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第四十八話 潜入作戦


 エクスとクライン、そしてマティス……レジスタンスのメンバーは共に、ジープに乗り荒野を進む。

 荒地を走行する四輪の乗り物、それに乗って女王がいる城へと向かうが。


「車での移動はここまでだ。ここからは歩きで城へと向かおうか」


 女王の城があるのは切り立った山脈地帯の中心にある。車は山脈地帯の手前に止めて、そこからは歩きで移動する。

 何しろ、ここからは女王の監視の目もあり車では目立つ、それに山岳を進む事は困難で……自分達の足で進むしかない。

 



「ここが……最後の人類、人類女王のいる城なんだ」


 山脈を進んだ先、エクスが初めて目にした女王の城。

 それは黒光りした、墓石のような四角柱を幾つも集めたかのような機械仕掛けの建造物。夜の闇の中、表層が輝く城の姿が浮かび上がる。……それに。


「見ろよエクス。城の周囲、機械兵士があんなにいるぜ」


 クラインの示す先、そこには数えきれない程の機械兵士が整列し、城の周囲一杯に埋め尽くされていた。


「あれが……俺達の集落にやって来るのかよ、冗談じゃない」


「貴殿らの集落だけじゃない、ラグーンサイド集落や他の機械人の暮らす集落にもやって来る。

 全ての機械人を殲滅するためにだ」


「だからこそ──何としてでも止めなくては」


 ディーゴ、そしてマティスも強い決意をもとに言う。


「けど、ディーゴ」


「どうしたのだね、エクス殿」


「肝心の潜入方法だけれど、考えているの? 気付かれずに城に入りそして女王の元にまで……可能なのかい?」


 確かにこの厳重な態勢の中、兵にも気づかれずに女王へと辿り着き、打ち倒すと言う事は不可能とも思える。だが、ディーゴはもちろんと言うかのように頷く。


「もちろんだとも。けっして考えなしに来たわけではない。

 吾輩らレジスタンスは秘かにこの辺りを調べていた。万一、このような状況になった時の為にだ。その結果……この近くに城の地下にある工場へと繋がる排気口の出口が付近にある事が分かった。そこから……城の内部へと進めるはずだ」


「成程、分かったぜ。けどよ、そこから先はどうするつもりなんだ?」


「あの女王の城は、かつて人類が使っていた大型の研究施設を改造したものだ。我々はその図面も手に入れている」


 ディーゴは懐から数枚の図面、各階層ごとの地図をクラインに見せる。


「女王がいるのは恐らく、上層の中央制御区画だろう。これにそってルートは一応は用意した……が」


「……が?」


 これに僅かに沈黙するディーゴ。そして、こんな事を。


「しかし既に、女王は施設を大きく改造している。……地下の工場も元々は存在していない。この地図も、どれだけあてになるか分からぬ」



「それは、困ったね。本当に女王の元にたどりつけるか怪しいんじゃない」


 つまり、用意したルートも今やどうなっているのか怪しい。エクスさえも心配になる。


「申し訳ないクライン殿、エクス殿も。しかし……もうそれしかない。不安要素もあるだろうが、出来る事をするしかない」


 それでもディーゴの言う通りだ。放っておけば女王の軍勢が辺り一帯を蹂躙する、やるしかないのだ。エクスは仕方ないよなと言うように頷き、一方でクラインもため息一つつきながら。


「はぁ。でも、仕方ないか。その時はその時でどうにかするっきゃないよな」


「すまない、改めて。

 ただ、城に入った場合……兵士や監視システムがある事も想定される。その為の人員も吾輩らにはいる。──アービィ殿」


「……は、はい!」


 ダモスに呼ばれて現れたのは、小柄な機械人の少女だ。

 背中にカメのような円盤状に機械を備え、ボブカットの髪型で丸眼鏡をかけた……おどおどとした雰囲気の、セリス同様に本当に人間そっくりの機械人の少女。若干緊張している感じだけれど、それでもこうしてついて来たと言う事は。


「こう見えても彼女も、かなりの実力がある。戦闘技術も勿論、それに我々にない特殊な力……ジャミング機能も備えている。

 彼女の背に備えているのはその増幅装置。これを使えば監視の目をある程度妨害する事が可能なのだ。……最も、妨害されている事さえ気取られるのも危険でもあり、多用出来ないものだが」


「でもスゲェぜ! えっと、アービィと言ったか。頼りにしてるぜ」


「あ、あ……私も、お二人の事は聞いて……ます。クラインさんに、エクスさんも。頼りにしています、です」


 そんな風に話す彼ら。エクスは改めて状況を把握する。


「とにかく、僕達は今から──城にだね」


 よく見ると少し向こう側に、話していた排気口が見える。


「あそこからってわけだな、それじゃあ行こうぜ。待ってろよ女王! それに、セリスも」


 クラインの言葉に、エクスもまた頷いてこたえて……城へと通じる道を見据えた。




 ────


 エクスたちは排気口の中を歩き、進む。話では城の地下にある工場、機械兵士に武器、兵器を大量生産している生産拠点通じているようだが。とにかく進み、そして……辿りついたのは。


