第二十八話 黒騎士との対峙
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エクスが連れて来られたのは、かつて中規模の工業プラントが位置していた廃墟跡である。
中規模と言え大型の工場が立ち並び、張り巡らされている無数のチューブや導管、そして高い鉄塔など、見ていると圧巻されそうだ。
車両は廃墟に入り、奥へと進む。
やがて辿りついたのは廃墟群中央の奥深く。その空き地に車両は停車し、エクスとルシエルは降りる。
外は夕暮れ。廃墟が辺りを囲み、その影がすべてを覆いつくし、まるで夜のように暗い中に二人は立つ。
「さて、と……、この後はどうすればいいのかな? 他のレジスタンスの人たちは」
「……」
だがルシエルは背を向けたまま、一言も発しない。
「あの、ルシエルさん?」
これに不信感を覚えたエクスは改めて尋ねる。
すると──。
「レジスタンスなど、初めからいませんよ」
「えっ?」
「本当によく来てくれました。我々は、エクス……貴方が狙いだったのですよ!」
すると周囲の廃墟から、一斉に女王の機械歩兵が現れ、武器を構える。
ライフルに機関銃……いや、中には大型銃やミサイルランチャーなど高威力の武装が施された機械重装歩兵も数多い。
それらの武器は全てエクスに向けられ、対して本人は今何一つさえ手元にない。
「一人相手に、ずいぶん大げさすぎじゃないか」
エクスは苦笑いを浮かべるものの、この状況はかなり危機的だ。
「──お初にお目にかかるな、エクス」
廃墟の中で一際高い鉄塔の上。そこには大型の機械馬にまたがりマントをたなびかせ漆黒の機械甲冑を纏った、黒騎士の姿があった。
「成程、僕をここに連れて来たのは……あなただったわけ」
仮面とも思わせるのっぺりとした頭部には、表情こそないものの、笑ったような合成音声を発する、
「その通りだ。我が名はシャドー、人類女王陛下の命により、君の価値──見極めるために参上した!」
シャドーは機械馬から降りると鉄塔から跳躍し、遥か真下のエクスのいる場所へと着地した。そして互いに向き合う二人……。
「ルシエル、お前にはもう用はない。下がっていろ」
「……はっ」
シャドーに命じられたルシエルは、後ろへと下がった。
突然の出来事。だがエクスは物怖じ一つせず、シャドーを睨む。
「さてと──僕の価値を、見極めるだって?」
「ああ。何しろお前は特別な存在らしい。
ダモスの話によると、人間だと、そう名乗ったと言う話だ」
シャドーの問いに、にいっと笑みを浮かべる。
「人間か、たしかにその通りだとも。……嘘は言ってないよ」
「気になる言い回しだ。ますます、怪しい所だ」
「それは悪いね。気分を害したら、謝るとも」
そんな会話をしているものの、エクス、シャドー両者の間には、強い緊張が走る。
エクスは更に続ける。
「シャドーと言ったっけ。価値を見極めるって話だけど……一体どうするつもりなんだい?」
すると、一体の機械歩兵がどこからか現れ、エクスに一本の剣を手渡す。
受け取ると大量生産品ではあるものの、それなりの強度を持ち、刃渡りも良い感じである。
エクスは剣の柄を握り、一振りする。
「これは悪くない。でも、武器を渡したと言うことは──つまりそう言うことだね」
「……ああ。何もないよりはましだろう。
最も我の前に、役に立つかどうか──」
目の前のシャドーも、機械甲冑の腰に接続された一本の機械仕掛けのグリップを引き抜いた。 手元のスイッチを起動させると、グリップの先から金色に輝くビームの刃が放たれる。
「まさか、純粋にビーム……エネルギーを使用した武器だとは」
シャドーの武器である、ビームソード。エクスはそれを目の前にして──驚きを隠せなかった。
これまでどの機械生物、そして機械人の武装さえどれも実弾、実体剣などの物理的なものしかなかった。
……そもそもエネルギーをそのまま高出力のビームとして攻撃に転じることさえ、莫大な量のエネルギーが必要である。
ましてや刃としてビームを高出力のまま維持するなど、高い技術力が必要だ。かつて人類が存在した頃ならともかく、エクスが見た限りでは機械人の文明はそれより数段低いものだった。
人類の文明の名残を復元、流用して使用してはいるものの、ビーム兵器を製造可能な技術は……持ち合わせていなかった。
──グリーンパーク集落も、そしてこのラグーンサイド集落さえ文明水準はそこまで高いわけではなかった
いや、僕が知っているのはたった二つの集落だけだ。……まだ高い技術を持つ勢力が存在していても不思議ではない──
とっさにエクスは思考を巡らせるも、現状では何一つ断定することは出来ない、
「お前をそのまま女王陛下の下へと連行するのも手ではある。
だがそれに相応しい存在か、我が見極めることにしよう!」
シャドーはそう言い、ビームソードを構える。
「せめて先手はお前に譲ろう。どこからでも──来るといい」




