第五十話 シャドーとの決着
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ダモス率いる多数の機械兵士の守りを突破して、エクス、クライン、マティスの三人は城の上層を突き進んでいた。
「追ってくる機械兵士は……どうにか巻いたようだ」
マティスの言う通り、さっきまで追って来ていたはずの機械兵士の姿はなくなっていた。恐らく一時は追跡を逃れたのだろう。
「ああ、みたいだな。けれど多分、ほんの一時しのぎに過ぎないだろうな。既に僕達の事に気づかれているし、追跡は決して止めない。……ここまで来ればもう逃げ場もないしね
」
敵である人類女王の城にここまで潜入した以上、今更逃げ出す事は叶わない。女王を倒して全てを止めるしか、手はない。
そしてクラインの言葉に、エクスはこう言った。
「でもこの辺りは邪魔する機械兵士もそれに防衛機構もないみたいだね。マティスさんの地図の通り進んでいけば……きっと大丈夫」
「そうなのかエクス。だけど、それならそれで、もう行くしかないよな。
俺達の手で──必ず倒す」
「クライン、君の言葉は正しい。女王を倒して、全てをここで終わらせるしかない」
クライン、マティスはそう決意し……エクスも、また。
「……だよね。みんなのためにも、頑張らないとかな」
三人それぞれ、思いは一つ。
多くの機械人を苦しめ、支配に置いていた自称最後の人類……人類女王。彼女を倒して決着をつけると。
そして、進んだ先。今度はまた別の場所に辿り着いた。
何もない大きなホール、空いた空間。道はそこからいくつも分かれ、女王の元に通じるのはその中の一つだろう。何より──。
「嘘……だろ、よりにもよって…………あいつがここで立ちはだかるなんて」
「ここに来たのはお前たち三人、か。──まぁいい。また会ったな、エクス」
ホールの中央、そこに待ち構えていたのは、黒い機械の鎧を身に纏った女王に仕える黒騎士、シャドーだった。
「シャドー、君にまた会う事にだなんて、ね」
そして二人より前に出て、シャドーに対峙するエクス。
「女王の命だ。エクス、お前をここで止めろと、な。それに我自身、決着を望んでいた。……覚悟するがいい」
シャドーは二人に目もくれず、エクスを睨む。どうやら狙いはその一人だけのようだ。
「成程ね、そう言う事なら話は早い」
ふっと微笑んでエクスは、槍を構えてシャドーと対峙する。
「ここは僕に任せて、二人は先に女王の元に向かってよ。彼は僕一人で大丈夫だからさ」
クライン、マティスはこの言葉に躊躇う。レジスタンスに続いてエクスまで置いて行く事になるなんて……けれど。
「──もう何も言わないさ。エクスがそう言うのなら、頼んだよ。……だけど」
「分かっている。無事に倒して、すぐに追いつくさ」
エクスの言葉を信じ、二人はそのまま先へと進んで行った。
「……」
「おや? やっぱり二人には興味がないみたいなんだね。あっさり女王の元に行かせるのを許すなんて」
クラインとマティスが先に進むのを、あっさりと見逃したシャドー。
「ふっ、たかがあの程度、どうとでもなるだろう。問題は……お前だ、エクス」
シャドーはその黒い仮面をエクスに向けて、深紅のビームソードを展開して構える。
「お前の存在はあまりにも異常だ。女王陛下の元には……行かせはしない!」
そう言うやいなや、シャドーは一瞬でエクスに距離を詰め、ビームソードで薙ぎ払わんとする。
「っと!」
エクスは反応して横に飛び、斬撃を避ける。同時だった、シャドーの斬撃はエクスがさっきまでいた場所のすぐ後ろにあった壁面と床を抉り取り痕を作る。
「ひゅう、これはまた凄い技だね。やっぱり」
「何をとぼけている、お前は!」
シャドーの猛攻は続く。手にしたビームソードを振るい、次々とエクスに向けて斬撃を放ち追い詰める。彼のビームの刃の鋭さは凄まじい。例え一撃でも喰らえば一たまりもない。
一斬一斬が必殺の一撃。対してエクスはただ攻撃を避けているばかりだった。
「確かに攻撃は凄い。さすが女王の配下、凄い装備だ」
「おのれっ!」
攻撃が命中せずに焦るシャドー。途端、今度は距離を離し左手の平をかざす。
「ならば、これで吹き飛ぶがいい!」
間髪さえ入れず、その手の平から最大出力のエネルギーの塊がエクス目掛けて放たれる。莫大な出力のエネルギーと衝撃、それは辺りを巻き込み、消し去った。
後に残ったのは先ほどよりも削り飛ばされた痕と、壁を大きく穿った穴。
「──ふっ、やったか」
エクスを今の攻撃で消し飛ばしたと、シャドーはそう思った。……だが。
「これはどうかな?」
「!!」
突如シャドーの後ろから、エクスが長槍を構え突撃を放つ。
あの瞬時で後ろに回り込むと同時に、攻撃を繰り出したのだ。けれど──槍の一撃は見えない壁、エネルギーにより形成するフォースフィールドにより弾かれる。
「その程度の攻撃など」
「やっぱり、効くわけがないよね」
シャドーは再びビームソードを手に斬撃を放つ。それを、後方に飛び退いてエクスは避ける。
「……」
二人はそれぞれ面を合わせて向かい合う。そして──その中でシャドーはある事を尋ねた。
「エクス、お前は人類……人間であると、そう言ったな」
この問いに対する、答えは。
「もちろん、僕は正真正銘人間さ」
「くくっ」
だがシャドーは何やら笑い声のような音を立てた。
「人間だと? お前のその動き……力、何より機械人の中にいながら平然と溶け込むその様子。本当は一体、何者なのだ?」
対してエクスはしばし沈黙していた。……が、ふいに口角を上げてにやっと笑うと。
「……ふふっ。まぁ、いいかな」
途端、エクスは武器も持たず構えて、シャドーを見据える。
「どう言うつもりだ?」
シャドーの問いに対する……答えは。
「みんなには早く追いつくと、約束したからね。だから特別に──少し僕の力を見せてあげるよ」
「ふざけるなっ!」
「時間がないから一瞬で、終わらせる」
ビームソードを構え、斬撃を繰り出したシャドー。高速かつ鋭い、本気の一撃……だが。
「──!」
振り下ろした光の刃はエクスを狙った……が、その先には何もなく、空振りした。
「馬鹿……な、何故!?」
「……ふっ」
瞬間、エクスはシャドーの横をすり抜けるようにして背後にいた。
その右手から伸びるのは──シャドーと同じ光の剣の輝き。シャドーは振り返りそれを目の当たりにした。
「やはり、お前は…………くはっ!」
その時、シャドーを守っていたフォースフィールドが砕け、ガラスの破片のように散った。更に──その漆黒の機械鎧にも、腹部に一閃……斬撃を受けて。
激しく電気のスパークをまき散らしながら、頭部をエクスに向けると。
「女王陛下──申し訳、ない」
最後の言葉、呟くと同時にシャドーの上半身はずるりと下半身からずれ……大爆発を起こした。
恐らく、これがシャドーの最後だ。
「悪いね。でもその力は多分……今の世界には、不要なものだと思うから」
せめてもの謝罪の言葉。爆発して燃え上がる炎を背にして、エクスは歩き出す。
行く先は人類女王の元だ
「さて、と。クライン達も気になるし、女王も。──人間の代表として、決着をつけないと」




