第三十話 冷酷強大な黒騎士
突如瓦礫からエネルギーの柱が天高く上がった。
周囲の瓦礫は砕け、吹き飛び──中から何者かが立ち上がり現れた。
「ふっ、ガラクタどもめが」
瓦礫の山から現れたのは、まさしくシャドーの姿。
その頭部をエクス、そしてレジスタンス達へと向け、歩みを進めようとした。
……だが
「シャドー様……。どうか、お助けを」
一歩進めようとした足を、誰かの右手がガシッと掴んだ。
その正体は人類女王のスパイであった、ルシエルであった。
瓦礫により下半身はひしゃげて潰れ、上半身も大部分が破損しボロボロの状態だ。左腕はもはやなく、残った右腕の手でシャドーの足を掴み必死に助けを乞う。
レジスタンスもまた彼の姿に気が付いた。
「ルシエルの奴、まだ生きていたのか」
レジスタンスの一人が、そう憎々しげな様子で呟いた。彼らにとってみれば、このスパイのせいで、大勢のレジスタンスが犠牲になった。ルシエルの味方になる者はこの場に誰一人存在しない。
「助けて……ください、シャドー様」
なおも懇願を続けるルシエル。
シャドーはその姿を一瞥し、一言──。
「穢れた手で、我に触れるな」
そう言うや否やビームソードを抜き、呆気なくルシエルの首を刎ねた。
残った胴体は動かなくなり足を握っていた右手も力を失う。
「自らの仲間を、あんなにも呆気なく」
いくら裏切り者だとしても、その哀れな最後にディーゴは怒りで声を震わせた。レジスタンスもシャドーの生存に警戒が走り、武器を構える。
シャドーは瓦礫の山からレジスタンス、そしてディーゴとエクスを見下ろした。
「仲間だと? この我とお前らガラクタ共を……一緒にするな!」
途端、その姿は高く跳躍しディーゴ目掛けてビームソードを振り下ろす。だが、ディーゴも背中に掛けていたヒートブレードで攻撃を防いだ。
高熱の刀身同士が拮抗し、火花が散る。
「エクス殿は下がってもらおう。ここは吾輩に任せるといい」
現状、エクスの手元には武器がない。ここは言う通り身を引いた。
ディーゴ、そしてシャドーの両者は、互いの剣で激しい鍔迫り合いを繰り広げる。
「──邪悪なる人類女王の手先、シャドー! 今まで散った多くの同胞とそして、虐げられた機械人のためにも、貴殿はここで倒させてもらう!」
超高熱で発熱する刀身を持つ、ヒートブレード。そのおかげでビームソードに容易く切断されることなく、攻撃を防ぐ事が出来ている。
だが──。
「たかがその程度で、甘いな」
シャドーはじりじりと、ディーゴを圧していた。
見るとヒートブレードの刀身も、耐えられずに亀裂が走り出している。
いくら一時的に凌げても、武器としての性能そして技術も、シャドーのビームソードが何段も上だ。
もはやこれ以上……持ちはしない。
「おのれ、それならば!」
ディーゴは腰に備えた小型グレネードを片手で引きちぎると、シャドー目掛けて投擲した。
グレネードは爆発し、至近距離でそれを受けたシャドーに隙を作った。
その隙にディーゴは距離を離し、後方に控えていたレジスタンスに指示を出す。
「今だ! シャドー目掛けて、ありったけの火力をぶつけてやれ!」
レジスタンスの機械人達は各々の銃火器を構え、ただ一人──シャドーに向けて全火力を集中させる!
次々と弾やミサイルが当たり爆発と煙、そして激しい音が覆いつくす。
撃って、撃って──。ありったけの火力をぶつけ尽くした末、ようやく攻撃を止めた。
「やったか!」
今度こそと誰もがそう思った。……だが!
爆炎の中に揺らめく人影、それは突如右手をかざし、その先を前と向けた。そして──。
放たれたビームは並んでいたレジスタンスに向かい、横一列に薙ぎ払った。
高出力、高熱量のエネルギーが薙いだ跡には灼熱の炎の壁が立ち上がる。その一撃で、大多数のレジスタンスは倒れた。まだ生きてはいるらしいが、もはや再起は出来ない程に傷ついていた。
「──ふっ」
一方で、姿を表したシャドーは全くの無傷。
──おかしいな。幾ら強固な装甲だったとしても、あそこまで傷がつかないなんて──
さすがにエクスは不審に感じた、そんなさ中……シャドーの正面付近にうっすらと赤く発光した、半透明の六角形が組み合わされて作られた障壁の姿が見えた。
──まさか、エネルギーそのものをシールドに……フォースフィールドとして防御に転用まで出来るとはね。これは僕が思ったよりずっと──
そんな事を考えるも、今はレジスタンスが追い詰められ壊滅寸前だ。
エクスはレジスタンスとも少し離れていたために、直撃を免れた。また、前面にいたために唯一先ほどの攻撃から逃れたディーゴも含め、少数の機械人は軽症で、まだ戦える状況にある。
……最も、相手があまりにも悪すぎる。
もはやレジスタンス側に勝てる見込みなどない。はずなのだが……。
「これで勝ったつもりか? まだ、吾輩が残っているぞ!」
ディーゴの戦う意思はいまだ衰えていなかった。彼は背中に掛けたもう一本のヒートブレードを取り、再度シャドーに挑む。対するシャドーはビームソードを手に、ディーゴ目掛けて振り払う。
その動きは目にも留まらない程だったが、彼はそれをさっきのように受け止めず、間一髪で避け後ろに回り込んでヒートブレードを突き立てようとした。
しかし近接攻撃もまた、フォースフィールドによって阻まれる。
ディーゴにとってみては、訳の分からないエネルギーの壁に攻撃を防がれ混乱に襲われた。
「何なのだ、一体!」
「これだからガラクタは。もういい──壊れろ!」
そう言った瞬間、ビームソードの軌跡が宙を走り……ディーゴの胸を貫いた。
────
「……ぐはっ!」
ビームの刃は頑強なディーゴの体を貫き、貫通していた。
シャドーがビームソードを抜くと、高熱で焼けたような穴が空いていた。力を失い後ろへ仰向けに倒れる、ディーゴ。
「ううっ……はぁ……」
だが彼は辛うじて生きていた。
まるで死神のように、シャドーは倒れたディーゴを見下ろし剣の先を向ける。
「まだ生きていたか。見せしめに……まずはお前の息の根を止めてやろう」
そして、シャドーはビームソードで止めを刺そうとした……その時!




