表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/58

第五十二話 敵対のセリス


「よく言ったね、クライン」


 そんな時、二人の後ろからまた別の声がした。振り返るとそこには、ある人影が見えた。


「エクス! 来てくれたんだな!」


「まぁね。何とか良いタイミングで間に合って、よかったよ」


 あっけからんとしたようにカラカラと笑う、エクス。そして玉座に鎮座する人類女王を見据えると、こう言った。


「貴方が人類女王……確か最後の人類だって、話だったね。

 初めてお目にかかれて光栄だ、と言うべきかな」


 こんな状況においてもエクスの様子は変らない。対して、人類女王は冷たく言葉を放つ。


「エクス……そう言ったな。貴様の事はシャドーに任せたはずだが、倒して来たのか。

 人類の残した最新技術の粋をもって作り出した、あのシャドーを」


 シャドーを仕向けたのは女王自身であった。その問いにエクスはふっと微笑むと。


「もちろんだとも。確かに今の世界においてはビーム兵器にバリア、相当な技術の塊みたいだったけれど、どうにかね」


「……ううむ」


「さて、と。人類女王、色々と個人的に知りたい事はあるけれど、みんなのためにもあまり時間はないから。

 だからこのまま止めてみせるよ」


 エクスはこの場で人類女王に対し戦闘態勢をとろうとする。……だが。


「ふふふふっ、悪いが私よりも先に戦うべき相手がいるぞ。

 ──さぁ、出て来いセリス。私の跡を受け継ぐ資格を持つ、女王の後継者よ」




「……」


 女王が座る玉座の奥、その闇から姿を見せたのは、シャドーによって連れ去られたセリスだった。

 鎧のような黒いボディースーツを身に着け、右腕も高度な技術で作られた精巧な、漆黒の機械腕に置き換えられていた。そして右手には一本の剣を握り、二人を見据える。


「セリス! 無事で安心したぜ。でもその恰好はどう言うことだ? どうして女王の側にいるんだよ」


 これではまるでセリスが敵に回ったみたいだ。クラインはそう感じ、詰め寄るが……。


「私はお前たちを、ここで倒す。──それが女王の後継者である私の役目だ」


 そう話す彼女の目には輝きがなく、まるで何か心を閉ざしているような感じだ。


「まさかセリスは女王に洗脳されて、しまったのか」


 自分達に敵対するなんて普段のセリスではあり得ない彼女は有無を言わさず剣を構え、三人の元に迫る。


「くっ!!」


 クラインは大剣を構えて彼女の一撃を防ぎ受け止める。……が、その一撃は重く、彼は圧される。


「何て強さだ……っ。いつもより数段も!」


「クライン、君では私をを倒すことなんて出来ないとも」


 そしてセリスはクラインの大剣よりもずっと小さな剣で、彼ごと弾き飛ばす。


「やはり、その程度か」


 飛ばされて姿勢を崩したクラインに、続けてセリスは連撃を繰り出す。自身の大剣で何とか防ぐものの戦いは一方的、防戦一方だ。

 大きな実力差、そして瞬く間に追い詰められてゆく彼。


「くそっ! それでも、僕は!」


 どうにか反撃しようと、大剣を振るうクライン。しかし──。


「甘いな」


 セリスは猫のように軽い身のこなしで攻撃を飛び退き、そしてクラインの懐にまで迫り一閃。彼の手元から剣を弾き飛ばす。


「これで……終わりだ」


 止めを刺そうとするセリス。が、その手前に多数の銃弾が飛来して、動きは牽制される。


「止めるんだセリス。お前はそんな事をする人ではないはずだ」


 マティスは援護射撃でセリスを食い止める。そして彼女が自身に視線を向けたのと同時に、銃口を改めて向ける。


「動くな。これ以上戦うなら私は──セリスを」


「……」


 しかし、セリスは全く意に介す様子もなく歩みを進める。もはや言葉は届かないのか。


「撃つしか、ないのか」


 マティスが覚悟を決めた、まさにその時だった。


「ここは僕に任せてもらいたいよ」


 今度はエクスが前に出て、長槍を手に構えてセリスと対峙する。


「──エクスか」


「どうして敵に回ったのか知らないけど、君の事は僕が止めてみせる」 


「やれるものなら……やってみればいい!」


 エクスに向かって剣を振るうセリス。

 彼女の剣裁きはまさに達人、剣筋は鋭く、早く的確な斬撃をいくつも繰り出して来る。

 

「やっぱり集落で狩猟隊の隊長を務めていただけある、流石だ。……けれど」


 しかしエクスもまた負けていない。

 長槍を振り回し、セリスと対等に渡り合うその姿。二人は互いに互角の戦いを繰り広げていた。



 セリスの手元を狙った槍の突きを寸前で避けた後の彼女の剣の横薙ぎ。が、それを槍の柄で防ぐエクス、さらに次の瞬間に回し蹴りを放った。セリスも蹴りを返し、二人の蹴りが同時にぶつかり合う。

 互いに距離を離し、それぞれの武器を構えて睨み合う。


「実力は互いに互角……と言った所だね」


 エクスが微笑んでそう言うのに対し、セリスは相変わらず無表情で冷たい眼差しのままで。


「だが戦いの動きは覚えた。確かにエクス、君は手ごわい相手とは思うとも。

 ……が、次で決めさせてもらう!」


 剣と槍、二つの武器の刃先と二人の視線の睨み合いがしばらく続く。そして──。



 キィン!



