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第二十五話 海中での狩りと、そして……


 それから少し経ち、散らばっていた水夫二人も戻って来た。

 幸いメガロフィッシュはあの場所から移動していない。船長と水夫達、それにエクスとクラインは周囲を囲むようにして獲物を取り囲む。

 エクス達からは、船長の姿が遠くに見える。合図をしたら、その時には一斉に襲い掛かるといった段取りだ。

 銛を構え準備をするエクス。対してメガロフィッシュは近くを泳ぐ中型の機械生物に目を移し、大きな口で襲い掛かり捕食をはじめた。

 その時──好機と判断した船長は右手を高く掲げた!

 

 ──あれが合図だね! それじゃ──

 

 これこそ漁の合図、エクスら五人は周囲から一斉に襲い掛かった。

 まずは水夫の二人が用意した大型の銛を構え、メガロフィッシュに放った。

 銛は二発とも相手に命中し、その体に突き刺さる。

 襲撃者に気づいたメガロフィッシュはもがくも、銛の持ち手にはは金属繊維のロープが繋がっており、自由に動くことは出来ない。ロープは近くの廃墟に固定し機械生物を動けないようにする水夫達。

 そして船長、エクス、クラインは銛を手に、動きを封じた機械生物に襲い掛かる。




 ──満足に動けない相手と戦うのは、少々乗り気じゃないけど……覚悟しろよな!──


 一番銛を打ち込んだのはクラインだった。

 彼は思いっきり力を籠め、銛を頭頂部に向けて投げた。その先端は見事に突き刺さるも、メガロフィッシュにはダメージはあまり入っていないようだった。


 ──大きい分、中にダメージは入りにくいってわけ!──

 

 クラインは舌打ちするも、その瞬間、機械生物の尾びれが襲いかかり彼を弾き飛ばす。

 そう、いくら動きは不自由になったと言え、完全に動きを封じたわけではない。

 激しく抵抗するメガロフィッシュ、接近戦では苦戦すること必至だ。

 


 だが、クラインを退けた機械生物だが、今度は船長の銛が左目に突き刺さる。

 彼は強く握りしめ深々と銛を押し込む。

 メガロフィッシュは強く暴れるが、続いてエクスが背中に攻撃を加えた。


 ──確か、話ではこの奥に──


 背中の大きな装甲板に銛を差し込み、梃子の原理で力いっぱい引きはがすエクス。

 装甲板がはがされ、その中を見ると……様々な機械の奥深くに赤く点滅を繰り返すコアのようなものがあった。


 ──あった! あれがメガロフィッシュの制御装置! 教えてもらった通りだ──


 エクスたちは前もってその情報を船長らから聞いていた。

 確かにこの機械生物は大型で攻撃が通りにくいが、制御装置さえ破壊すれば……。

 銛を構え、エクスは制御装置目かけて突き刺そうとした。

 ──その時。



 バキッ!

 メガロフィッシュを封じていたロープ、それを固定していた廃墟の一部が力負けして壊れた。

 それとともに動きの自由を取り戻し、物凄い勢いで泳ぎだした機械生物。

 しかもエクスの銛がその勢いのせいか、別の部分に引っかかった。


 ──くっ!──


 銛を握ったままのエクスも、それに巻き込まれてメガロフィッシュに引っ張られる。

 これにはクライン、船長らもギョッとするも、機械生物は遠くへと逃げようとする。それにエクスも一緒に巻き込まれてしまう。

 緊急事態だ。クライン達は急いで後を追う。




 激しく海中を泳ぐメガロフィッシュ。

 さすがのエクスもそれに振り落とされないように、刺さった銛を掴む。


 ──これはちょっと、キツイかもね──


 エクスは片腕で機械生物の装甲を握り、もう片方で握っていた銛を目一杯に引き抜く。

 先ほどの制御装置までは、さっきの騒動でかなりの距離が離れてしまった。

 

 ──それでも……もしかすると!──


 上手く行くか分からないが──。エクスは泳ぐメガロフィッシュの背中に向けて、銛の先を向ける。

 そして狙いを定めて……力いっぱい投擲した!



 銛が突き刺さり、逃亡を中断してメガロフィッシュは暴れまわった。

 暴れた勢いでエクスは弾き飛ばされたが、とっさに態勢を整える。

 そしてエクスは辺りを見渡すとそこは海中廃墟の端。……長く泳いだせいか、最初のポイントから大分離れたようだった。

 向こうには岩肌とサンゴ、そして背後にはかつて人類の遺した廃墟。

 その狭間でメガロフィッシュとエクスは対峙する。

 

 

 逃走を中断し、自らを傷つけたエクスに怒るメガロフィッシュは牙を向く。

 海洋機械生物である分、そこはメガロフィッシュの独壇場。

 高速の泳ぎで目の前のエクスに体当たりを仕掛ける。その動きは、回避する暇さえ与えない。

 強烈な体当たりを食らい、吹き飛ばされるエクス。


 ──つっ!──

 

 見ると背には、先ほどの銛が突き刺さったまま。


 ──さすがに動きが違うな。対してこっちは武器さえ持ってないし──


 これには成す術さえない。

 エクスがどうするか考える中、今度は回頭し再度迫りくるメガロフィッシュ。しかも……その口を大きく開き、鋭い牙を覗かせながら。


 ──あれはさすがに僕でも不味い。でも……今は、手元に武器はないし──


 困り果てたエクスと、迫りくるメガロフィッシュ。

 そしてついに……とうとう観念した。


 ──仕方ない、か。幸い……ここには誰もいない。なら──

  

 エクスは素手の右手をかざし、その先を迫る機械生物へと向けた。

 これは一体──何の真似か?

