第三十八話 最大の狩りへ
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「さて。ようやく今日から、狩りの再開だね」
外の広場には、今回の狩猟の準備を済ませたエクスが待っていた。
エクスの他にもギリ―もそこにいる。
「数日も動いてないからな、腕が鈍ってないか心配だぜ」
「あはは、多分そう簡単には鈍らないさギリー。それにしても……」
「セリスのやつ! まさか遅刻かよ。まったく、リーダー失格じゃないのか?」
「……お兄ちゃん、まだ時間じゃないでしょ。ただ私たちが偶然早く集まっただけで、遅刻だなんて失礼です」
狩猟のメンバーは、リーダーのセリス、そしてエクスとギリー。
……なのだが、加えてもう二人、狩猟隊に復帰したクラインと妹であるミースも、今回は加わっていた。
「にしても、俺たち五人での狩猟とは……これはずいぶん大きな狩りなんだろうな!
──ま、力不足の奴が、約一名いるが」
クラインはちらと、自分より図体は大きいギリーへと視線を向ける。
「そ、それは……セリスの指示さ。成人の儀も近いから、これも勉強だって。
……俺は遠くから援護射撃をするだけだからさ」
「ちっ! 半人前を同行させるなんて、何かあったらどうするんだよ。
やっぱり俺がリーダーになった方が、いいんじゃないのか……」
クラインがそう愚痴っていた時……。
「どこの誰が、リーダになると?」
「へっ!?」
いきなり後ろからの声に。クラインは驚き振り向く。そこにいたのは……準備を済ませたセリスであった。彼女は両手を腰に当てて、クラインを軽く睨む。
「さて、君たちは先に来たみたいだが、何だか楽しそうな話をしていたではないか。
……良ければ何を話していたか教えてもらえないか。なぁ、クライン」
セリスからの若干の威圧がこもった言葉。これにはクラインも、苦笑いしてたじろいでしまう。
「あ、ははは……。特に大したことは、言ってないさ。だろ? エクス」
ついクラインは、傍のエクスに助けを求める。
「うーん、まぁそこまで変な話じゃ……なかったとは思うよ」
エクスもそう、どうにか助け船を出す。
──仕方ないな。そう言いたいかのように、セリスは小さくため息をつく。
「本当にしょうのない奴だ。……まあいい」
と、彼女は気持ちを切り替え、話題を変える。
「さて──。今回の狩りについてだが、内容はまだ知らないだろう?」
四人は、それに同意する。
肝心の狩りについては、まだどう言うものになるのか知らなかったのだ。
「これから行う狩りは、かなり骨の折れる代物になるが……集落の安全もかかっている。
気を引き締めるように」
「集落の安全、ですか?」
ミースの怪訝そうな様子に、セリスはうなづく。
「ああ。何しろ、狩りの獲物となるのは……凶悪な機械生物である、スクラヴドラグだ」
「「「!!」」」」
その名前を聞き、何なのか知らないエクスを除き、ギリー、クライン、ミースの三人は驚愕を見せた。
「何だよ! あんなの相手にするのか!?」
「……けど、スクラヴドラグはずっと遠くに生息しているはずだ。それがどうして」
さすがにクラインも動揺を隠すことはできない。
彼はそうセリスに聞くも……。
「恐らくは一匹、廃墟群へと迷い込んで来たのだろう。
だが一匹だけでも十分に危険だ。今はまだ離れた位置にいるが、いつそれが集落に接近するか分からない。
もしそうなればどれ程の被害が出るか。その前に、先に我々で叩く」
真剣な面持ちで彼女は説明するも、ふいにふっと軽く笑って見せた。
「……と言っても、作戦は既に考えてある。
その通りにすれば、いかにスクラヴドラグと言え問題ないはずだとも」
いかに強大な相手と言えど、勝算は十分にあると。セリスは自信があった。
「全員準備を済ませたことだ。……早速、向かうとしよう。
ぐずぐずしていると、獲物がポイントを離れるかもしれないからな」
「はぁ……一番来るのが遅かったくせに、よく言うよ」
小声でそう不服そうに呟くクライン。
「何か言ったか?」
「──いいや、何も。
さぁミース、それにギリーにエクスも行こうじゃないか。
例え何だろうと一捻りしようぜ」
彼もまた、全員に活を入れる。
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こうして出発した一行。……だが。
先頭を行くのはクライン、セリスは一番後ろを歩いていた。
先を行くメンバーを眺めながら彼女は複雑な表情を浮かべる。
「……くっ」
何を考えているのか、無意識に重い雰囲気を醸し出すセリス。すると彼女のすぐ前を歩いていたエクスはそれに気づくと。
「ねぇ、セリス」
エクスは後ろにいるセリスへと振り向く。
「……ん」
「さっきから少し変な気がしてさ。あのさ、大丈夫? 無理とかしてない?」
心配そうにそう尋ねるエクス。
ではあったが、彼女は……どうにか笑ってみせて。
「ああ。心配する、ことではない」
「そう? なら……いいけど」
いくらか気になるようであるものの、エクスは再び視線を前へと戻す。
──はぁ。まったく、余計な気遣いなど──
とても小さく、セリスはため息をつく。
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草木の緑に覆われた廃墟の中を進む五人。
あちこちには小型の機械生物が見え隠れする中、スクラヴドラグの元へと急ぐのだが。
現在、廃墟と廃墟の合間の、瓦礫で階段状となっている登り道を歩く一行。
「やけに静かだな。最初は機械生物や動物の声も、普通に聞こえたんだけどな」
ギリーは辺りを見回しながら呟く。
彼の言う通り、集落を出てすぐの間は外の様子も普通だった。
だがそれから目的地へと近づくにつれ、生物の気配と数は少なくなり、声も聞こえなくなっていった。
……今はちらほらと機械生物が数体見えるものの、その様子は強く警戒しているようであり、音もたてず物陰に隠れていた。
「その分スクラヴドラグに近づいていると言うことだ。
ここまで来れば、もうあと少しだろう」
「ふふふ! 私のエトランゼMarkⅡの具合も、いい感じ。
これなら何だろうと、撃ち抜けちゃう!」
ミースは自分を鼓舞するかのように、自らエトランゼMarkⅡと名付けた大口径大型砲銃を構え、格好よくポーズを決める。
「ははは! さすが自慢の妹だ! ……ん?」
先頭を歩んでいたクラインが、登り道の真上に到達した。
その時だった。彼はその先にある異様な姿を見た。
「どうしたんだい? クライン?」
目の前で立ち止まり、固まっていたクラインにエクスは声をかける。
するとクラインは無言でエクスに顔を向けると、先の方向へと指をさす。
「……何かあるってこと? どれどれ……」
エクスはクラインの横から覗き込むと、そこにいたのは…………すごく巨大なものであった。




