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第二十六話 少し、お土産でも

 

 ────


 その後、船は港に戻りメガロフィッシュの残骸も引き上げられた。

 エクスとクラインは、船長達との軽い宴会に加わった後、別れて今は露店が並ぶマーケット通りを見て回っていた。


「あーあ、宴会はなかなかに楽しかったら。……ひっく」


 千鳥足で、呂律も怪しい様子のクライン。──酔っぱらっているらしい。


「いくら宴会だからって、オイルの飲みすぎだよ、クライン」

 

 一方でエクスは、落ち着いた様子でそんな彼の横を並んで歩く。


「らって、エクスは何も飲まなかったろ。代わりに僕が飲んであげたんらから、仕方ないらろ」


「ああ、分かった、分かったから。……息がオイル臭いよ」

 

 酔っぱらって変に絡みだしたクラインを、なだめるエクス。 

 そんな中でも、通りに並ぶ露店を、二人は見ていた。


「……あっ、あそこの店、特に気になるな。ほらクライン、ついて来てよ」


「ひっく」


 酔っぱらった様子のクラインの手を引き、エクスはある露店を見に行った。




 その店はアクセサリーや装飾品、雑貨などを販売している店だった。

 機械や自然物を加工して、ネックレスやアクセサリーなどに置物や飾りが並んでいる。カラフルだったりキラキラとしているもの、見ているだけでも楽しくなりそうだ。

 

「よぉ、らっしゃい。……見かけない顔だが、他所から来たのかい?」


 露店の店主である男性機械人は、エクス達に親しげに声をかける。


「まあね。僕たちは他所の集落から、たまたま来たんだ」


「にゃははは!」


 相変わらず酔っぱらっているクラインは、突然笑い出した。


「……お友達はひどく酔っているみたいだな。まぁ、見て行ってくれ。良ければ何か買ってくれたら、なお嬉しい」



 エクス、クラインは店に並ぶいくつもの商品を眺める。

 まだ酔いは残っていると言え、ある程度ましになったクラインは一つの装飾品を手に取り呟く。


「これなんか、なかなか綺麗だな。気に入ったよ」


 手に取ったのは、青とピンクに塗装された、貝殻のアクセサリーだった。


「ほう、じつにお目が高い。これは海に生息する、貝って言う生物の殻さ。俺たちと違って機械ではないが、それなりには頑丈だし、こんなにも綺麗なのだよ」


「海の生物……か。僕の住む集落では見かけない珍しい代物さ。記念として僕とミースの二人分、買っておこうっと。

 ちなみに僕たちのメダルは、ここでも使えるかな?」


 念のために持って来たメダルを取り出し、クラインは店長にたずねる。


「ああ、大丈夫だとも。ちなみにミースさんと言うのは君の恋人かね?」


「僕の大切な妹さ。お土産……喜ぶといいな」


 大人しくてしっかりもののミース、そんな妹をクラインは大事に思っていた。


「きっと喜ぶとも。……ところで、そちらの君は何か気に入ったのがあったのかな?」


 クラインの会計をしながら、今度はエクスにも店主は声をかける。


「……ふむ、僕もギリーやセリス、それにこの前遊んだ子供ども達とかに色々お土産を用意したいな。メダルだって、あんまり使ってないから結構持っているし」


「そうかそうか。どうかゆっくり見て、決めてくれ」


「もちろんそうさせてもらうよ。……ん? あれは」


 するとエクスも、何か目が留まったかのような、気になる表情を見せる。


「これは──」


「成程、君もこれが……気になるか」


 その視線にあったもの──、それは金属細工の変わった生物の置物だった。

 機械の小さな部品は外装を組み合わせて作られたオブジェ。上半身は人間の女性、そして下半身は魚の身体を持つその姿……。

 エクスはそれは何か知っていた。


「まさか人魚……とはね」


 この反応に店主は、面白そうな様子でこう話す。


「ああ。確か大昔の人類が考えた架空の生き物ってのを、これを作った人から聞いたっけな。

 何も、このニンギョって美しい生物が、人間の王子様とやらに恋するも……結局は成就せず泡になって消えるっていう物語ってことだ」


「……へぇ」


 機械人が人類が残したのは何も物質的なものばかりでない。文化や知識、そしてこうした物語でさえも受け継いでいるらしい。

 これもエクスにとって──まさに興味深い内容だった。


「ずいぶんと悲しい話だとも。……ちなみに、その人も別の集落から来たっけな。ずいぶん綺麗な女の人で、かなり色々知っていて博識そうなイメージだったな」

 

