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第三話 父と子と



「全く! どうしてこんな怪しい奴と一緒に待ってなきゃいけないんだ」


「まぁまぁ。せっかくなんだし仲良くしようよ、ギリー」


 嫌がるギリーと相変わらず馴れ馴れしいエクスは、集落の一画に積まれている機械残骸の山の傍でセリスを待っている。

 彼女はエクス達をここに置いて、長老に話をして来ると言い一旦二人から離れていた。だが──。

 周囲の住人は相変わらず余所者のエクスを好奇な様子で眺めていて更に、二人の間は……と言うよりギリーが一方的になのか、いくらかピリピリとした様子であった。

 ギリーは鋭い電子音で威嚇する。


「気安く呼ぶな! さっき命を救ったことには礼を言うが、お前のような怪しくてヘラヘラした奴なんて俺は大っ嫌いなんだ!」


「大嫌いとは、随分と手厳しい。でもそんなに嫌われるなんて悲しいな……」


 そう大げさにエクスは悲しそうな顔をしてみせる。すると今度はふと何か思い出した表情に変え、懐からゴソゴソと中を探る。


「あ、そうそう! 僕が旅している間に拾った、良いものをあげるよ。ちょっとした遊びにはもって来いさ」



 エクスが懐から取り出しギリーに手渡したもの、それはカラフルな九つのパネルで形成された面で形成された、正方形の六面体だった。


「これは……何だよ? うわっ!」


 ギリーは不思議がってそれを手元で弄っていたが、突然六面体の一部がかちりと音を立てて回転したのを見て、驚いた。


「ぷっ!」


 彼の驚いた様子があまりに以外だったせいか、ついエクスは吹き出した。ギリーはそんなエクスに睨みをきかせる。


「ごめん、つい可笑しくて……。これは『ルービックキューブ』って言う昔の人間のおもちゃさ。この六面体をこうして……」


 エクスはギリーの手元からルービックキューブを借りると、慣れた手つきでカチャカチャと動かすと、それぞれの面を赤や青に黄色と白一色に綺麗に揃えてみせた。


「おおっ! ……すごいな、一体どうやったんだ?」


 先程の険悪な様子は何処に行ったのか、ギリーは素直に尊敬した様子をエクスに見せた。エクスもそれには得意げだ。


「ふふん! 凄いだろ! けど実際は単純で、法則性が分かれば簡単なパズルだよ。ギリーだってきっと出来るはずさ」


 そう言ってエクスは再びギリーに、ルービックキューブを手渡す。ギリーはぼそりと呟く。


「……お前って意外に良い奴、なのかもしれないな」


「ようやく気づいた? ふふっ!」


 やっと二人が少し打ち解けた気がして来た、そんな時に……。


「おっ! ギリー、新しい友達か? 随分と楽しそうで何よりじゃないか」




 そんな中、一人の住人が近づいて来た。

 姿はギリーにそっくりで、それより一回り大きく頑丈な体格をしている。


「……げっ! 親父かよ!」


 ギリーは嫌な声を上げて呻く。


「親父? ……ああ、以前野生の機械生物を分解した時に体内に、生産プラントを内蔵している個体もいたね。知能を持つ君たちにも同じ機能があるなら、『生みの親』という概念があるのは当然か」


 一人納得するようにエクスは呟く。

 いつものギリーならここで不機嫌になり文句を言うだろうが、今はそんな余裕もないらしい。


「やぁ、遅くなった。長老とは話をしてきたから、今から……」


 それに丁度セリスも二人の所へ戻って来た。すると彼女はその住人の事を知っているらしく、挨拶をかわす。


「ギースさん、こんにちは。今日も集落の防衛、お疲れ様です」


 住人はセリスに大きく手を振る。



「やぁセリス! 息子の狩りの特訓に付き合ってくれて礼を言う。どうだった? 息子は迷惑をかけなかったかい?」


 セリスはふふっと笑って、首を横に振る。


「そんな事はない。多少未熟な面はあるが、腕としては上出来だ。これなら成人の儀も上手く行くだろう。安心して下さい、ギースさん」


「ははは、それは助かる。これもセリスが息子を鍛えてくれたからだな」


 二人の会話を聞きながら、エクスはギリーに聞いた。


「ねぇ? 『成人の儀』と言うのは一体何かな?」


「ああ……こう見えても俺は二か月後に、生まれてからもうすぐ十年になるんだ。ここでは生まれて十年目になった住民は一人で外に狩りに行って獲物を仕留めて、一人前の大人だと認めてもらうのさ。まぁ……俺たちは新しく生まれることは少ないし、数年に一度あるかどうかで、儀式も珍しいんだ。だからその時になると、みんなは盛大に祭りを開いてお祝いをするのさ。

