第四十四話 ダモスとの対決
「──ダモス！ 覚悟！」
「何だと！？」
現れたのは刀を構え、今まさにダモスを薙ぎ払わんとするセリスの姿。それに気づいた彼はとっさにスクラヴドラグの身体から触手を多数生やし、壁にして斬撃を弾き防ぐ。
弾かれたセリスは宙で態勢を整え、すぐ近くの廃墟屋上に着地する。ダモスは彼女を睨むと。
「おのれ……セリス！ 生きていたか」
ダモスの憎々しげな言葉を吐く。だが当のセリスは気に留める様子もなく飄々とした感じで睨みかえす。
「あれしきで倒れんさ。それよりも──よくもやってくれたな。次は私達が反撃する番だ、せいぜい覚悟する事だな」
「っ！ ほざけ！ スクラヴドラグさえ手中にした私に敵うと思うか、虫けら風情が」
ダモスが取り込んだスクラヴドラグ、その巨大な尻尾をぶんと、セリスの立つ廃墟めがけて振った。廃墟は砕かれる。彼女は直前に跳躍する、けれどそれを狙いダモスはビーム砲の砲門を向ける。
「かかったなバカめ！ 空中なら回避など出来ないだろうが！」
あの一撃を喰らえば一たまりもなく消し飛ぶ。それでもセリスは平然とダモスを見て……いや、見ていたのは彼のすぐ傍に来ていたもう一人。
「任せるぞ、クライン」
「おうよ！」
「！！」
驚いたダモス。しかしもう、判断が遅かった。次の瞬間にはスクラヴドラグの頭部と同化していた下半身と上半身を真っ二つに切断する。彼の身体を裂いた巨大な刃、それはクラインの大剣だった。
「ざまぁないぜっ！！ セリスにばかり気をとられているからさ！」
「ぐ……っ」
一撃で吹き飛ばされようとするダモスの上半身……であったが。
「この程度など、やられはしないぞ」
ダモスはすぐさまチューブ、触手を身体から伸ばし、スクラヴドラグと接続し直す。
「ちっ！」
「小賢しいわ！ ならお前が吹き飛ぶがいい！」
今度は手にしたビーム砲をクラインに構え、一撃を放った。何もかも消し飛ばす強大なエネルギー。が、それが放たれるよりも早く彼はダモスの懐に入ると、ビーム砲の砲身を掴み、真下のスクラヴドラグへと向ける。
「悪いけど、これならどうだい！ その攻撃は強力かもだけど、なら──スクラヴドラグだって一たまりもないだろ！」
ダモスは驚いた、だが遅かった。
放たれたビームは下に放たれ、スクラヴドラグの頭部と胴体、右前足の一部を抉り飛ばす。このダメージの大きさのあまりスクラヴドラグは咆哮を上げる。ダモスも、ダメージを共有しているのかうめき声をあげた。
「ぐう……っ、よくも」
「悪いね。強力過ぎる矛は、時に自分さえも傷つけるのさ」
「……しかし、この程度で勝ったと思うな！」
ダメージを与えられ損傷したスクラヴドラグ。しかし、傷は自動で修復され、傷が塞がれようとしていた。
「──うわっ！！」
スクラヴドラグ全体が激しく動き、態勢を崩すクライン。更にその彼に対して鋭い触手が幾本も飛来して迫る。
「つっ！」
避けようとしたが、触手の内一本が彼の脇腹を抉る。傷を受けてよろめくクライン。ダモスはそれに止めを刺そうと再び触手を展開しようとするが……。
「させはしないとも！」
それを刀を一振りし、斬り飛ばしたのはセリス。クラインが頑張っていた中、彼女もスクラヴドラグに飛び移っていたのだ。
「お前も来たか、セリス。だが、たった二人来た所で何が出来る。周りを見るがいい！」
ダモスの言葉。周囲を見るとスクラヴドラグにはクライン、セリス以外に多数の機械兵士が取り囲んでいた。
「私の用意した兵士があれだけだと思うな。ここでまとめてスクラップに──」
襲い来る機械兵士。しかし、その瞬間に機械兵士は次々と爆発し、何者かによって破壊されてゆく。
攻撃は遠方からの射撃によるもの。そう、ギリ―とミースが遠方から援護射撃を繰り出しているのだ！
「さすが自慢の妹！ よくやるぜ」
「ギリ―もな。私がきっちり教え込んだだけある」
「よくも、よくも！ ただでは済まさぬぞ！」
残る機械兵士は二人に襲い掛かる。加えて、ダモスが操るスクラヴドラグの身体からも次々と触手が生えて迫る。
「やはり、厳しいな」
こんな中で再び苦戦に追い込まれるセリス、それにクライン。けれどクラインは平然とした態度で。
