第二十三話 港と、漁と
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一方ゲストハウスでは、思い思いにくつろぐ機械人たち。
「あー、そこそこ! 関節が良い感じに引き締まるのを感じるぜ!」
メンテナンスを受けリラックスしている者もいれば、エネルギーやオイルを補充しているものも。
「おう! 純度の高いエネルギーじゃないか、これは良い」
「こっちのオイルもなかなかの風味だ。少し土産に、持って帰っていいか頼めるかな」
……ちなみにエクスはと言うと。
「なぁ、どこに行こうとしてるのさ」
出入口に傍へと向かい外に行こうとするエクスに、クラインは呼び止める。
「だって……せっかくだから集落を見て回りたいよ」
「でもここから出るのは、さすがにマズイんじゃないか?」
心配する様子のクラインではあるものの……。
「平気平気。だってここから出るな、なんて言われてないもんね」
そう言い残して、そそくさとエクスは部屋を後にした。
──あいつ本当にマイペースなんだからな。けど……やっぱり僕も気になるさ! ──
だがこっちもこっちで、好奇心には勝てなかった。クラインもその後に続いて集落の外へと向かう。
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外にはさまざまな建造物があちこちにある。
高い建物もあるにはあるが、全体的にはテントや、一、二階建ての低い住居が多い。
それにほとんどの建築物は機械生物の頭部や足、角により装飾が施されており、ある種の文化的な物を感じさせた。
──ふーん、やっぱりグリーンパークとは違いを感じる。実に興味深い──
集落の中を歩きながら、一人ふむふむと頷くエクス。
辺りにいる機械人は大多数がグリーンパークのそれと同様、様々なタイプの姿がある。
……だが、グリーンパークでは見ない、エラやヒレのような機関を持つ、半魚人に近い機械人にスクリューや水に浮くための浮袋が備え、また銛や、それを矢のように射出する武器、ハープーンガンを装備する機械人も見られた。
エクスは再び住居に目を移すと、建築で使われる機械生物の残骸の中にはヒレや魚の頭部のような形をした海洋生物の一部に近い形のパーツも、多々見られる。
──やっぱり海が近いからそれに影響されているのかな。機械生物は海にもいるみたいだし、もしかすると──
そう考えていた時に、後ろから誰かか駆け寄る足音がする。
「はぁ、やっと追いついた。エクスってば一人でどんどん行くんだから」
「……何だ、クラインも来たんだ」
やって来たのはクラインだった。さっきは外に出るのに、乗り気ではなかったはずだが……。
「まぁ、僕も集落の外に出るの初めてだったんだ。だから、やっぱり気になってさ。
……でもここは本当にグリーンパークと違うな」
「ふふっ、そうだね。いかにも南国風って感じだよ」
「ナンゴクフウ? 何だそりゃ?」
聞きなれない言葉に、首をかしげるクライン。エクスは簡単に解説する。
「つまり、海に近い場所らしいって意味だよ」
「へぇー、物知りだな。──ところでエクスは今からどこに行くつもりなんだ?
何かそんな気がしたからさ」
この質問に、エクスはニコッと笑う。
「僕が向かうのは……あそこさ」
そう言って指さしたのは、海辺りの何かゴチャゴチャした場所だ。海の上には見慣れないものが色々浮かんでいる、そんな所だ。
「多分、あれは港みたいなものかな。船もあるみたいだし間違いないと思う。
だから──気になるし様子を見に行こう!」
エクスはそう言って、港らしきものがある、海辺へと向かう。
「あっ、また勝手に! それにミナトだとかフネってのも何なのさ!」
それにクラインも続き後を追う。
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ラグーンサイド集落の海辺の港。
そこには荷卸し用のコンテナと、桟橋のそれぞれには中型、小型の船が停められている。
機械人はあちこちで動き回り、おそらく船の出航……の用意をしているようだ。
エクス、クラインは物珍しそうに港の様子を眺めている。
「すごいな! 海だけでもすごいのに何か乗り物が浮かんでいるし……。なぁエクス、あれは何て言うんだ?」
興味津々でそう聞くクライン、純粋に目をキラキラさせている様子はある意味可愛くも見える。
「あれがさっき言った船、だよ。あれで海の上を、移動するんだ。──でも、遠洋に行くような船はなさそうだし、近場
を移動して、狩りをするためのものかな」
「あれがフネって、やつか。面白そう! 乗ってみたいな!」
クラインは強い憧れに、目をキラキラとさせている。
またこの言葉が功を奏したのか……。
すぐ近くで武器や潜水用の装備などを準備している様子の機械人が、ふいに二人に声をかけた。
「もしかしてお前たちは新人か? なら早く準備をしてくれ、今回の漁は人員が足りないんだから」
そう言われ互いに顔を見合わせたが、クラインの方は……。
「ああ、分かった! 道具や装備は、どこにあるんだい?」
「何だ? 自分の物を持ってないのか。まぁ新人ってことだから仕方ない。……道具は向こうの小屋で一式借りることが出来る、そろそろ出航だから急いでくれよな」
「了解! 急いで用意して来るさ!」
クラインはエクスの手を引き、言われた場所へと向かう。
これから彼らは海に出るらしい。強引な形にはなったものの、エクスもそれに興味はあった。
「……まぁ、ちょっと参加してみるのも良いね。けどクラインは大丈夫かい? 水に濡れたりとか」
「僕は平気さ! 滅多な事では内部に浸水しないし、仮にそうなったって簡単に内部機械が壊れるほどやわじゃないぜ」
「ふーん。それなら、いいかな」
エクスはそう言うものの、機械人達の漁とやらにクライン同様ワクワクしていた。
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あれから言われた通り小屋で水中用の外付けバックパックと、そして銛やハープーンガンを一式借りた後でさっきの機械人の場所へと戻った。
「準備は出来たようだな。それなら、俺について来てくれ」
機械人は先導してエクスとクラインを案内する。海面に浮かぶ桟橋を歩き、二人はある一隻の船へと案内された。
「船長、新人二人を連れてきましたぜ」
小さくはないが、そこまで大きくない船にはすでに四人ほど乗り込んでいた。
その中のリーダー格とも言える機械人がエクス達を品定めするように眺める。
「ふむ、君たちが漁の手伝いに来た新人か!」
「はい! 僕はクラインで、あっちがエクス。よろしく頼むよ」
「……どちらも華奢なのはアレだが、その威勢と目は気に入ったぞ!」
船長は威勢のいい笑いを見せる。どうやら、二人のことを大層気に入ったようだ。
「よし! じゃあさっそく船に乗りたまえ。足元を踏み外して、海に落ちないようにな」
こうしてエクス、クラインにとっては初めての、機械人の漁は始まった。
彼らを乗せた船は船長の出航の合図とともに港を離れ……沖へと出て行く。




