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第二話 機械達の集落


 あれから三人は廃墟の街並みの、裏通りらしき道を歩いていた。

 その内、ギリーは先ほどのギガノユンボの残骸の頭部のみをケーブルで結び付けて引きずっている。残りは後で仲間を呼んで持ってきてもらう予定だ。


「もうすぐ私たちの集落だ。ギリーを助けてくれた礼だからな、望み通り長老の所に案内するが……何しろ人類が存在していた頃から生きている方だ。失礼のないように」


 エクスはそのセリスの言葉を聞いているのかいないのか、はいはいと言って受け流す。

 そんな様子を見ていたギリーはセリスに対して小声で話す。


「おいおいセリス。こんな奴を一緒に連れて来て、それに長老に会わせると勝手に約束までして大丈夫なのかよ? 色々と胡散臭いし」




 ────時間は少し前に遡る。

 謎の異邦人、エクスはセリス達に出会った後、彼女らが暮らす集落への案内とその責任者に会わせるように頼んで来た。

 かなり図々しい頼みではあるが、何故かセリスはそれを了承した。

 何処の誰かも知らない怪しい余所者を独断で、集落にまで案内すると言った彼女。

 ギリーはそれに強い不満を抱いていた。



「どの道この残骸を集落に持ち帰らないといけないだろ? それにあんなに怪しい存在を、放っておくのも心配だ。ここは一度長老にお伺いを立てた方がいい。

 もしかしたら何か分かるかもしれないし……私も、少し気にはなるからな」


「そうかよ……俺は気に入らないけど。けど、セリスがそんなに興味を持つなんて珍しいじゃないか。もしかして……さっきの言葉を気にしているのか?」


 さっきの言葉、それは先程エクスが自らを、『人間』と言ったあの言葉だった。


「……まさか、あんな馬鹿馬鹿しい事など」


 苦笑いを見せて、セリスは否定する。


「だよな。大体人間なんて、とうの昔に絶滅したんだろ? あいつだって人間だなんだと言ってるが、絶対、ただ人間にそっくりなだけのアンドロイドにすぎないのさ。

 自分を人間だってハッタリをかませば、有利に立てると思っているんだろうが、大きな間違いだ。長老が……その化けの皮を剥がしてくれるに決まっているぜ」


「……そうだな」



 廃墟と廃墟の間に続く日の当たりにくい狭い道。足元には小さい虫と、虫に似た機械生物が混じって蠢いていた。

 もはや自然の生物と機械生物は、すでに同質に近い存在として共生している事がここでも伺えた。

 自ら人間と名乗った謎の異邦人エクスは、二人の会話を聞きながらそんな様子を物珍しそうに眺めている。


「ふーん、一人で旅していた途中で何度か見たけど、こうした所まで自然の生物と機械とが共生して生きているとは、驚きだね」


 エクスはそんな反応の一方、この世界で暮らしているセリス達にとっては当たり前の光景だ。


「俺にとっては、アンタみたいな奴こそ驚きだぜ。まぁ人間様にとっては機械なんて……自分の召使としか思っていないんだろうけどな」


 機嫌の悪いうなり声を上げて、ギリーは吐き捨てた。


「……ん? 僕が何か悪いことでも言ったかな?」


 まるでとぼけているかのような、きょとんとした表情でエクスはギリーのモノアイをのぞき込む。


「別に……何でもねぇよ」


 ギリーはエクスからモノアイをそらしぶつぶつと呟く。



 するとセリスが振り向き、彼の代わりにこんな事を言った。


「言っておくがお前が人間である事は、あまり言わないことだ。多くはそこのギリーと同じように、人間に良い印象なんて持ってないからな。理由は……分かるだろう?」


「……成程。君たち機械はかつて人類にいいように使われていた過去を、恨んでいる訳だね。ふふっ、その点なら僕は大丈夫。心配しなくても……」


 しかしエクスの言葉を、セリスは遮る。


「もちろんそれもある。長老を除いて、私達二人を含めた多くは人間が既に滅びた時に生まれて、実際の人間なんて見たことはない。だが、かつて人類に従属していた過去はお世辞にも良いものだとは言えないさ。

