第四十二話 セリスからの疑問
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──全く、まさかダモスがまた来るなんて。ラグーンサイドに続いて、ここでも──
檻から逃れたエクスは、廃墟の中に逃げ延びていた。
相変わらずスクラヴドラグは暴走を続けている。そして、機械生物の猛撃により周囲の廃墟も被害が出ている。
「──うわっ!!」
真横の壁がスクラヴドラグの巨体によって衝突、粉砕される。
飛び散る瓦礫にエクスは身を守ろうとする。
──ここもそろそろ危ないか。とにかく、場所を移動した方が──
そう判断し、階層を移動しようとする。
機械生物により破壊が進む今いる廃墟。そこからエクスは窓の跡から隣接する別の廃墟へと、飛び移ろうと決めた。
同時に向こうからは大きな尻尾を振り、廃墟を粉砕しようとする。迫る尻尾と、向こうの廃墟へと駆ける。
「たぁっ!」
廃墟から跳躍するエクス。同時に、スクラヴドラグの尻尾に粉砕される廃墟と、飛び散る瓦礫。
けれどそんな中でエクスは無事に、隣の廃墟に飛び移る事に成功した。
──この着地は割とギリギリ、10点満点中4点って所かな──
しょうもない事かもしれないけれど、エクスはそんな風につい考えた。
──でもあんなの、どうしたら良いか。後はセリスとクラインかな──
離れた位置にいるギリーとミースは恐らく大丈夫だ。先ほどまではギリーの方に接近していたものの、幸か不幸かダモスの攻撃で興奮状態にあるスクラヴドラグは歩みを止め周辺で暴れ回っている。
エクスは試しに二人へと通信機で交信を試みる。……けれど、何故か繋がらない。恐らくダモスによる通信妨害までされているようだ。
二人にしてみれば原因不明で突然暴れ出したスクラヴドラグ。通信も途絶え、どうすれば良いか混乱していると考えられる。
──二人はきっと何が起こっているか分かっていないだろうな。ここは僕達で切り抜けるしかないか。
まずはセリスとクラインに合流しないと──
ただ、セリスがビーム砲の一撃を受け、下に落下したのをエクスは見ていた。
彼女を追って廃墟の下へと降りたけれど、どこにも彼女の姿はなかった。
「セリス、無事かな。まさかあのまま──」
エクスが彼女を案じて呟いた、その時。
「……この声は、エクスなのか」
背後の陰から聞こえた声。エクスが振り向くとそこにいたのは、ボロボロのセリスだった。
無骨な右腕は吹き飛ばされて片腕のみの彼女、身体も傷だらけでボロボロだ。岩壁に身体にもたれかかって座り込んでいる彼女に、エクスは尋ねる。
「大丈夫、その傷?」
「平気だとも。確かに見た目こそひどい物だが、機能には問題ない。こうして歩く事だって…………くっ」
セリスは安心させるような表情を見せて立ち上がろうとする。……けれど、途端にガクッと身体から力が抜けて膝をつく。
「……はは、どうやら意外にダメージはおおきかったみたいだ。
攻撃を受けて落下し、どうにか傍の廃墟に飛び移ってここまで逃げたはいいが、これは不味いな」
自分で歩く事も難しいセリス。エクスはそんな彼女に。
「大丈夫、ようは修理して動くようにすれば……いいんだよね」
その提案に、目を丸くするセリス。
「修理だって? お前に出来るのか。それに、だ。もし出来たとしてもこの場には修理するためのパーツがないだろ。
一体どうするつもりだ?」
「ああ、パーツの心配なら全然大丈夫だよ。──何せ」
瞬間、エクスが槍の柄を握ったと思った瞬間、強く槍を右真横に投擲した。
真っすぐ飛ぶ槍の刃先。それは……一体の機械兵士の頭部を壁に串刺しにしていた。恐らくは哨戒に回された機械兵士、頭部のランプは消え、身体からは力が抜けて機能停止する。
「これでパーツは大丈夫だよね。
……早く始めようか。これじゃいつ完全に気づかれてもおかしくないしさ」
倒した機械兵士のパーツを使って、エクスはセリスの修理を始めた。
「うーん、脚にもダメージはあるし、各部関節や機械骨格、動力系にも傷がある。
でも傷としては軽いから修復は今やっている簡易な応急処置で大丈夫そうかな。……重症なのが股関節と左足かな。これはもう取り替えた方が良さそうだ」
「……そうか。けれど……やはりその、恥ずかしいな。こんな恰好をエクスに見せるとは」
「余裕がないから仕方ないよ。後、僕はそう気にしないから、大丈夫だよ」
今、エクスはセリスの身体を調べ、簡単な修理と処置を行いながら詳しい傷の具合を確認していた。
「しかし、だ。今の私は……裸で、中身までエクスに見られている。どうも、慣れないものだ」
いつもはボディーアーマーを身に着けていたセリス。しかし今はそれを脱ぎ素体のまま、加えて各部のパーツも開き、内部機構を露わにしていた。
彼女の身体はパーティクルラインの線筋が全身の幾らかに走っている以外はまるで人の裸そのものに近く、思ったよりもふくよかな胸と下半身、滑らかで形の整った肢体。そして今は身体のパーティクルラインから人肌をした外部パーツが開き、中の人口骨格と筋肉の代わりをする動力パーツ、パイプやシリンダー、細かい機械的な内部構造も露わになっている。
複雑な表情のセリスだが、エクスは構わずに修理を続ける。実際急ぐ必要もある、もたついていたらどちらも危険でもあると分かっているからだ。
「気にしないでいいってば。
でも、あちこちダメになった部品もあるから交換も必要かな。その失った右腕の代わりだって……機械兵士のをくっつければいけそうかな。
骸骨みたいで不格好かもしれないけど、両腕、この状況なら使えた方がいいだろ」
「ああ。念のために武器も近くに置いてもある。……その方が少し安心もする」
いつ敵が来るか分からない、そんな中で二人はこうしていた。
……すると。
「あのさ──セリス」
修理をしながら、エクスは彼女に声をかける。
「今この場で悪いが、聞きたい事が一つある。……構わないか?」
「うん、別に構わないけど。どうしたんだい?」
エクスは別に気にせずに、何気なく応えた。
「そっか、良かった。なら聞きたい」
セリスの質問。……それは。
「エクス、君の正体は一体何なのだ? 本当に──人間なのか」