 だがそれすらも考えることもないメガロフィッシュは物怖じ一つせず、なおも迫る。

 

 

 そして開いた巨大な口で、エクスを噛み砕こうと──。




 ────


 クライン、船長、そして水夫たちはメガロフィッシュが泳いで行っただろう方向へと、急ぐ。

 

 ──エクスの奴、大丈夫なのか!? ──


 機械生物に連れ去られた、エクス。クラインはその身を案じていた。


 ──あいつの腕なら大丈夫だと思うが……丸のみなんて、シャレにならないぞ!──


 廃墟の中を泳いで行く、四人。 

 すると突然……。



 進む方角の先から、一瞬、白い閃光が輝く。

 

 ──なっ! 一体何なんだよ── 


 それはちょうどメガロフィッシュが逃げて行った場所。まさか……何かとんでもない事が起こったのか!?

 クラインと船長たちはそんな予感を覚えた。

 幸い光った場所は、そう遠くない──。四人は道を急いで泳ぎ進む。




 間もなくして、目的地に辿りついた。

 

 ──おい……エクス──


 目の前の光景に唖然とするクライン。そこには……。 



 メガロフィッシュは力なく水中に浮かび、機能を停止していた。

 もはや動くことのない、残骸と化した機械生物。   

 ……なのだが、その破壊のされ方がまた異常であった。

 大きく口を広げたままの残骸は、口から真っすぐ尻尾にかけて、何かが一気に貫通した形跡がある。

 巨体を直接的に制御装置ごと貫いた穴は、よく見ると周囲が高熱で焼けたような痕。

 普通海中でこれ程の痕と、ここまで跡形もなく貫いた何か、それは考えられないくらいに相当の熱量を持った物だと、クライン、そして船長は考えた。



 そしてエクスはと言えば──その近くで、何事もなくたたずんでいた。

 クライン達に気づき、にこやかに左手を振るエクス。

 一体何が起こったのか……それは後で聞いてみなくては分からない。



 とにかく、今はこのメガロフィッシュの残骸を引き上げなくては。

 船長と水夫二人は、さっそく残骸の周囲に集まり、何かスイッチが取り付けられた、装置を取り付ける。

 それぞれ装置を取り付けスイッチを入れると……そこから大きく浮袋が膨らみ、残骸は海上へと浮かびはじめた。



  

 ────


 その後エクス達は海から上がり、船へと戻った。

 船の後ろには浮袋で海面に浮かぶ機械生物の残骸を繋いである。


「……見れば見るほど、誰がこんな真似を。これじゃ内部機構は使える部分は残ってない。

 まぁ外装だけでも、かなりの収穫だから良しとする……か」


 船長は船びれからメガロフィッシュを穿った穴を、しげしげと眺める。

 一方クラインはと言えば、当のエクス本人にこんな事を聞く。


「エクスは、あそこにいたんだろ? 一体何が起こったか見てないのか?」


 しかしエクスの返答はと言うと……。

 

「あはは、実は僕もよく分からないん……だよね。何しろいきなりの事で、僕も何がなんだか」


「へぇ、エクスでも分からないなんて、──ん」


 するとクラインは、エクスを見てある事に気づく。


「なぁエクス、その右腕はどうしたんだ?」


 エクスは目立たないように背に隠していたものの、右腕の肘から先のダイバースーツは全て破けて素肌を晒していた。

 その事にエクスはまるでついさっき気がついたような、表情を見せる。


「これは、うん、あの機械生物にやられてね。ずいぶんと、台無しになったものだよ」


「……ふーん」


 どこまで納得したのか、さすがのクラインも半信半疑な様子でそれを聞いていた。


 ──やっぱり何か怪しいけど、でもまぁ、あれじゃ聞いても教えてくれないだろうしね。ここは──


「ま、いいか」


 クラインはエクスの言葉をとりあえず信じておくことにした。

 船は再び動き出し、集落への帰路につこうとしている。

 

「まぁ訳が分からないことはあるが、今回の漁は上場だ! 

 さて、港に戻るとしよう。せっかくだ、全員で軽い宴会にしゃれこもうではないか!」


 妙なことはあったものの、これにて無事に漁は終わりだ。

 

 ──これでこの大海原ともさよならか──


 エクスは船べりから、名残惜しそうに……海原を眺めていた。

  

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