 しかし……大きな理由は、それとはまた別の事だ」


「別の理由だって?」


「まぁ、それこそお前には関係ない。それよりほら、見えて来たぞ。ここが私達の暮らす集落……グリーンパーク集落だ」


 見ると狭い裏通りは終わりを告げ、その先には外の光が差していた。

 三人は光の先へと進んだ。




 ────


 人類文明の巨大な墓標と化した、巨大な大都市の廃墟群。

 セリス達三人が辿りついたのは、その廃墟群の中に存在する広大な広場だった。かつてここは大都市に住んでいた人々の憩いの場、自然公園だったのだろう。今でもそこには樹木がいくつか生えており、地面には草地が広がっている。

 そして──中央には樹齢千年を超す大木が天高く伸びている。もしかするとこの木も人類が存在していた頃から存在していたのかもしれない。

 だがこの場所も、自然の物だけではなかった。

 広場の周辺には機械の構造物、建物らしき物が建てられていて、一画には様々な機械の残骸が山のように積まれている。



 さらにその辺りには……セリスらのような人型の機械が大小何十体も、ちらほらと動いているのも見えた。


「おーい皆、セリス達が帰ってきたぞ!」


 その中の一人が三人に気づいて言った。


「なかなかの獲物じゃないか、素晴らしい」


 するとその仲間達はぞろぞろと集まり三人の近くにやって来る。


「やぁセリス、それにギリーもご苦労だったな」


「二人だけでの狩りは大変だったろう。ゆっくり休んでいてくれ」


「ハハハ! すごいすごい! さすがセリスだ!」


 彼らの大きさは大小様々、そしてその姿も様々だ。

 かつての人間のような姿が多いが、人間のような肌と顔を持っているもの、肌など全体は金属で形成されているが外見は人間に似通っているもの、……さらにギリーのように二本足と二本腕など、そのシルエットこそ人間の面影はあるが、外見はまるっきり異なるものまでいる。

 そして彼らすべてに共通しており、また廃墟で闊歩していた機械生物には存在しないものがある。

 彼らには人格や精神、つまり心が存在している。これも長年にかけ人間の残した機械が、独自に進化を遂げた結果の一つだ。



「へー、これが君たちの集落って訳。ずいぶんと賑やかだね」


「……本当に何も知らないんだな。あちこちで、あんな機械生物が地上を闊歩しているんだ。俺たちが身を寄せ合って暮らすのは当たり前だろ?」


 ギリーはエクスに、ほどほど呆れているようだ。


「仕方ないさ、僕はまだ一度も君達みたいな存在と出会っていないんだから」


「まぁ、我々の数も決して多くはないからな。全く住んでいない地域もあるし、この地域すら近い集落は何十キロも先だ」


「ふぅん……。セリスだったっけ、君はここでずっと暮らしているのかい?」


 彼女は首を横に振る。


「いや、私は元々別の場所から流れて来たのだ。……色々とあったからな」


「成程ね。なら僕たちはよそ者同士、仲間ってことだね」


 ニコニコとしてそう言うエクス、しかし彼女は嫌な顔を見せた。


「お前のような得体の知れない奴と、一緒にするな」


「おおっと! 冷たいね」


 軽くエクスは肩をすくめた。

 そしてどうやら集落の住人達も、エクスの存在を知ってか、こんなことを話していた。


「セリス達と一緒にいる、もう一人は一体誰だ? やたら人間に似ているが……」


「いや、別に外見は珍しくないだろ。だが、何か異質な感じもするしな」


 などなど、彼らはそんな会話をしている。

 機械達の暮らすこの集落。それでも、やはりエクスの存在は異質な物であったのだ。

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