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第二十一話 ラグーンサイド集落



 ────


 二人が眺める海景色。やがて沿岸部に……かつて人類が遺した廃墟がちらほらと見えて来た。


「ほう? 二人そろって景色を眺めてたのか。ま、ここはいい景色だからな」


 すると後ろから外の見張りを任された機械人が声をかけて来た。


「まあね。だって目的地まで時間だってかかりそうだし」


 そう話すエクスに、機械人はこんな事を話す。

 

「目的地のラグーンサイド集落なんだが、実はもうそろそろ、見えて来る頃なんだ」


「えっ! それは一体どこなんだ!?」


 はやる気持ちをクラインは隠せないでいた。機械人はそれにまぁまぁと言って、ある場所を指さす。


「ほら……丁度あの辺りだよ」


 指さす先にあったのは海と、元々海の一部だった円形の潟湖。その狭間の海岸線に位置する……建造物の集合体。

 海側には船のような物もあり、いわゆる港町と言った所だろうか。


「へぇー! あんな所に集落があるんだな!」


「あれが僕たちの向かう場所なんだね」


 エクス、クラインともに興味津々にその方向を見つめる。


「と言うことだ。もうすぐ目的地に着くはずだから、それまでにはテントに入っていてくれよな」


 目的地まであと少し。そこでは一体、何が待っているのだろうか……。




 ────


 海岸線を走行する、グリーンパーク集落のキャラバン車両。

 外壁の上でそれを確認した機械人の門番は、下に合図を送る。別の機械人が合図を確認し門の開閉装置を起動すると、門の扉はゆっくりと両開きに開いてゆく。

 そして開いた門の下をキャラバン車両が通って行く。……が、そんな最中車のテント中から誰かが一人表れて、外壁上の門番へと手を振って来た。彼は手を振り返すと、その誰かはニコッと笑った。

 男性か女性か定かではない中性的な、かつての人間に酷似した姿──。

 ちょっと可愛いなと思いながら、集落へと入って行くキャラバン車両を門番は見送った。




 ────


「はぁ、何やってんだよエクス。わざわざ手を振るなんてさ」


「えー! 別にいいじゃん。向こうも手を振ってくれたし、まずは挨拶が肝心だよ」 

 

 テントの中ではエクスとクラインがそんな会話をしていた。その近くにはもう一人機械人が立ち、呆れたため息をつく。


「仕方ないとは言え、エクス、あんまり変な真似をしないでくれたまえ。それにここから出るのは、車両が止まった後だ」


「……はーい」


 機械人に叱責されエクスは返事を返す。

 だが、キャラバン車両の速度は次第にゆっくりとなる。この様子だとそろそろ停車しそうだ。

 実際すぐに車両に停車した。


「止まった……ね。じゃあもう降りていいよね」


 そう言ってさっさと降りようとするエクスだが、またさっきの機械人が制止する。


「待て! まだだ!」


「えー! 僕は早く、集落の中を見てみたいんだ」


「まぁ待て、まずは隊長と副隊長が先に降りて先方と挨拶してから、ようやく降りるのだ。

 今は二人が話している最中だから、あともう少し待つといい」


 たしかに外では複数人の話し声が聞こえる。

 何やら色々と話すガインとディーゴの声。そして別の声も……おそらく、この集落の関係者だろう。



 ……しばらくしてから、その会話もひと段落ついたらしい。やがてテントの入り口へとディーゴが現れ、全員にこう伝えた。


「さて待たせたな。私たちの話は済んだ、皆も降りて来ると良い」


 彼の言葉を聞いて、エクスはぱぁっと表情を輝かせる。


「よし! それじゃ許可も出たし──」


 しかし今度はクラインが、エクスの手を握って止めた。


「おっと残念、エクス。降りるのはキャラバン隊の先輩達からさ」


「……むうっ、クラインまで」


 何度も止められてさすがのエクスも不満げにふくれっ面だ


「クラインの言う通り、ここは我々からだ。それではお先に失礼するよ」


 クラインによってエクスが押さえられている間、キャラバン隊員は続々と降りて行く。

 やっと全員が下りた後、彼は手を話す。


「これで良しと。それじゃ僕たちも降りようか、エクス」


「はぁ……ようやくだね。ま、いいか」


 そして最後に二人が、ようやく外へと出た。

 

 

 

 ────


 ラグーンサイド集落、そこは元々あった廃墟を殆どそのまま使用したグリーンパーク集落とは異なり、元々何もない場所に位置から建てられた集落である。


 ──へぇ、これはまた……面白いね──

 

 あちこちには、恐らく大型の機械生物の残骸、装甲により組み立てられた様々な装置。それに装甲板や廃墟の一部を持って来て作られた住居に櫓、屋敷など様々な建造物が並ぶ。

 廃墟とは違いこれらは機械人が残骸を組み替えて建てたと言うこともあり、建築物の外見は多種多様。金属のパーツや廃墟、装甲をパッチワークにつなぎ合わされたそれはある種の芸術と言ってもいいだろう。


 

 キャラバン隊の機械人は集まり、先頭にはガインとディーゴ。

 それに対するようにラグーンサイド集落の代表が一人、複数人の機械人を引き連れ、挨拶をする。


「これは皆さま、ようこそラグーンサイド集落へ。私はルシエル、交易品を持って頂き、集落を代表し誠に感謝します」


 背の高い、かなり細身のナナフシのような機械人、ルシエル。彼は言わばこの集落の代表とでも言った所だろう。

 彼はその見た目通り、礼儀正しい口調と態度を示す。


「さて、先ほど話した通り我々が持って来た品はこの通りだ。そちらの品で何と交換するかは、これからよく御覧になるといいだろう」


「承知しました、ガインさん。それでは我々が品の確認を行う間、ガインさんとディーゴさんの二人にはぜひ、我々の品をご覧になっていただきましょう。……きっとお気に召すことでしょう」


「よろしい。では、案内を頼もうか」


「ええ。案内の方は私の部下が行わせていただきます。

 ──ルーク、お二方を頼みますよ」


 背後に控えていたルシエルの部下は、一礼してガイン、ディーゴのもとへと歩む。


「それでは、ガインさんにディーゴさん……こちらへどうぞ」


 部下に案内され、二人はまた別の場所へと向かった。

 残ったキャラバン隊員とエクスとクライン。彼らに対しても、ルシエルはこう話す。


「さて皆さん、お二方が留守の間皆様方にはゲストハウスでお待ち頂きましょう。

 長旅でさぞ疲れておいででしょうから、最上の燃料にメンテナンス、そして我々集落の誇る絶景を楽しんで頂きたい」


 心からの歓迎を込め代表はにこやかに、ほほ笑んだ。

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