第四十五話 さらわれたセリス
──しかし。
彼女に迫る触手は、細い光筋が一閃したかと思うと──全て切断された。
「……えっ?」
セリスは一瞬の出来事に驚いた。もちろんクラインも驚いた表情を浮かべ、そしてエクスは。
──今のは、ビーム攻撃。それにダモスのような原始的なものじゃない。より高度で精密に収束されたエネルギーで──
「どう言うことだっ!? 私の邪魔を……よくもっ!!」
ダモス本人も怒りと混乱がごちゃ混ぜになったかのように動揺し、放たれたビームの正体を探ろうとする。……その時だった。
「お前はやり過ぎたのだ、ダモス」
「か──はっ!」
声が聞こえたと同時に、再びビームが放たれた。それはダモスが接続していたスクラヴドラグの、制御装置を撃ち貫いた。
同時に響くスクラヴドラグの断末魔。辺りの物全てを破壊してしまう程に強烈な叫び声とともに、巨体は地面に完全に倒れて力尽きる。
「……やった、のか」
状況がいまだ呑み込めず、唖然としているクライン。
「だが、さっきの攻撃は一体……」
「正体はあれだよ、クラインもセリスも見てみなよ」
いち早くその正体を知ったエクス。その指し示す先の廃墟、屋上に立っていた漆黒の機械の鎧を纏った黒騎士の姿。エクスにとって見覚えがあるものだった。
「また現れたんだね、シャドー」
そう、そこにいたのはもう一人の人類女王の配下、シャドーであった。佇む彼に対し、もはやスクラヴドラグを操る力を失ったダモスは地に伏したまま睨む。
「シャドー、なぜ私の邪魔をした! よくも……あと少しだったのに」
「言ったであろう、お前はやり過ぎたのだと。セリスに手を出されては困る。彼女は女王陛下にとって、大切な存在であるからだ」
こう話すシャドー。対してエクスは、彼に対し口を開く。
「会うのはこれで二度目だね。でも一体、どう言うつもりだい?」
「……」
「それに、セリスが女王にとって大切な存在だって? 一体どう言う意味なのかな。やっぱり彼女は……」
更に問い詰めるエクス。ではあったが、シャドーは意に介さない。
「お前はエクスか。再び我と相まみえるとは、これもまた運命だな。……だがお前には用はない。
我がここに来た──理由は」
瞬間だった。突如二つの黒い影が現れ、飛び掛かったのは。狙っていたのは──
「!!」
「っ! セリス!」
気づいた時には遅かった。黒い影の正体は機械兵士、それも通常の機械兵士よりも数段強化され、まるで人の骸骨のような姿から、強化装甲を身に纏った人間に近い感じの頑強かつ強靭さを感じさせるものであった。
その強化機械兵士は二人がかりでセリスを捕獲、彼女を引き掴んだままシャドーの元へと。
「放せ! 私を捕らえてどう言うつもりだ!」
「名前は……セリスと名乗っているそうだな。女王陛下がお前を必要としている。だからこそ、我はここに来た。
この者を、セリスを女王陛下の元へと送り届けるためにな」
「……っ!」
途端、セリスの表情が凍る。恐らく彼女も何かを察したのだろう。……それが何なのかエクスとクラインには分からない事だとしても。
その一方、別の強化機械兵士も現れ、倒れていたダモスを捕らえていた。
「同じ女王陛下の配下としてのよしみだ。ダモス、お前も連れ帰る事にしよう。
……さて、用事はこれで済んだ。我々はこれにて失礼しよう。──だが」
シャドーは加えて、こんな事もエクスらに伝える。
「もう一つ言うとすれば、集落に早く戻った方がいい。……今頃はどうなっているか」
そんな中、耐え切れずにクラインは前に出て、叫ぶ。
「お前が何者か、言ってる事も分かるかよ! ……けれどセリスを奪う事は許さねえ。彼女は俺達の大切な仲間だ、返してもらう!」
クラインは大剣を握り、シャドーに迫ろうとする。……が、おもむろに彼は右手を開き前にかざすと、その掌に空いた孔から閃光を一筋撃ち放つ。
「うわっ!!」
一撃はクラインのすぐ手前に──シャドーも命中させる必要さえなかったのだろう──爆発して、衝撃で彼は吹き飛ばされる。
「大丈夫? クライン」
「──それでは、我は失礼させてもらう。
エクス、お前には今は用はないが。もしお前もセリスを助けたいと思うのなら……女王陛下の居城に乗り込んで来る事だ」
シャドーはただそう言い残し、セリスを捕らえたまま、機械兵士を率いてこの場を去った。
「……」
未だに得体の知れないシャドーを相手に、エクスはただ見ている事しか出来なかった。
──今手を出すのは不味いと思った。あの状況、無理に助けようとすればセリスの命さえ危険だったから。悪いけど──
「エクス……これから一体、どうするんだよ」
「とにかく、ギリ―とミースに合流し次第一度集落に戻ろう。シャドーの言っていた言葉も気になるし、心配だから」
セリスも気にはなる。けれどどの道集落に戻って対策を考える必要がある。これにクラインも異存はなかった。とにかく、集落へと。エクスは戻る事になるのだが。
エクスさえまだ知らなかった。待ち受けているものが……ついに、その望んでいたものとの邂逅になる事を。




