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第三十四話 釣りをするクライン


 

 ────


 実は、真っ先に聞こうとした相手は長老であった。だが今は集落の運営を行うウーシェイと、ガインとギースの三人が会議を行っている最中らしい。

 仕方なく他の人にも聞くも、だれも図書館などの存在を知らないようだった。


「へぇ、トショカンだって。……悪いが私は知らないな」


 武器屋のマティスにも聞いてみたが、彼女もまた知らない様子だ。


「うーん、マティスさんもしらないか」


「ガッカリさせたのは悪かった。ちなみに……話は変わるが、私の調整した武器は上手く使えたか?」


 彼女の問いにエクスはコクリと頷く。


「まあね。キャラバン隊の護衛では、なかなか力を振るえた感じさ。

 よく切れるし、撃ちやすくて使いやすい……。今は使う機会がないのが残念なくらいさ」


「……ああ、確か数日間は禁猟日だって事だからな。まぁゆっくりしていることだ」




 マティスは笑いながらそう話すも、ふと、何か思い当たる節があるようにこんな事を話す。


「だが、待てよ……。そう言えばクラインだったっけな、あいつは何か妙な遊びにハマっているらしい。ちょっと話したんだが、最近ふとした事で知った……って言ってたような」


「──もしかすると! それかも!」


「ほう! なら──ここから先にある、窪地へと行くといい。多分、今回もクラインはあそこで例の遊びをしているだろうからな」


 彼女が指さすのは、真っすぐ伸びる商店区画の、町外れ側の出口。


「場所は分かるかい? そこを真っすぐ行って、行き止まりを右に曲がれば窪地がある。見に行ってみるといい」


「分かったよ! ……ありがとうマティスさん」


 エクスはお礼を言うと、さっそく言われた場所へと向かって行く。


「じゃあな。トショカンとやら、見つかるといいな」


 マティスはそう言った後、空いている時間……店の在庫整理でもする事にした。




 ────


 グリーンパーク集落の幾らか外れた所には、地下に大きく穴が開いた窪地が存在していた。


 ──言われた通り来てみたけど、クラインは……どこかな──


 エクスの近くに広がっているのは、直径百メートル以上の巨大な穴。

 恐らく地下の空洞の広がりと、劣化で地盤が弱くなっていたのか、地上の建物の一部ごと地下に崩れ落ちたのだろう。

 穴の側面には幾層もの廃墟の階下が伺え、その底には瓦礫や岩が無数に沈む深い湖が見える。



 クラインを探すエクス。すると幾らか離れた所に、穴の縁辺りに座る人影があった。

 近寄るとそれは探していたクライン、案外呆気なく見つかったものだ。


「おう、誰かと思えばエクスじゃないか」


 エクスに気づいたクライン、手元には長い棒のようなものを持ち、棒には糸が巻かれ巻き軸も取り付けられていた。糸は棒の端へと続き、そのまま下の湖に垂らしていた。


 ──あれは釣り竿……ってわけ──

 

 手作りで不格好であったこそ、彼が手にしているその構造のものにエクスはまた心当たりがあった。

 すると……棒の先がピクリと動き糸が下に沈む。


「……おっと! これは大物かも!」


 クラインは一気に釣り竿へ力を込め、巻き軸を目一杯に回す。

 糸は勢いよく巻き上がり空中へと昇る。糸の先には……

 



 ピチピチピチ……。


 糸の先には、小さな小魚が一匹ぶら下がっていた。


「ちぇっ! ただの雑魚かよ。もう!」


 慣れた手つきで釣った魚を外すと、湖の中に戻した。人間とは違い機械人は魚など食べれはしないからだ。

 エクスはそんなクラインの様子を見て頷く。


「まさかクラインが、釣りを知っているなんてね」


 クラインは再び釣り糸の先に用意した餌を刺し、湖へと投げた。


「良かったらエクスもやってみるか? 僕も最近始めたんだよね。

 ……どうやら昔人間がやっていた遊びみたいでさ、狩りに比べれば地味だけど、やってみるとなかなか面白いんだ」


 糸を垂らし、魚がかかるのをじっくりと待つ……。それこそ釣りの醍醐味だとクラインは知っていた。

 彼は釣り竿を構えながら、顔だけをエクスに向ける。


「それでエクスはどうしてここに来たんだ? 釣りがしたいんだったら、今道具が手元にないから……」


 エクスは首を横に振る。


「いや、ちょっとクラインに、聞きたいことがあったからね」


「……ん? 聞きたいことって?」


「クラインのやっている釣り、それって何で知ったんだい? マティスさんから聞いたんだけど、どこかで知ったみたいだって……」


 その問いに、クラインはふむふむと頷く。


「なるほどね。確かに釣りっていうのは……ある所で知った、知識らしいんだよね」


「ある所って! もしかして──」





 そうエクスは言葉を続けようとするも、彼は抑える。


「まぁまぁ。正確には、その場所に入り浸っている……妹から教えてもらったのさ」


「妹──と言うことはミースちゃんだね」


 クラインには妹のミースがいた。兄と同じく狩猟隊に属しており、また兄と違い大人しい少女だった。


「そう言うこと! 何しろ、えっと……トショカンだったっけ、妹はよくそこに行って色々学んでいるみたいなのさ」


 ──図書館! まさにそれこそエクスが探していた場所であった。


「僕が探しているのは、まさにそこさ!

 ありがとう、クライン! それじゃ僕はミースちゃんを探さないと……」


「私が、どうかしましたか?」

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