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第二十四話  海中の都市


 ────


 港から離れ船はかなり沖へと出た頃。

 一面に広がる、青い海……

 

「わーぁ! すごいな! 海ってこんなに広いなんてさ!」


 船べりから身を乗り出して、クラインは広大な海をワクワク、楽しそうに眺めていた、


「……クラインって本当にさっきから、驚いてばかりだね。後、そんな事をしていると、海に真っ逆さまだよ」


「平気平気! この僕がそんな間抜けな真似、するわけが……うわっと!」


 と、余裕をかましていたクラインだが、突然大波で船は揺れ、あわやバランスを崩して落っこちそうになる。

 しかし──。

 その寸前、エクスはギリギリでその腕を捕まえ、海への落下を阻止する。


「だから言わんこっちゃない」


「うげっ! 悪いなエクス」


「……言って悪いけど、クラインは結構抜けているんじゃないの?」


「え? 何か言ったか?」


 どうやらさっきの言葉を聞きそびれたのか、クラインは聞き直した。


「いーや、別に大したことないよ。それより、ほら」


 エクスはつかんだ腕でクラインを船内に引き戻す。ようやく安心出来たことで、彼はへたりと座り込む。


「……はぁ、突然揺れてビックリしたさ」


 その一方でエクスも、少し辺りの海を眺めていた。


「ま、僕もこんな感じになった海は……多少、物珍しいけど」



 

 海面から幾つも生えて覗くのは、まるで大樹のように伸びる高層建造物の廃墟の姿。

 おそらくここは元々は陸地で、人類が残した都市があったのだろう。


 ──あれから千年も経っているのに、結構残っているものだね──


 エクスはそんな風に少し考えていた。

 すると……船長は水夫全員に言う。


「よし! 船はもうじきポイントに到着する!

 全員準備を行うように」


 船が向かう先はそんな廃墟の一つ。

 高いビルのような建造物が、彼らの目の前へと接近する。




 廃墟の真横へと船は停泊する。

 クライン、エクスは背中に水中推進用のスクリューなどの装備を備えたバックパックと、足にはヒレのような靴を取り付けていた。

 なお、格好はクラインは元のままだが、エクスは上下一体型の黒いダイバースーツを身にまとっていた。……元の服装では泳ぎにくいからだ。

 船長と二人の水夫は一人の水夫を船に残し、準備を済ませていた。


「さて、用意は済ませたみたいだし、そろそろ行くか!

 今日の獲物はメガロフィッシュ、新人達は俺の後について来るように」


 船長、二人の水夫は先に海中へとダイブする。


「んじゃ! 俺たちも行こうぜ。……とうっ!」


 続いて隣のクラインもダイブした。


 ──本当に楽しそうなクライン、まぁ僕もワクワクだね──

 

 そして最後に……エクスも海へドボンと飛び込んだ。




 ────

 船長と水夫の二人、エクスとクラインは海の中……。

 青い青い……海中。見上げると海面はまるでカーテンのように、太陽の光をキラキラと反射させて波打つ。

 海の中では喋れないものの相変わらずクラインはその景色に驚いている。


「コポポッ! コッ、ポポポ!」


 多分何か言おうとしたのか、口から泡を吹きだしながら喋ろうとするクライン。

 ……だが、すぐに無駄だと悟り口を閉じた。

 それでも彼はしきりに下を指さしエクスに見るよう促す。

 エクスは下に目を落とすと、そこに広がる景色に思わず感心した。

 

 ──ほう? これはこれは──


 海底には大都市が丸々一つ沈んでいた。

 いくつものビルやタワー、巨大なドームなどの建造物が並び、かつて道路だったと思われるチューブ状の空中通路が都市の廃墟の上層を走る。

 ……最もどれも長らく水中にあったために、ボロボロになっており穴もいくらか空いていた。

 そんな廃墟を泳ぐ、無数の魚とエイやイカなどの海洋生物。

 小魚は何十匹もの群れをなして廃墟の穴から現れ。また大型の魚やエイなどは建造物の間を縫って、悠々と泳いでいた。



 また、普通の生物のみならず機械生物も海中には生息していた、

 恐らく模倣したのだろうか、上記のような海洋生物に類似したものもあれば、恐らく海中作業用や探査用だった小型の無人機のままの姿……そして何故かアンモナイトや三葉虫のような、大昔絶滅した生物に近い機械生物も海中にいた。

 

 ──こっちもこっちで結構いる感じだね──

 

 ……と、エクスはそう考えていた所、水夫の二人は船長から何やらジェスチャーを受けそれぞれ別方向へと向かって泳ぐ。

 そして今度はエクスとクラインに対し、手招きしてついて来るように伝える。

 幸い──こんな形で泳ぐのは初めてな二人にとっても海中の環境や動き方には、すぐ慣れた。

 エクス達は船長に続いて海のさらに深い底へと潜って行く。




 ────


 海中の廃墟を泳ぐ三人。元々地上の道路だった場所を、沿うように進みながら辺りを見回す。

 先頭の船長は大型の銛を構えいつでも狩りが出来るよう、態勢をとりながら辺りを確認する。

 機械生物は周囲にいくらか泳いでいるのも見えたが、どうやら狙いはそれでないらしく船長も無反応で素通りする。

 


 対するエクス達と言えば……。

 

 ──中にいるとかなり大きい都市だ。グリーンパーク集落の都市廃墟と、同じ規模か──

 

 廃墟の建物の様子を見るとそこには藻やフジツボなどで覆われ、長い年月が経過したことが想像出来る。

 また、中にも海洋生物の姿も見られ、とくに機械生物についてはその身体の照明がちかちかと輝くのでよく分かる。


 ──あれから、それなりに長い時が流れているみたいだから……ね。でも痕跡だけは、かなり残るものだ──


 エクスは少し思いにふけりながら、なおも海中をすすむ。

 


 すると──。前方の船長が隠れるように二人へ指示を出した。エクス、クラインは指示通り付近の廃墟の陰へと隠れる。

 船長も同じ場所へと隠れ、向こうを指さして見るように促す。その方向には大型の魚型機械生物が泳いでいるのが見えた。

 青銅色の巨大な体躯に、大きな目と口。あちこちが強固な装甲板があるものの所々内部機械が露出し、機械や歯車のようなものが稼働しているのも見える。

 おそらく……あれこそ漁の獲物、メガロフィッシュだろう。

 船長は小型の連絡装置らしいもので、別の場所を見に行った水夫に連絡を送る。

 その後、エクス達にしばらく待機するように伝える。

 漁は全員が揃うまで……待機と言うことだ。



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