「なるほどね。僕はそれ、気に入ったから先に買わせてもらうよ」


 これには店主も嬉しそうな様子だ。


「毎度ありだ。この人魚像は、メダル八枚と言ったところだ」


 言われた通りエクスはメダルを支払い、人魚像を受け取る。

 クラインも横からそれを覗き込む。


「けっこういい感じじゃん。せっかくだから僕も、同じのを貰おうかな」


「おっと、残念ながらそれは手作りの一点ものだ。諦めてほしい」


 そうクラインは言うものの、店主の言葉にがっくり首を落とした。

 落ち込むクラインを、エクスはなだめる。


「まぁまぁ、そう気を落とさないの。……さて、それじゃ他の人のお土産も……」


 


「ここにいたのですね、エクスさん」


 と、そこに何者かが声をかけて来た。

 見るとその正体は、最初この集落へと訪れたさいに迎え出た代表、ルシエルであった。

 彼の背後にはボディガードなのか、武装した屈強な機械人が三人控えている。


「あなたは……」


「ずいぶん探しましたよ。ゲストハウスにも、あなたの姿がなかったものですからね」


 さも心配そうに、ルシエルは声をかける。


「でも、僕に一体何の用かな?」


 すると、エクスの質問に彼は顔を近づけて、こう答える。

 

「実は……貴方が人類女王の使者に、果敢に立ち向かったと聞きました。 

 われら女王に抵抗するレジスタンスは、ぜひ貴方と話の場を設けたいのです」


 レジスタンス──確か女王の使者であるダモスも、その事を話していた気がする。


「今でこそ平和ですが、いつ女王の魔の手がこの集落に伸びるか──。エクスさま、我々は貴方のような希望が必要なのです」


 この事にエクスは、少し気になる様子を見せる。


「躊躇う気持ちも分かります。しかし、我々は女王に関する様々な情報を用意しております。

 どうか……ここは私を信用して来て頂けないでしょうか?」


 だが、見るとルシエルは真摯な態度で、エクスに頼み込んでいる。

 それに人類である女王の情報……。ここは乗るのもいいかもしれないと、考えた。


「……分かった。そこまで言うなら、ついて行くとも」


 考えた結果、ルシエルの誘いに乗ると決めた。

 ルシエルは嬉し気に、頷く。


「安心したよ、ありがとう。それでは……早速私について来てもらおうか」


「もちろんいいとも。──クライン、僕のお土産を預かってもらっていいかな? 

 ついでにメダルも渡しておくから、セリスにギリー、あと他の人たちのお土産も選んで欲しいな」


 エクスはクラインに、メダルの入った袋を渡す。

 そして……ルシエルの後をついて行きどこかへと向かった。



 ──あーあ、行っちゃったよ──


 一人取り残されたクラインは、一方的に渡されたメダルを見つめていた。


「よう、兄ちゃんはまだ買っていくかい?」


 店長に声をかけられ、彼はこう答える。


「……ああ、もちろん買わせてもらうよ」


 ──ギリーや他の連中はともかく、あのセリスのお土産まで、選ぶことになるなんてさ。ここはアイツの嫌いな、変なのでも選んでやろうか──


 と、一瞬思ったクラインであったが……。


 ──やっぱやめだ。エクスに頼まれたんだ、ちゃんと選ばないとね──


「うーんと、他のお土産、どれがいいかな……」


 残りのお土産、どれが全員喜びそうなものか、クラインはじっくりと考える。 

 



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