 同時に踏み出し、エクスとセリスの刃が共に交叉する。

 その後二人は、互いを背にして制止した。


「──」


 長槍を構えたままのエクス。だったが……次の瞬間、パキンと乾いた音がしたと思うと槍先は粉々に砕け、破片が散らばる。


「やるね、セリス」


 武器を失ったエクスはフッと、微笑みを浮かべる。対してセリスは剣を振り下ろした態勢のままで。


「……」


「でも、この勝負は──僕の勝ちだよ」


「……く……っ」


 剣を手元から落とすセリス。そして彼女の腹部には、鋭く深々と貫かれた刺し傷が穿かれていた。

 そのまま力を失い、倒れる彼女。マティスそしてクラインはその勝負の結末を、見届けた。


「倒すしかなかったにしても、そんな……セリス」


 例え敵に回ったとしても、元々は同郷の仲間であった。ショックを受けるクラインだったがエクスは安心させるように伝える。


「心配しなくても、セリスは無事だよ。スクラヴドラグの件の時に彼女の修理をしたりもしたから、身体構造はある程度覚えている。

 僕が貫いたのは動力源から伸びるエネルギーチューブの一本、それ以外の大事な部品は傷つけていないから」


「うう……っ」


 見ると確かにセリスは倒れているものの、まだ機能は停止しておらず意識はあるようだ。


「これでもうまともには動けないはずだよ。……無事だったのは良いけれど、まさか敵対するなんて。

 女王、もしかして洗脳でもしたのかい?」

 

 エクスはそう言うと改めて、人類女王に対峙する。


「く、くくくくっ」


 しかし女王は気味悪く笑い声を上げてこたえる。そして衝撃的な言葉を続けた。


「洗脳だと? とんでもない、セリス……そう呼んでいたな。彼女は私の情報をコピーした機械人形、つまりはもう一人の女王──私の後継者として作り出した存在である」





「なっ、何だって!!」

  

「セリスは人類女王が作り出した、存在なのか!?」   


「……」


 この言葉にクライン、マティスは驚き、エクスは沈黙する。そして……倒れていたセリスは三人に、口を開く。


「すまない……こんな、事に」


「セリス、これは一体どう言うことなんだい?」


「くくく……良かろう、奴らの問いに答えてやれ」


 女王は面白げにセリスへと説明を促す。そして、彼女はゆっくりと話し出した。


「女王の言葉通りだ。私は人に似せた機械人形に女王の情報をダウンロードされた、言うなれば人類女王のコピーだ」


「まさか、そんな……じゃあセリスはずっと俺達を、騙していたのかよ!」


 クラインは半ば責めるような口ぶりで問い詰める。彼女は申し訳がないような、悲し気な表情を浮かべた。


「結果的には、そうだ。だがコピーとは言え私は……私だ。だからこそ──」


「驚いたぞ。コピーを生み出したのは良かったが、誕生と同時に暴走して逃げ出した時には。

 どうにか止めようとしたが、結局は逃してしまった。更には腕の一本を破損させた上で……行方不明になってしまったのだからな。まさか見つけた時には、ガラクタどもにまじって暮らしていたのだからな」


 嘲笑するように、女王はそう話す。そしてマティスも成程と頷く。


「だからセリスは他所から来たのか。……過去の事情は詮索しなかったが、そこまでの事情とは」


「マティスにも、クラインにも……そして他のみんなにもすまなかった。何も言わず隠していて。

 だが、そんな私でも集落の皆は受け入れてくれて。優しくて、仲間だと……私の居場所になっていた」


 エクスたち三人は、黙っているしかなかった。確かに出自こそあれセリスも確かにグリーンパーク集落の一員であった。それは──きっと嘘ではないのだ。


「だからこそ、こうするしかなかった。女王の力は強大で勝ち目はない。だが、私が女王になればグリーンパーク集落の全員は見逃すと言った。

 せめてみんなを……仲間を救うために、だから……」


 拳を握り、悲しそうに言うセリス。彼女は彼女なりにずっと──必死に守ろうとしていただけだった。責めるなんて、出来はしなかった。

 クラインは倒れている彼女にそっと近づき、腰を下ろして優しく言う。


「それはセリスとの間には色々対立はあったかもだけどさ、でも僕たちの……仲間なのは変わりない。

 セリスは休んでな、女王は僕達が倒して終わりにする。終わらせて一緒に帰ろう、故郷──グリーンパーク集落に」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