第四十話 新たな武器
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穴にはまっているスクラヴドラグ。
エクスはその死角を回り込むように駆け、後ろへと回る。だは激しく振り回される、スクラヴドラグの巨大な尾。
──ちょっと危ないけど……おっと!──
すると凄まじい勢いで尻尾の先がエクスに迫る。自身の身長以上もある太さの物体が高速で迫り来る……当たればただで済まない。
しかしその横薙ぎは大振り。エクスはその場でスライディング、地面と尻尾の間の狭い隙間を潜り抜け、スクラヴドラグに迫る。
そして尻尾の付け根に即座に飛び移り、巨体の上を駆ける。
見るとクライン、そしてセリスもまた同じくして機械生物の上にいた。
「ハハハ! やるじゃないかよ、エクス!」
横に並んだクラインは声をかけて共に駆け上る。
「そっちもね。ところで、セリスは?」
「あいつは僕たちより先に上がっていったさ。はっ! 負けてはいられないね」
と、二人は先の頭部へと向かい駆ける。が……。
「……くっ!」
すると二人の行く手に、スクラヴドラグの背からにょきにょきと……数十本もの触手が生えて立ちふさがる。
触手と言うよりは一本一本が腕に近く、先端にはアームやクローのようなものが付属していた。
「どうやら向こうも気づいたか。邪魔する気らしいけど!」
クラインは大剣を構え、触手めがけてブン! と薙ぎ払う。
一気に根本から寸断され、切断された触手残骸は当たりに飛び散った。
「こんなの全然! 大したことないぜ! ……うん?」
しかし安心もつかの間。先ほどの触手は切り落とされたものの、すぐにまた新しい触手が生えて来て行く手をふさぐ。しかも数はさっきよりも多くなっている。
「うげっ! これじゃきりがないじゃないか、っと!」
二人の立つスクラヴドラグの背。それもまた激しく揺れ、ふり落とされそうになる。
暴れている機械生物の背、あまりにも不安定な足場。だがエクス、クラインはかろうじて踏みとどまる。
「わわわ、っと! こんな所でグズグズしてちゃ、セリスに手柄とられちまう」
考えただけで嫌な表情になるクライン。だが一方、エクスはそれでも余裕たっぷりに。
「倒しても倒しても、きりがないってことは……」
と、エクスは正面に蠢く触手を正面に、槍と機関銃を左右に握る。
「そんなの! 蹴散らして先に進むしかないよね
!」
槍で薙ぎ、銃で撃ち払い、再び再生する間もなくエクスは先へと進んで行く。
「あっ! エクス!」
これに置いていかれ、若干唖然としたクライン。そしてそうしている間に、また触手が復活して先を塞ぐ。
「ああっ! もう! 僕も負けてられないな」
彼もまた大剣を両手に、先へと突進する! 何本もの触手が鋭いクローでクラインを掴み、引き裂こうとした。
「全然弱い!」
だがクラインは余裕で避けると、一気に剣を振り回して薙ぎ払った。
そして彼も切り払った先から、先へと駆け抜ける。
セリスは先を行っていたが、クライン、エクスはどうにか追いついた。
追いついた二人に気づいた彼女は早速こう伝える。
「スクラヴドラグと言えども、機械生物であることに変わりない。
頭部にある制御装置を壊せば」
「と言っても、ここから頭部まで距離があるぜ
! 足場だって悪いしそれに──」
頭部まで続く背部、相手は動く中で足場が不安定で……それに身体のあちこちから無数の金属の、鋭い鍵爪のついた触手が伸びて来る。
「あんなのの中を、突き進めってか!」
あまりに無茶じゃないかと、叫ぶクライン。
そして内数本の触手がクライン目掛けて襲い迫る。けど瞬間、遠方から二筋の軌跡が飛来し、触手を吹き飛ばす。
〈平気だぜ! この俺が援護してやるからさ!〉
〈私とギリ―で注意を逸らしますから、兄さんたちはお願い〉
通信で届く声。
攻撃はギリ―、ミースの射撃によるものだった。二人は二人で遠方射撃で巨獣スクラヴドラグの注意をひこうとする。
