしても首や腕が切断され、胴体が抉れているなど無残な姿を晒している。
そしてこの光景に群衆はただ、唖然としてしていた。────が。
突然盛大な歓声。そして称賛の声が、辺りから湧き上がった。
「まさか奴らを追い払うなんて!」
「ああ、胸がスカッとしたぜ」
「これで彼らが少しでも、大人しくなってくれたら」
すると突然、ギリーの父親であるギースが、思いっきり強く金属の剛腕を回す。
「ははは! さすが俺の見込んだ奴だ! いい度胸をしている、まさにこの集落のヒーローだな」
「ギースさん、そう言ってくれて有難いけど……少しきついよ」
「おいおい親父、エクスだって困っているぞ。もう離したらどうだ」
「おっと! すまんすまん」
ギリーに言われてギースは腕を離す。
一方、エクスはセリスの傍へ近寄る。
「大変だったねセリス。怪我はないみたいだけど……大丈夫かな?」
「ああ、大丈夫だ。まずは君に礼を言わないとな」
「ふふっ、それほどでも」
しかしセリスは厳しい目をエクスに向けた。
「……だが女王の使者にあんな真似をして、どうなるか考えなかったのか? このままただで済まされるとは思えない、その内報復に来るかもしれないんだぞ?
そうなれば、この集落は……」
これを聞いた周囲の住民は、途端に沈み込んだ。
そして……長老も。
「セリスの言う通りかもな。幾ら事情を知らなかったとは言え──これはやりすぎだ」
確かにこの地域を支配する何者かの使者に対して、考えもない行動だったのかもしれない。先ほどは盛り上がっていた集落の住民も二人の言葉を聞いて、今では沈み込んでいる。
これにはエクスも、申し訳なさそうにする。
「それは……ちょっと考えていなかったな。ごめん、もっと気をつけていれば」
しゅんとなって謝るエクス。
「余計な事をしてごめん。君たちにはもう迷惑をかけるつもりはない、僕はすぐに立ち去ることにするよ。 ……色々と、本当にありがとう」
背を向けて立ち去ろうとするエクスに、ギリーは声をかける。
「おいおい! 立ち去るって言っても行先はあるのかよ!」
「そうだね……あの使者が言っていた唯一の人類、『人類女王』の所に行ってみるさ。僕の目的は、人間を探すことでもあるから」
だが、今度は長老が引き留める。
「君の腕は評価するが、たった一人では女王とその軍勢には敵いはしない。女王はあのような機械歩兵を何万と所有しているのだぞ? それに例え君がここから去っても、そのまま見逃すかどうかも定かではないしな。そこでだ……」
そして長老は続ける。
「私は君を、この集落の用心棒として雇いたい。あれ程の力を見せつけたのだ、ここで我々と留まった方が人類女王に対する抑止として働くかもしれない。
我々にもギースやセリスなど腕自慢の者は多い、そして君も加われば女王とて……易々と手は出せないだろう
どうだろう、もし良ければ……しばらくここに留まってくれたら?」
エクスは、それを聞いて振り向いた。
「……いいの、本当に?」
「ああ、住民達も反対しないはずだ」
長老は頷く。
そしてギースと、その息子のギリーも賛同する。
「我々だって誰一人として、女王を気に入ってはいない。人間が機械を支配する時代はとうの昔に終わったんだ!
それにその腕と度胸、ますます気に入った! 共に集落にいてくれれば心強い」
「まだお前には色々思う所があるが、ここまで来て追い出すほど鬼じゃないぜ! 俺も歓迎するよ」
見ると他の住人にしてもそれに反対する様子もないようだ。エクスは少し、嬉しそうに笑ってその厚意に応える。
「ありがとうみんな。……ならしばらく君たちのお世話になるよ。どうか、宜しく」
この言葉に、周囲からは再びの歓声が上がった。
多くの人々がエクスの事を迎え入れてくれている。しかし……全員ではなかった
セリスもその一人、みんなが歓迎している中長老に近づき小声で話す。
「本当にいいのですか? こんな事をすればどうなるか、分からないではありませんか?」
「言っただろう? 今更あの者を追い出そうと留めようと、ほとんど変わらない。それならここは手元に置いておいた方が良いのではないかね?
女王の抑止として使うのも、いざとなれば引き渡して許しを請うもまた良いだろう」
「しかし……」
「それに君を助けるために、エクスはあんな事をしたのだ。反対するのは酷と言うものだろう」
そう言われてセリスは沈黙した。しかし──何か煮え切らない不満そうな……思いつめているかのような表情で、顔をうつむけていた。