「なぁに、大丈夫さ。僕達だけじゃない。きっとやってくれるさ──僕のライバルは」
信頼が込められた呟き、彼の言葉の意味は……。
──ズドンっ！！
すぐ真下で大爆発が起こった。それはスクラヴドラグが立つ地面からだ。崩落する地面。片足がはまり態勢が崩れ、巨大機械生物は前のめりになって倒れる。
「ぐっ……こんな事まで」
「そー言う事。悪いね、卑怯なやり方だけどさ。
二回目だけど足場を崩して……落とし穴をまた用意させて貰ったよ」
ダモスの背後から聞こえた声。振り返り、そこにいた人物に驚きながらも、一方で待っていたかのような口ぶりで。
「ようやく会えたな──エクス」
そう言って現れたのは、いつものように不敵に構えているエクスだった。
「相変わらず嫌な事をするものだね、ダモス。けど今回はやりすぎじゃあないかな」
「ぐぬぬ……」
苦境に追い込まれたように呻くダモス。だが、すぐに様子を戻すとエクスを睨み直す。
「……ああ、その通りだ。
よく来てくれたなエクス。忌々しいお前との因縁もここで晴らしてやるぞ」
エクスの元にも機械兵士、そして触手が襲い来る。しかしそれを、槍と銃を繰り出して軽く撃退した。
「ふっ、その程度なわけ。
機械兵士の数もそれなりに減らしはしたし、スクラヴドラグそのものもダメージで疲弊しているだろ。……セリス、それにクライン」
二人に呼び掛けるエクス、そしてこう続けた。
「僕達三人いる事だし、このまま一気に──倒すよ！」
「……ああ！」
「これ以上好き勝手されるのは癪だものな！」
エクス、セリス、そしてクラインの三人はダモスへと迫る。
「恐らくダモスはスクラヴドラグの制御部と直接接続しているはず。だから！」
エクスは手にした槍の電源を入れ、刃先を高熱化させ……ダモスとスクラヴドラグの接続する真下を貫く。
「まずはスクラヴドラグの方を機能停止にした方が早い！ クラインも頼む！」
「ああ！」
続けて大剣を振り、クラインは更に切り込む。
「ぐ……うぁ」
ダモスは身体ごとスクラヴドラグから剥がれかけ、その下にある制御装置がむき出しになる。
「これで終わらせる！」
「させるものか！！」
そして、露わになった制御装置に止めを刺そうとするエクス。だがダモスはスクラヴドラグ
の触手を操り、多数の触手を一塊に──クラインの巨大な剣よりも一、二回り巨大な大剣のような形状にして大きく振り回した。
「「「！！」」」
エクス、クライン、セリスの三人は止めを刺すどころか、回避して離れるしかなかった。更に離れた三人に対し、一度塊になった触手を再度多数の触手へと分解して襲わせる。
「うわわっと！」
「厄介だな……っ」
「簡単にはいかないって訳」
エクス達に襲い来る猛攻の嵐。態勢を立て直す暇も与えずに叩き潰すつもりだ。反撃する余裕さえもない。
「ふはははっ！ 私の手にかかれば敵などない、恐れるものなどと！」
高笑いするダモス。実際、スクラヴドラグと一体化した彼は恐ろしい程に強い。……三人は苦戦の中にあった。
──せめて何か隙があればだけど、どうすれば──
「最早お前らには成す術もない。出来る事と言えば、ただ蹂躙される事しかないのだ！
……そうであろう、セリス！」
「しまっ──」
触手は一気にセリスに集中して襲い来る。あまりに急に来たために、彼女も反応しきれずに一撃を左足に受けてバランスを崩す。
「ハハハ！ 所詮は『成り損ない』の分際で……女王陛下の代わりになど、なれもする筈がないものを！」
──？──
ダモスが口にした奇妙な言葉、エクスは反応する。
──成り損ない？ 女王の、代わりだって？ セリス、君はただの機械人ではないのか。正体は……一体？──
けれどそう考えている間にも、傷を受けてまともに動けないでいるセリスを狙い触手は蠢き、ダモスは嗤う。
「覚悟はいいか？ エクスと言う異邦人にも因縁はあるが何より……セリス！ ずっとお前の存在は目障りであったのだ。
お前でも、シャドーでもない。女王陛下の跡を継ぐのはこの──私だっ！！」
彼の言葉とともに、一斉に触手はセリスへと迫る。
──まずいっ！ あんな量を今のセリスじゃ──
セリスの絶対絶命の状況。あと僅かで、彼女の全身は触手の鋭い刃で刺し貫かれるだろう。
