第三十二話 帰路へと
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戦いは終わりエクスとクラインは集落へと戻った。
そこでは既にキャラバン隊が旅支度をしている所であった。……だが。
「なぁ、エクス?」
クラインはやや不安げな様子でエクスに話しかけた。
「どうしたんだい?」
「ディーゴさんたち、これからどうするのかな? だって……」
「……」
その事はエクスも気にするように、考え込んで沈黙する。
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シャドーを退けた直後の話だった。
「……本当に、そこまでしないといけないのかい?」
レジスタンスの人々は仲間の治療を行いながら、出発の準備をしていた。
まだ使える武器を詰めなおし、動けるメンバーの多くは修理用のパーツと、簡易な発電機器やバッテリー、燃料など今後の生活で必要な物資を集落から運び出している所だ。
──もうラグーンサイド集落には戻ることはないと、見ているだけでそれを察した。心配そうなクラインの問いに、集落の長老かつ、レジスタンスでもあるリープが答える。
「仕方あるまい、我々は覚悟の上だとも。
何しろシャドーを取り逃してしまった。もし我々が集落に留まれば、奴らは報復に来るやもしれん。だから我々は去らなければならない、あえて女王に集落から去った事を分かるようにしながら……な」
だが、これにはエクスが反論する。
「でも、それだとあなた達が危険じゃないか。それに……仮にそうしたとしても、それでも集落に攻めて来た時には?
……僕だって人のことは言えないけど」
エクスもまた人類女王に歯向かった一人だ。その意味でも、彼らの今後を気にかけるが……。
「心配はいらないとも。我々の存在を知らせた後も、身を潜める場所の手配はある。そして集落の人々も覚悟は出来ているとも。
何事もなければ良し、万一報復に来られたとしても、その時に備えて逃げ道は確保している」
「本当にごめん。もし僕がシャドーを倒せていたら……」
すると意識が回復したディーゴが、頭を向けてこう伝えた。
「気にしなくとも、元より吾輩たちは女王に敵対する存在だ。遅かれ早かれ我々のみでも戦うことになったとも。
吾輩もけじめだ、もうグリーンパークには戻れない。ガイン殿には宜しく伝えてくれ。……我ながら、申し訳ないと」
「……分かったよ」
エクスは、こくりと頷く。
こうしてレジスタンスは全員、各々の車両に乗り込み、何処か遠くへと去って行ったのだ。
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そんな事を二人は思いかえしていた。
するとキャラバン隊から、エクス達に気づいたガインが一人、歩み出た。
「エクス、それにクラインも……ようやく戻ったのか」
「ええ、ガインさん」
「我々はもうすぐ出発だ。二人とも、急いで車両に乗り込むといい」
ガインは簡単に指示を出した後、続いてこう聞いた。
「……それで、ディーゴは見なかったか? 先ほどから姿がないのだが」
この質問にエクス、そしてクラインも言葉を詰まらせる。
「……」
だが、二人の沈黙に何かを悟ったらしく、ガインは呟く。
「ディーゴの奴め、勝手な真似を……。レジスタンスの一員などやりおったために……せめて私に一言言ってくれたなら」
意外な言葉にクラインはつい尋ねた。
「ガインさん。もしかしてディーゴさんの事を……」
ガインは頷く。
「ああ、薄々はな。全く愚かな──女王に歯向かうとどうなるか、分かっていると言うのに。
だが……奴は、親兄弟を女王の手によって失った。仕方ない部分もあったが……それでも意味があると私には思えない。
私だって何人もの友人を失った。更にディーゴまでもが、これ以上堪えられないと言うのに……」
怒りか、悲しみか、それとも両方か……。彼は両拳をぐっと握る。
「まさか、そんな事が……」
クラインは正直、ガインの事を嫌っていた。
偏屈で、やや傲慢でそして、取っつきにくいと思っていた。だからこそその告白はあまりにも、意外でもあった。
これを聞いていたエクスもまた、複雑な表情を見せる。
そして、ガインはそのエクスに対し続ける。
「……エクス、貴様が災いの原因となり得る事、そして我々にとっても危険な存在である認識は変わりはない。
だが──恐らく、ディーゴの無念を少しでも晴らす手伝いをしたのだろう。それは……礼を言うぞ」
「ガイン……さん」
まさかそんな事を言われるとは、いくらエクスでも思っていなかった。
「──まぁ、話はそれぐらいだ。さぁ二人とも車両に戻るんだ。帰路もまた、君たちには護衛の仕事をしてもらわなければならないのだからな」
するとまた元の調子に戻り、ガインは二人に命令する。
エクス、クラインは言われた通りキャラバン車両へと戻る。しかし……。
「ディーゴめ、あんな真似をしおってからに。だが……無事でいて貰いたい」
ぼそっと小さくつぶやいた、ガインの言葉。
エクスも、そしてクラインも……その気持ちは同じだ。
それからキャラバン隊は、ラグーンサイド集落を後にした。
ディーゴの失踪については急用で集落に留まることになったと、他の隊員に伝えられた。
真相を察しているガインと、直接見聞きして知った、エクスとクライン。
姿を消したディーゴと、レジスタンス。彼らは一体……この先どうなるのか、考えた所でどうにかなるものではない。
──これがこの世界の在り方……って訳、か──
人類女王に歯向かう事は本来ああ言う事なのだろう。
余所者のエクスが女王に歯向かい、そして尚も留まっていられるのは、単に幸運と彼自身のイレギュラーさが幸いした結果にすぎない。
改めて機械人の実情を知り、複雑な思いを抱えたまま、エクス達は帰路へと向かう。




