第二十七話 裏切り
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ルシエルの後を、ついて行くエクス。
「それで……僕はどこに行けばいいかな?」
エクスは彼に尋ねる。
「貴方にはこの集落から離れた廃墟へと、今からそこに向かって頂きます。
少し遠いですが車両で行けばそこまではかかりません」
「ふーん、レジスタンスのアジトもそこにあるってこと?」
「……」
その問いに答えるのに間があった。だが、ルシエルはこう答える。
「ええ、どちらにしても、人気のない場所がいいですから。
何しろどこに──女王のスパイが紛れ込んでいるか」
彼はそう話すも、心の内では──。
──くくっ! 見事に、上手く事が運んだ。すべてはシャドーさまの計画通りである──
そしてルシエルは……数時間前の出来事を思い返す。
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数時間前、ラグーンサイド集落では……
集落端にある人気の少ない建物内にて……。キャラバン隊を代表として迎えた機械人、ルシエルは一人そこで、誰かを待っていた。
「……グリーンパーク集落のキャラバン、こちらへと訪れたみたいだな」
背後からの突然の声。振り向くとそこには、漆黒の黒騎士──シャドーが立っていた。
「あなたが女王陛下の使者、ですね」
「うむ。貴様がこの集落でのレジスタンスも始末したことは女王も聞き及んでいる。その働きに、喜んでおいでだろう」
ルシエルは、シャドーへと膝まづく。
「ありがたき幸せ。お役に立てて……光栄であります」
だがシャドーはそんな彼に対し一瞥だにしない。
「今回も女王の忠実なる僕として役立ってもらう。まずは──これを見るといい」
そして手元から小型の装ホログラム置を取り出し、ある人物のホログラムを宙に映した。
「キャラバン隊の中に、この者はいたはずだ。見覚えはないか?」
「はい。グリーンパーク集落のキャラバン隊については、あらかたメンバーも把握していますが……初めて見る顔でしたので」
ホログラムに映されるのは、銀髪の美しい少年とも少女ともつかない異邦人──エクスの姿。
「知っているなら話は早い。お前の仕事は、この者を周囲に悟られぬよう……街から離れたこの地点にまで連れて来ることだ」
ホログラムの画面を切り替え、今度はラグーンサイド集落を中央とする広範囲の地域の立体マップが映し出される。
集落と、そして海……。幾らか離れた地上にはかつて人類が遺した工業地帯だった廃墟がある。
シャドーはその廃墟を示し、伝えた。
「かしこまりました。全ては、女王さまの望みのままに」
ルシエルは一礼し、使者からの命令を拝謁する。
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そう、ルシエルこそ人類女王のスパイであった。 彼はシャドーの命令によりエクスを連れて来るように言われていた。
今は集落外れに停めてある車両の前へと来ていた。
「さて、君にはこれに乗ってもらうよ。後部座席に座ってくれ。運転は私がしよう」
「……うん、分かったよ」
エクスは車両の後部座席へと座る。
そして操縦席にはルシエルが乗り、さっそく動力を起動させる。
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買い物を済ませたクラインは、ゲストハウスに戻る途中であった。
手元には先ほど買って行った土産の入った袋。
──結局色々買ったわけだけど……満足すればいいな──
クラインなりにどれが良いのかは、ちゃんと選んで買っていたつもりである。
どんな反応をするか少し想像しながら道を歩いていたそんな時に、キャラバン隊の一員に遭遇した。
「おうクラインか! ……ずいぶん探したんだぜ」
「悪いね、ちょっと外がどんな感じか気になってさ」
キャラバン隊員は、どうしていたのか心底、心配にしていたようだった。
「まぁ、君たちは初めてだから無理はないだろうが……勝手に出歩いて、何かあったらと心配してたんだぜ? おかげで集落中探したんだが、どこにも見当たらなくて苦労したんだ」
それはそうだろう。何しろついさっきまで、海にまで出ていたのだから。
「それはゴメン、心配かけちゃったな」
「はは、別に気にしてないさ。それよりももう一人、エクスの方はどこに行ったんだ?」
「あっ、そ……それは」
返答に困ったクラインは言葉に詰まる。──すると。
少し離れた場所で何人もの機械人が、車両を用意して何処かに向かおうとしているのが見えた。
「おーい、クライン。エクスはどこにいるのかを知りたいんだが、話を聞いているか?」
キャラバン隊員はそう言うも、クラインは向こうの動向が気になって耳に入っていなかった。
彼らは武器を車両に詰め込み、強い緊張感が漂う。そして機械人の中には……
──あれはディーゴさんじゃないか──
キャラバン隊副隊長のディーゴまでも、その中に加わっていた。彼らの会話もほんの少し聞き取れた。それは……こんな内容だ。
「スパイは町外れの廃墟へと向かったとの事である。ここで仲間の仇も、取ってみせようぞ」
「情報によると余所者の誰かと一緒らしい。ディーゴ、確か君が連れて来た者だろう?」
「……ああ。まさかあのエクス殿が、巻き込まれることになるとは」
──なっ! エクスの奴、そんな状況にいるなんて!──
エクスの名を聞きクラインは驚く。そうしている間に、準備を済ませた彼らは車両を走らせ集落の外に出て行く所だ。
……こうしてはいられない。クラインは辺りを探ると、ちょうど近くにはバイクが置いてあった。
「あっ、ちょっと!」
彼は制止も聞かずにバイクに近寄ると、幸いそのままでも動かせそうだ。これなら……。
「悪いけど、ちょっと土産を預かってくれないか? それと戻って来るのは遅くなりそうだから、みんなに伝えていてよ」
クラインもキャラバン隊員に土産の袋を一方的に渡すとバイクに乗り込み、先を行った彼らを追う。
「おい! 一方的に……って、はぁ」
置いて行かれたキャラバン隊員は、渡された袋を手にため息をつく。