「ようやく辿りついたな。やはり凄いな、これは」



 目の前の光景に、クラインは思わずつぶやく。

 出口は高い場所にあった。下を見下ろすとそこに広がっていたのは、見渡す限りの生産プラントであった。各部バラバラのパーツごとに生成、組み立てられ、一体の機械兵士へと組み立てられる様子が見える。

 様々な機械、流れるコンベアにアーム、マティスはこの光景に呻く。


「こうして、奴らは作られていたのか。そしてその材料は……くっ」


 光景の端に映るのは、コンベアに乗って流れるジャンク、金属のガラクタの山。それが溶鉄炉に落とされ、溶かされ、新品の機械兵士のパーツへと生成されてゆくのが見える。

 そして流れ、溶かされてゆくジャンク……その幾らかには。ディーゴはそれに気づき、目を少し伏せる。


「吾輩らの同胞が、あんな形で……利用されているとは」


 ジャンクに混ざっていたのはディーゴやマティス、クラインらの同胞である機械人の亡骸……つまり残骸だ。対してクラインは怒りを隠せずに、一言。


「許せねぇ! 僕達の仲間をああして、自分の手先に作り替えているなんて。女王の奴、絶対に叩きのめしてやる」


 怒りを露わにしているのは彼だけではない。他のレジスタンスもまた怒りを露わにし、嘆き悲しんでいた。


「クライン殿の思いも、皆の気持ちも分かる。が、我々は実際その為に来たのだ。口で言うよりも先に行動あるのみなのだ」


 ディーゴはクラインを、そしてレジスタンスの怒りをおさえる。彼は工場の周囲を見渡すと、先んじて現状確認を優先する。


「……機械兵士もかなりの数揃っている。見つからずに進めるものだろうか、いや、少しなら見つかった所でまだどうにでもなる。

 そして──肝心なのは、先へと進む道だが」


 そう言って彼は、ある一か所、場所を見つけた。


「見つけたぞ。あの左奥、エレベーターシャフトがある。あれそのものは使えないがその傍には別に上に通じる穴……非常孔がある。そこから行けば、女王の元へと近づけるはずだ。

 地図にもその痕跡が記されている。あそこまで行けば」


「だけどさ、たどり着くまでに機械兵士が見まわっているけど。あれに見つからずに本当に突破だなんて出来るのかい?」


 エクスの言う通り、非常孔のあるエレベーターシャフトまでには何体かの機械兵士が巡回していた。この人数で見つからずに進むだなんて、不可能に近い。


「何、この人数なら心配しなくてもどうにかなるだろう。

 ……アービィ殿、任せても大丈夫かね」


 ディーゴに言われ、さっきの小柄の機械人の少女、アービィはどきっとしながら答える。


「大丈夫……です。私に、任せて下さいです」


「おいおい、やっぱ大丈夫かよ? 彼女のおどおどした様子を見てると心配になるぜ」


 クラインは心配げであるけれど、対してディーゴは大丈夫だと伝える。


「平気だとも。ああ見えても彼女の腕は本物だ。──さぁ、とにかく信じて先に行こうではないか」




 工場の中、歩けそうな通路の中を進む彼ら。

 左右には機械兵士の製造され続け……その端を、すると。


「……っ! 早速だねっ!」


 レジスタンスの存在に気づいた三機の機械兵士、それらが目の前に立ちはだかる。


「まずいぜエクス! 見つかったのなら、女王に存在を知られちまう! せっかくの奇襲が……」


 慌てるクライン。けれどそれをよそにディーゴは前に出て、自信の武器である大斧を大薙ぎして三機とも撃破する。


「これで良し、だな」


「でも見つかったんだぜ!? いくらすぐ倒したからと言っても……」


「問題ない。その為のアービィ殿だ。──さて、問題ないだろうか?」


 ディーゴは後ろでもじもじしているアービィに視線を向けて声をかける。彼女ははっとした感じで。


「はい……です! 私のジャミング機能は問題なく働いています。それは……さっきの機械兵士にも。ディーゴさんが機械兵士をすぐに倒した事で、私達の事は女王には情報は届いていないはず、です」


 つまり、アービィのジャミング機能が働いているうちは、レジスタンスの存在は知られる事はない。


「……けど、あまりジャミングで妨害すると、その異常が察知されるかもですから。だから……あまり長く使えるわけではないのですが、でも──」


「戦いが避けられない状況において、彼女の能力はかなり有効だろう。それに我々の力なら多少の機械兵士なら秒殺出来るのだから」


 ディーゴの言いたい事はエクスたちにも分かった。つまりアービィのジャミングで交信を断絶している間に、機械兵士を片付けると……そう言う事だ。


「成程ね、それはいい。──おかげでサクサク進めそうだよ!」


「あっと、でも、さっき言ったように……注意してくださいね。私のジャミング……あまり多く使えるわけではありませんから」


 エレベーターシャフト傍の非常孔まであと少し。あそこを抜ければいよいよ──城の内部だ。


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