 そう考えればこの時期にここに来たお前は、運がいいのかもな。ここの祭りはとても豪勢で豪華なんだぜ。派手などんちゃん騒ぎ……楽しみだぜ」


 するとギリーの父親、ギースは金属の拳で軽くギリーをごついた。


「まったく、仕方ない奴だ。祭りはお前が成人の儀を成功させた後だ。セリスから聞いたが、お前はあのギガノユンボを刺激したそうじゃないか。……はぁ、あれには大人でさえ手を焼くと言うのに……よく無事でいられたものだ」


「何だよ親父! とにかく無事だったんだから良かったじゃないかよ」


 いかにも親子喧嘩が起こりそうな様子、セリスはそんな二人をたしなめる。


「まぁまぁギースさん、落ち着いて。それにギリー、無事にこうしていられるのはエクスに助けられたからだろう」


 これを聞き、ギースは見慣れない異邦人に目を向けた。


「……ん? エクスだって? 確かに見慣れない者が一緒にいるから気になっていたが、この者は息子の命の恩人なのか?」


 セリスは頷く。


「ええ。狩猟場でギガノユンボに襲われた時に、偶然居合わせたエクスがギリーを助けてくれた。色々と謎が多く怪しい者だが、仲間を助けてくれた者だ。集落に案内してくれと願われたとしても、無下には出来ないだろう」


 再びギースは異邦人、エクスを見た。そして大きい合成音声の笑い声を上げると、巨大な両手でエクスの肩を叩く。


「ほうほうほう! 君が俺の息子を助けてくれたのか、これは礼を言わないとな、ありがとう! 

 俺はこのグリーンパーク集落の防衛隊長、ギースだ。君がどこの誰で何者かは知らないが、悪い奴ではなさそうだし、何より息子の恩人だ! 

 集落を代表して君を歓迎しよう! どうか自分の家だと思ってゆっくりしてくれ」

 

 さすがのエクスもその勢いには押され、ただう頷くことしか出来なかった。



「それでは、私はエクスを長老へと会わせに行く。ギリーはもう帰って充電をしておけ。あれだけ動いた後だ、バッテリーの消耗が激しいだろ?」


「おいおい、それを言うならセリスもだろ? 俺はまだ大丈夫だぜ」


「それに今日は、発電機の修理も残っているじゃないか。適度に休みを入れるのも大事な事だ。

 それではギースさんも、これから集落の周回警備でしたね。どうかお気を付けて」


 ギースは威勢よく返事を返す。


「おう! そっちも、長老と上手く話がつくよう願うよ」


 そして別れ際、ギリーの肩を組んで捕まえて行った。


「なっ!」


「あまりセリスを困らせるんじゃない。それに家は職場に向かう途中だ。まぁせっかくだ、家に送る間でも親子水入らずで話そうじゃないか」



 ギース、そしてギリーはそう言い、向こうへと去っていった。


「さてと……エクス、防衛隊長に気に入られて幸運だったな。彼は集落でもそれなりの実力者だ、もしここで暮らすなら色々と助けになるだろう」


「ふぅーん、そうなんだ。でも、どうして僕がここで暮らすと?」 


「まさかこんな危険な世界で、ずっと放浪している訳にはいかないだろう。これでも私は、親切心で言っているんだぞ」


 この世界はあのギガノユンボと同じような、いやそれ以上に巨大で危険な機械生物が闊歩している世界だ。

 素性の知らないエクスはともかく、セリスにはそれが十分に分かっていた。

 エクスも一人放浪していたと言っていた、まさかそんな実情を知らない訳ではないはずだ。なのにこの飄々とした態度…………訳が分からない。


 ──まぁ、長老と話させれば、何か分かるかもしれない──


 分からないままなのは気持ちが悪い。セリスはこのエクスと呼ばれる存在に、ある種の興味を抱いていた。

 

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