第三十九話 チームプレイ!
廃墟の間を闊歩する何か。
奥に見える五十メートルもの高層建築物とほぼ同等の全長を持つそれは、二本の巨大な足で地響きを立てる。
それはまだ遠くに離れている、エクス達にも伝わる。
「くっ、何て奴だよ!」
ギリーは怖れで僅かにたじろいでしまう。
離れていても、その大きさが分かるほどのシルエット。
それはまるで人類が誕生する以前、この地球上の支配者であった太古の恐竜……ティラノザウルスに似ていた。
……が、その身体は様々な瓦礫、そして機械の残骸が無数に継ぎ合わさり絡み合った歪なものである。
「見ろよ、ギガノユンボまで取り込んでやがる。……ここに来てから、またでかくなっているんじゃないのか?」
自らの身体に機械生物だろうと取り込み、一体化し、巨大と化す……。
今の大きさはこの辺り最大の機械生物である、ギガノユンボよりもずっと大きい。
これこそ凶悪とも言える大型機械生物、スクラヴドラグの正体である。
────
姿こそ確認出来るものの、両者の距離は十二分に離れている。
スクラヴドラグもまたエクス達へと気づく様子もない。セリスは獲物の動向を伺う。
「思った通り、ここからあまり動いていないな。……なら好都合だ」
そして彼女は四人に顔を向け指示を出す。向こう側に見える高い廃墟を、二つ指さして……
「さてギリー、そしてミースはあそこと……あそこ、それぞれ二か所の廃墟の頂上に位置取りスクラヴドラグに攻撃してくれ」
「オーケーだぜ! バンバン撃ち込んでやるさ」
「私も狙い撃つわ、任せて下さい!」
二人は張り切った様子であるが、セリスは一旦落ち着かせるように言葉を続ける。
「と言ってもただ撃つだけではダメージにならない。
何しろあの図体だからな。倒すにはスクラヴドラグの制御装置を、破壊しなければならないが……」
彼女の視線は廃墟を闊歩するスクラヴドラグの頭部、その額へと向けられた。
「制御装置があるのは頭の額の中だ。
ただ奥に埋まっているため、攻撃はそのままでは通らない。……二人は遠くから額を狙って出来るだけ装甲を引き剥がしてほしい。そして……」
今度は残るクラインとエクスに話す。
「クライン、エクス、二人は私とともに、銃撃で気が逸れている隙に直接スクラヴドラグの身体を上り、そのまま頭の制御装置を破壊する。
……かなり危険だとは思うが、やれるか?」
「うん! もちろんだよセリス!」
「たしかにヤバい相手かもだが、僕を誰だと思っているのさ! 手柄は頂きだぜ!」
エクス、クラインの張り切った調子。
全員ともやる気は十分、セリスは満足そうな表情を見せた。
「よし、その意気だ。
大変な狩りになると思うが決して──無理はするなよ」
────
一人エクスは廃墟の中を駆ける。
崩れかけの内部を走り、窓があった空洞から気づかれないように外を伺おうとした。
──ドシン!
すぐ間近で、足音とともに黒く巨大な影が横切る。
──もうこんなに近い所まで。やっぱり、でかいな──
目の前にそびえる、鋼の城塞を思わせる巨躯。
エクスの他にもクライン、セリスの姿も、少し離れた場所に見える。
──今は待機中って話だよね。セリスが確か──
かろうじて見えるセリスの手元には、何かのスイッチが握られていた。
それはスクラヴドラグが通過するだろうと予測したセリスが、前もって仕掛けたトラップの起動スイッチだった。
──あれで獲物の動きを封じられるって事だけど──
スクラヴドラグは広い通りを歩みを進め、トラップの元へと進む。
そしてついに例のトラップが仕掛けられた足場へと……! 向かい側のセリスは頷き、手元のスイッチを押した。
──するとその瞬間、スクラヴドラグの足元の地面が爆発音とともに煙が上がり、崩落した。
いきなり足場が崩落したことで発生した落とし穴。機械生物はそれにはまり、これ以上進むことが出来なくなる。
──さすがセリス、こんなものまで仕掛けていたなんて──
罠の正体は地面の地下に設置した落とし穴だった。あの地下には広い空洞があり、そこは頑丈な柱によって支えられていた。
が、セリスはその柱に爆薬を仕掛け、上にスクラヴドラグが乗った瞬間に起動……爆発させて人為的に崩落された。
その結果がこれだ。おそらくずっとこのままなわけはない。時間を置けばやがて、スクラヴドラグは這い上がるだろう。
加えて……穴に落ちての暴れよう。もし這い上がった時には、興奮状態のスクラヴドラグが何をするか……。
──罠にかかった! ということは、このまま一気に──
瞬間、遠方の二方向から銃撃が襲う。
それは廃墟の真上からの、ギリー、ミースによる遠距離射撃。まともに動けないスクラヴドラグはまさにいい的だ。
射撃はスクラヴドラグの頭部目掛け次々と襲い来る。激しい爆発と煙が頭から上がり、暴れ、咆哮を上げる機械生物……だったが。
二人の銃撃は確かに頭を命中させていた。狙うは頭の、額の部位。ギリー、ミースともに距離は遠くさらに、スクラヴドラグは暴れ狙いも定めにくい。
頭には命中し次々とパーツを剥いでゆくものの、急所となる額には未だ決定打は与えられずにいた。
──やっぱりこれだけじゃ厳しいね。けど、それでも──
攻撃は決して無駄ではない。
爆発の割に微々たるものだが、着実にダメージは与えていた。何より攻撃に気を取られ、穴から抜け出す時間も稼ぎ、気を引いてもいた。
──今はまさにチャンスと言うわけか。……ん──
見るとセリス、クラインは武器を握り、既にスクラヴドラグへと向かって行っていた。
──おっと! あの二人に先を越されたか。僕もこうしてはいられないな──
彼の武器は右手に握る槍と、背に背負う機関銃。集落に来てから手に入れた使い勝手の良い武器だ。
──じゃあ僕も、行こうか!──
エクスも槍の柄を握り窓から飛び降りた。
少し高い位置であったが、問題はない。上手く地上に着地すると、すぐ目の前の巨大な怪物、スクラヴドラグを見据える。
大地を強く蹴り、エクスはスクラヴドラグへと立ち向かう!




