第四十六話 炎上する集落
────
「セリスが、まさか」
「そんな事が……でもどうして」
セリスがシャドーによって連れ去られた事を知ったギリ―と、それにミースも驚愕した様子だった。
もちろんクラインも、エクスもいまだ信じられない様子でいた。
「ああ。僕とエクスがいながらも、情けないぜ」
「……」
「けどよ、セリスも心配もだけれど、僕たちの集落もだぜ。
もうすぐ着くけれど……あれは」
四人が進む先にはグリーンパーク集落が、けれどその方角からは黒い煙が幾筋も立ち上っているのが見える。全員はそれに嫌な予感を覚える。
「まさかそんな、嘘だろ!?」
「落ち着けよギリ―! けれど、あれは確かに俺たちの集落からだ。……もうすぐ近くだから、急ぐぞ」
クライン、エクス、それにギリ―とミースは道を急いだ。……その先に広がっていた光景は。
────
「……こんな、事に」
真っ先についたクラインは目を見開き、唖然とした様子で呟いていた。
どこもかしこも無残に破壊され、草木も全て焼かれた、変わり果てた集落の姿。広場中央にあった大樹も、今真っ赤な炎に包まれ燃え盛っていたのだ。
「嘘ですよね。……こんな事って」
「ひどいやられ様だね。ここまでするだなんて」
「女王の兵士にやられたのかよ。じゃあ、みんはどうなったんだよ!?」
三者三様に言葉を呟くミース、エクスとギリ―。同じくクラインも驚きこそしていたけれど……しかし、三人に比べれば落ち着いていた。
「見た所ひどくやられているみたいだ。けれど、みんなの残骸はない。……と言う事は」
「──みんな、よく戻って来てくれたな」
そんな中、四人の真横から声が聞こえた。見るとそこにはマネキンのような人型姿が立っている。それはグリーンパーク集落の地下に存在するかつて都市の管理を任された人工知能、グリーンパーク集落の『長老』が操る人型端末だ。
「これは、長老……だよね」
エクスがそう聞くと、人型端末──長老は頷く
「ああ。集落はこの通り、酷い有様だが私は無事だ……他のみんなも。兵士の襲撃をいち早く察知し、安全な場所へと避難させた」
「良かったぜ。本当に、無事なんだな」
「私も安心しました。誰も犠牲になっていなくて」
ギリ―とセリスも安堵の様子を見せる。そんな中で長老はこうも続ける
「君たちの事も……セリスがさらわれた情報も既に得ている。君たち、特ににエクス。こちらにも色々と話したい事がある。ここでは何だ……まずは私について来てほしい」
────
長老について行き、四人は集落から外れた目立たない廃墟の中に入る。
壊れかけの廃墟、瓦礫で覆われている床をどかし、その下の床の一部を外す。そこには地下へと続く扉があった。
「集落の人々は地下へと避難してもらった。本来私は大都市を管理する人工頭脳であり、万一の時に備えて安全対策も万全にされている。いつもの地下に通じる道は封鎖し、その防壁は女王の兵士でも簡単には破れまい。防壁自体も固く、それを幾重にも張っているのだから」
「この集落の安全対策は、結構高いんだぜ。……俺も、副隊長として非常時にはそうした防御策がある事は知ってはいた」
「兄さん、知っていたんだ。なら教えてくれたら良かったのに」
「悪いなミース。けど、俺も半分忘れかけていたんだ。何せ使う事はないと思ったし、生まれてからここまで集落が大変になるなんて考えもしなかったしさ」
「でもクライン、現に今大変な事になっているじゃないか。……けど、ここまでになる事は僕だって、思わなかったから」
エクスもまた、いきなりここまでになるとは想定外だった。しかし、なってしまった物は仕方ない。後の祭りだ。
非常時用の隠し通路、扉を開けてエクス達は下へと降りて行く。垂直降下、一本道の階段を降り、途中何度か入り組んだ道を歩き、再び階段で降りる。その先に……一つの扉に辿りつく。
「ここは元々、物資保管用の大倉庫であった。今は仮の避難場として使っているが」
解説する長老、そして扉は自動でゆっくり、開いてゆく。恐らくは長老が扉のシステムにアクセスしたためだろうか。とにかく扉は開き、中の様子が見えるようになる。──そこには。
「君たちも、無事で良かった」
そこには百人以上もの機械人の姿があった。その中の一人、武器と装備を店で売っているカマキリのような機械人、マティスが声をかけて来た。
「マティスさん! あなたもここに……」
「見ての通り、兵士の焼き討ちにあって私たちは全員避難して来たのさ。見てのとおり酷い有様だが、犠牲が出なかっただけましだろうとも」
クラインも、副隊長らしくこんな話を。
「見た所相手は集落の破壊が目的みたいに見えた。けれど、どうして今こんな真似をしたのかが分からない。
マティスさんはどうしてなのか、分かるかい」
たしかにいきなりの襲撃、原因は分からないでいた。するとそんな中、人込みの中から複数人の機械人がエクス達の前に現れた。
「その事については吾輩が答えよう、クライン殿……エクス殿も」
現れたのはレジスタンスとして別れたディーゴだった。それに彼の周りにいるのは、同じくレジスタンスのメンバーだった。確かシャドーとの戦いの後で女王の目から隠れるために姿をくらませていた、はずだったが。
「ディーゴさん、どうしてここに」
「まじかよ。まさかこんな所で」
「ラグーンサイド集落以来だな、エクス殿にクライン殿。いきなりの事でさぞ驚いた事だろう」
ディーゴも、それにレジスタンスも武装に身を固め、ただならない状況であった。エクスさえ状況に、理解が追い付いていないのだから。長老もそれを察したらしく……。
「さて、まずはどこから話すべきか。……集落の襲撃からだろうな、最初は」
前置きにそう言うと、長老は話を続ける。
「君達も見ての通り、集落は女王の兵士によって襲撃を受けた。前触れもなく兵を派遣して一方的にだ。……だがここだけではない」
「他の集落も、無論ラグーンサイド集落も襲撃を受けたと、吾輩ら以外のレジスタンスからも連絡があった。
恐らくほぼ同時に、侵攻を開始したのだろう。我々を滅ぼすつもりなのだ」
「は……ははは。でも大した事ないじゃないか。ほら、みんなこうして無事なわけだし」
ギリ―はこう話しはした。けれど、ディーゴは首を横に振る。
「残念だが……あれはあくまで、第一波に過ぎんのだ。まず既存の兵力で周囲の集落を一斉に攻撃し損害を与えた後……続けて第二波、より大兵力で、本格的に我々を殲滅するつもりなのだ。そうなればここも一たまりもない」
彼は半ば絶望したかのように、息を吐く音を立てる。
「……女王の居城では、そのための大兵力が用意されている。このままでは危険だ、だからこそ──貴殿らの力を借りたい」
「僕達の、力を」
エクスの言葉。そしてディーゴは更に、ある事を伝える。
「もはや一刻の猶予がない。このままでは機械人は女王によって滅ぼされる。その前に……女王を倒すしかない」
そして彼はエクスと、クラインを交互に見ると。
「その為には二人の実力が要る。だからこそここまで来たのだ。
皆を救うために……協力して欲しい」




