第四十七話 突撃、女王の城へ
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ディーゴの考案した、打倒女王のための作戦は次の通りだった。
既に人類女王が鎮座する城には、無数の機械兵士が機械人を殲滅するために準備を整えていた。それに正面から挑むのはまさに自殺行為、だからこそ、ディーゴら少数精鋭の機械人による隠密行動。気づかれないように城に潜入し直接女王の元へと向かい、そして打ち倒す作戦だ。
要は暗殺……それに近い。勿論レジスタンスも以前から計画していた。が、女王を倒す少数精鋭にしろ、それに十分な戦力が自分達にあるのかすら怪しかった。しかしレジスタンス、特にディーゴからしてエクス、クラインはかなりの戦力になると考えていた。
あの女王の部下であるダモス、シャドーの両名を退けた事はまさに希望。加えて女王による総攻撃が迫る中、今こそこれに賭けるしかなかった。
「……私も、兄さんと一緒に」
「悪いけど、ミースは待っていてくれ。行くのは俺とエクスだけで十分だ、きっと女王の奴を倒して無事に戻ってくるからさ」
「約束だよ。兄さんも、もちろんエクスさんも」
「もちろん。ちゃんとみんなで帰って来るからさ」
クラインと、そしてエクスはその作戦を受け入れ、今は二人とも出発の準備中だ。
装備を整えながら、心配そうなミースにそう言って励ます彼。けれど、実際は二人だけではない。エクス達を周囲から見守るグリーンパーク集落の機械人。もし作戦が失敗して再び機械兵士が襲って来たらと……考えると。
そう、誰だってもはや安全ではないのだから。
「大丈夫だぜミース。クライン達ならきっと大丈夫だ。だってみんな合わされば……目茶苦茶強いんだからよ」
ギリ―もまた、彼女と自分自身を励ますように言う。
「ああ。僕もどの道、女王の元に乗り込もうかって考えていたから、丁度いいよ」
そんな冗談か本気か分からないエクスの言葉。でも、相変わらずなその態度は今は頼もしい。
「だよな! ……けど、セリスの事も助けて欲しい。シャドーにさらわれてきっと女王の所にいるはずだ。──無事でいて欲しい」
「……」
もう一つの気がかり……さらわれたセリスの事もある。女王は何か目的があって彼女をさらったのだろうが、分からない事だらけだ。
「きっとセリスも大丈夫さ。そう簡単にやられる人じゃないだろ、平気だって」
けれど今はそう信じるしかない。信じて、セリスの事も助けに向かうのだ。
また二人の他にも出発の準備をしている者もいる。ディーゴとレジスタンスなどからの選りすぐりの精鋭十数人。……その中にはレジスタンス以外に各集落から募った有志が数人、この集落からも──。
「エクスにクライン。二人とも準備は済んだかい?」
そう言ってやって来たのは、武器、装備を販売していたマティスだった。
カマキリに近い身体、頭部を覆うプロテクトアーマーと、計四本の腕にガトリング、バズーカ、機関銃を二丁と言った重火器を装備している彼女。背にはその予備弾倉も備えている
「ああ! それにマティスさんが用意してくれたこの装備……なかなか良いよ」
クラインは微笑んでこう話す。彼も、エクスもマティスの用意した装甲服を纏い、それに二人の武器でもある大剣とスピアも改めてチューンアップがなされていた。
装甲服はあまりがっしりしない感じで、出来るだけ二人の身体に合うように作られており、よく似合っている。
「そうだね。動きやすい感じだし、かなり丈夫そうだよ。やっぱり頼りになるね、マティスさん」
「ははは! そう言ってくれると嬉しいものだ」
マティスは気持ちのいいくらい豪快に笑う。けれど、ひとしきり笑った後彼女は真面目な様子で二人に話す。
「……さて、しかしこれから女王の城に侵入するわけだが、正直かなり危険だと言う事は理解しているかい?」
彼女の言う通り、いくら武装をした所で無数かつ強力な兵力、戦力を持つ女王の居城に乗り込むなど……無謀に等しい。
だからこそ周りも緊張した空気を漂わせている。クラインはギリ―やミース、他の周りに聞こえないようにこっそりと答える。
「まぁね。みんなには言えないけど……正直、無事で済むかも自信がない。
みんなを守るために女王は必ず倒す。もちろん、セリスも助け出す。けれどそれを引き換えに、犠牲は……大きいかもしれないから」
「……クライン」
「けどさ、やるからにはやっぱり、無事に帰りたいよな。全て無事に片づけて必ずここに戻って来たいよ」
クラインもまた、気分は固めている。いつだって戦う事が出来ると。そしてこの作戦の指令官となったディーゴが現れてクライン、エクス、マティスとそして今回の作戦に加わる他のメンバーを見まわす。
「──準備は出来たか。一刻の猶予もない、いよいよ我々は出発する。
心すると良い、これが……恐らく我々の最後の決戦だ」
既に準備は整っている。女王を倒すために……いよいよ旅発つ。
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「……うっ」
女王の手下によって捕らえられたセリスは、目覚めた。
手下──シャドーにより捕らえられ、眠らされていた彼女だったが、目覚めた場所は暗い何処かの部屋であった。
──ここはどこだ? 暗くて、寝かされた台以外には何もないような場所で。いや──
「セリスと言ったか、やっとお目覚めか」
部屋の壁に立っていた、鎧を纏った人影。それはシャドーの姿だった。
「お前は……っ。どう言うつもりだ。それに──」
セリスは改めて自分の姿を見た。
その恰好はいつの間にか黒と灰色を基調にした立派な、鎧のようなボディースーツ。それに右肩に取り付けられた腕も、高度な技術で作られたハイテクかつ、元の身体とも違和感のない洗練されたものに取り換えられていた。
「色々、驚いているのだろうな。だがお前に説明するのは我の役目ではない」
そう言うとシャドーは彼女に背を向け、ついて来るように促す。
「目覚めたのなら丁度いい。我の後をついて来るといい。女王陛下がお前に会いたがっている。……何故だか分かるか?」
「──」
途端、セリスは何かを悟った様子で沈黙する。
「少なくとも、自分の事については知っているのだろう。
──覚悟を決めるといい、女王の正当な後継者よ」
そうして彼女はシャドーの後をついて行き、闇の中へと消えた。