「──ふっ、成程な。なら僕も!」
瞬間、大剣を構え一気にクラインは先頭に突っ込む。
「二人とも僕に続け! 切り込み隊長は任せろって言うんだ!」
剣で薙ぎ払い、突き進むクライン。
「……だそうだ。私たちも遅れない方がいい」
続けてセリスも、再び生えて来た触手を切り伏せる。そしてエクスは二人に続いて進む。
三人がいるのは巨大な機械生物の背、その尾の付け根辺りだ。そこから頭まで道程は長い、その間に……立ち塞がりうねる狂暴な触手。
「さぁさぁ! ぶった切ってくれるぜっ!」
全力で大剣を振り回し触手を斬り飛ばすクライン。 以前シャドーの戦いで前の武器が破壊されて、彼が今使う武器はマティスによって作られた新しいものだ。
クラインは触手を倒して行く。……けれど瞬間、彼の周囲から壁のように触手が新たに生えて四方から一気に襲い掛かろうとする。
そんな中で彼は。
「さてとっ、俺の新しい武器! それを試させてもらおうかな!」
言うやいなや、クラインは大剣のグリップに備わったスイッチを入れる。
それと同時に、大剣に内蔵されたバッテリーが稼働、その電力により刃が高熱化して鋭くなる。
「ははっ……エクスの槍と同じからくりなのは複雑だけど、おかげで!」
クラインはぶんと剣を振り回して、いとも簡単に襲い来る触手を切断する。
「さっきよりもスパスパ切れるぜ、気に入った!」
「あまり調子に乗るなよ、クライン。マティスの話ではその機構、すぐにバッテリーが上がると言う話じゃないか」
するとようやく追いついたセリス。彼女もクラインに並んで触手を倒す。
「セリス! お前の助けなんてなくても、こんなの僕一人で」
「調子に乗るのは悪い癖だ。そんな風にしていると、足元をすくわれるぞ」
「何言ってるんだよ! この僕がそんな事になんか──」
クラインが言った途端だった。
一本の触手が彼の右足に迫り、強く振り払う。
「!?」
一瞬訳わかんないような顔を浮かべた後、クラインは態勢を崩す。
「クライン!」
バランスを失い、そのままスクラヴドラグの背から落下する彼。
ビルと同じくらいの高さから落ちれば一たまりもない。クラインは唖然として、ずっと真下へと落ちようと──。
「全く、セリスの言う通り。クラインは世話が焼けるんだから」
その時、クラインの手を誰かが掴んだ。
それはエクスだった。スクラヴドラグから伸びる触手の一本をロープ代わりにして掴んで飛び降り、落下するクラインをキャッチした。
「助かったエクス! ……けど重くないか、俺は大剣まで持っているし」
「大丈夫さ。この触手は割と丈夫だし、僕達二人でもビクともしてないよ」
余裕そうに大剣を持ったクラインを右手に掴み、左手で触手を握ってぶら下がるエクス。
……けれど。
「──」
迫る触手と一人戦いながら、セリスはそんなエクスを思う所があるように見つめていた。
──エクス、あいつは──
そんな中エクスは勢いをつけて触手を振って、クラインを掴んだまま飛んだ。
同時に背に背負っていた槍を掴むと、スクラヴドラグの身体に、杭のようにして突き刺した。
「ほら、クライン!」
「恩に着るぜ! もう、あんなみっともない真似はしないからさ!」
再び戦線に戻ったクラインも、襲う触手を切り裂いて再び先へと。
複雑な表情を若干浮かべながらもセリスが今度は先頭を走る。エクスもまた、二人の後続として続く。
──ギリ―の所に、向かっているのか……これは不味い──
スクラヴドラグの歩みは着実に、ビルの上から射撃するギリ―に目をつけて進んでいる。
これがミースならまだしも、ギリ―があれから逃げるとなると、かなり難しい事くらいはエクスでも分かる。
──セリスの事だから、逃げるように指示は出しているだろうけど……それでも大丈夫か──
とにかく、犠牲が出る前に早急に倒したい。ギリ―とミースが気を引いているうちに。




