第四十三話 三人なら!
この言葉に一瞬唖然とするエクス。……ではあったけれど。
「はははっ、何を言うかと思えば、今更。
前にも言った通り、僕は『人間』だよ。君達機械人の祖先を生み出した種族、本当さ」
「……」
エクスの答えに、セリスは不満げに俯く。そして……次に口にした、言葉は。
「人間、本当にそうか? 正直私には、そうとは思えない」
「……? どう言うことかな」
彼女の目に見えるのは、幾らかの不信の感情。そして、その理由は。
「私は人間がどう言うものか、少しは知っている。
人間と言うものは機械と違いずっと脆くて弱い。それに、だ。有機物を栄養とし、食べて命を保っている。機械で言うなら電力の充電などに近いだろうか」
「……」
「だが、私はエクスが栄養を補給する所を、一度たりとも見てはいない。有機物を食すのは勿論、私たちみたいにエネルギーを補充する姿も。それにだ──エクス、逆にこれまで見て来た君の活躍は凄いものだ。脆弱な人間とは思えないくらいに行動し、戦い……君は一体何者なんだ」
確かにセリスの言う通り。エクスが現れてからの活躍は他の機械人と同様いや、それさえ上回っていた。
集落の狩猟隊のナンバー2の実力を持つクラインを打ち負かし、更に狂暴な機械生物、人類女王の手先とも渡り合う。明らかに人間……いや機械人離れさえもしていた。
「はぁ、何て言えばいいか」
エクスは困ったような顔を浮かべた。その上でこの事を聞いた。
「よく知っているんだね、セリス。君の疑問はもっともさ。……けれど」
今度はエクスがセリスに何気なくこんな質問をする。
「そんな知識をよく知っているね。人類が滅びたのは、随分と前なのに。普通君達はそこまで知らないのかと思ったけど」
「それは……」
途端に言いよどむセリス。何かに戸惑うような感じで口を閉ざし、沈黙してしまう。エクスはそれに不思議に思ったけれど。ふと何かを思い出すように。
「あっ、もしかしてリズの図書館にセリスも通っているのかい。あそこなら人類の事についても色々知る事が出来るし、多分そうかなって」
その言葉に彼女ははっとした。そして、やや不自然な感じでこたえた。
「エクスの言うとおりだ。その、図書館で私はその事を……な」
「ふーん」
セリスの態度にエクスは少し気にはなった。けれど、これ以上は聞かない事にした。……それと。
「セリスの事については分かったよ。後、僕の事についてだけれどさ……たしかに、君の言う通り少しだけ訳ありなんだ」
「やっぱりか。ならエクスは──」
セリスは気になり尋ねようとした。けれどエクスはそれを遮る。
「教えてもいいかもだけど、今は後回しじゃないかな。今、ゆっくり話をする余裕もないだろ」
現在エクスとセリス、それに今どこにいるか分からないクラインは危険の真っ只中にあった。巨大機械生物スクラヴドラグは暴れ回り、ダモス率いる機械兵士も三人を追跡している。
「とにかく動けるようになって、この場を離れないとさ。ほら、もうすぐ修理だって終わりそうだ──っ!!」
瞬間、エクスは何かに反応し、近くに置いていた機関銃を掴み構えて、連射した。射撃を放ったのはすぐ右横の空いた窓、そこから三機の機械兵士が飛び込もうとしたのを攻撃したのだ。
蜂の巣になり落下する機械兵士。しかし、続いて別の機械兵士がぞろぞろと、外から這い上って今まさに入り込もうと試みている所だった。
「とうとう気づかれたか。……それに」
窓からではない。廃墟の中からも別の通路から、更に天井から穴を開けて次々現れて来る。
「……まずいね。本格的に襲って来る前に、早く修理を終えないと」
自分一人ならともかく、まだ動けないセリスは逃げられない。エクスはこんなセリスを放って行くつもりはなかった。状況は悪いと言ってもいい。
そんな中に──。
「せいっ!!」
奥から次々と機械兵士を切り倒し、こっちに迫る姿が見えた。大剣を振り、屋内であるために火器が思うように使えない兵士を倒してエクス達のもとへと。
「……クライン! 来てくれて嬉しいよ」
現れたのはクライン、彼もまたここまでやって来たみたいだった。彼は二人の姿を見て一安心した様子で。
「どうにか無事みたいだね、良かった」
「と言っても今ピンチだけどね。セリスはまだ動けそうにないし、このままじゃ」
エクスがこう話す最中でさえ機械兵士は襲い来る。対して、クラインが二人を守るように立ちはだかり応戦する。
「そう言う事なら僕に任せなって! 動けるまで時間を稼ぐ。──セリス!」
「……どうした」
「言っとくけどこの貸しは大きいぜ。帰ったら隊長の座くらいは、欲しいくらいにさ」
ちょっとした憎まれ口をたたくクライン。けれどこの場では頼もしくもあった。セリスはそれに軽く微笑むと。
「ふっ……考えておくよ」
「その言葉、忘れるなよな!」
クラインは張り切るように、敵を次々と蹴散らして行く。
三人ならこの窮地──乗り越えられるはずだ。
────
「我が機械兵士と……戦っているか」
人類女王の配下であるダモスは、現在巨大機械生物スクラヴドラグの頭部に立っていた。……いや、正確には同化しているとも言っていいだろうか。彼のチューブ状の身体の下半身はスクラヴドラグを侵食し、自らのコントロール下に置いていたのだ。
自ら率いる機械兵士とエクスら三人との戦い。その様子はダモスの目にも捉えられていた。
──手こずっているのか、小賢しい連中め。女王陛下から賜ったこの武器で吹き飛ばすか──
ダモスが装備しているビーム砲。その威力は絶大であり、最大出力なら廃墟の一つを吹き飛ばすくらい造作もない。……しかし。
──いや、せっかくこの機械生物も用意したのだ。ここは一気に虫みたいに踏みつぶしてやろう──
ダモスは支配下に置くスクラヴドラグの身体を動かし、その大足を三人がいると思われる廃墟に向けて上げてそして一気に……踏み下ろした。
呆気なく潰され、跡形もなく崩れる廃墟。中には自らの機械兵士も多数存在していたと、分かっていても構わずにだ。
──とにかくあの忌まわしい奴らを始末出来ればどうだっていい。これでシャドーにも大きな顔はさせはしない。私こそが女王陛下の唯一の腹心であり、ゆくゆくは私自身が──
勝利を確信し、自らの野望に浸るダモス。ではあったが、その瞬間に彼の背後から一人の影が現れる。




