第十九話 雨降って地固まる
──キシャァァァ
鋭い音とともに地面が割り、幾つもの物体が姿を現した。
それはミミズのような機械生物、チューブ型の体……いや少し異なる。
体だと思っていたのは太い尻尾、本体は平たんなサソリのような姿であった。
尻尾の形状はさながら掘削機であり、それを使ってここまで地中を掘り進め急襲して来たわけだ。
小型ではあるもののその数は十数匹、なかなかの数である。
いきなりの出来事に戸惑う機械人。
「ばっ、馬鹿な! まだ集落から出て来たばかりだと言うのに──!」
「だが武器は車両の中だ、今から取りに戻っては」
何をすればいいか分からない中、一人の機械人に対し狙いを定めた何匹もの機械生物が、同時に襲いかかる。
「……ひっ、うわぁぁっ」
だが、その寸前エクスが間に入り、長棒で機械生物を弾き飛ばす。
「これくらいの数なら僕に任せて! ──さぁ早く、みんなは下がっていてよ!」
彼に言われ、機械人は一先ず車両へと退避する。
貧相な武器を構えるエクスに集団で向かい来るサソリ型機械生物。
襲って来た機械生物の一匹に、間接を目がけて棒先を振り下ろす。だが……切断どころか傷一つつけられない。
──そりゃそうか。いくら何でも、これは分が悪いか。……でも──
が、今度は手にした棒を機械生物の口めがけて突き刺した。体液を口から噴き出しながら火花を散らせ、相手は機能を停止する。
──こうして突き刺す分には。内部は脆くて良かったよ──
今度はまた別の方向から機械生物が襲う。
エクスは素早く棒を抜き、今度は尻尾と本体の隙間に突き刺す。鋭い悲鳴を上げながらもまだ機能は残ったままの機械生物はもがく。
それに止めを刺そうと、再度棒を抜こうとするも……引っかかって機械生物から抜けない。
──しまったな。やっぱり……問題ありか―
何とか引き抜こうと奮闘するも、前方から二匹の機械生物がエクス目かけて飛び掛かって来る。
手元に武器のないエクスにとって二匹同時に迫って来られるのは、さすがに分が悪い。
「ていっ!!」
そんな中、横から現れた何者かにより機械生物は蹴散らされた。同時に、引っかかっていた棒もやっと抜けた。
「全く! 僕と対等に渡り合ったってのに、情けない所は見せないでくれよな!」
助けに現れたのはさっきまで戦っていたクラインだった。彼もまた、機械生物を相手にしていたのだ。
「クライン、君は……」
残存する機械生物は二人を取り囲む。両者は背中合わせで、武器を構える。
「ふっ、勘違いはしないでよね! こんな事になった以上ライバル以前に、同じ敵を相手にする戦友さ! 少なくとも僕たち狩猟隊は今までそうして来たんだからさ」
確かに、嫌な部分はあるかもしれないが……それでも根の部分は良いのだろう。
戦闘面での腕はもちろん、その部分があったからこそ副隊長も務められていたはずだ。
これを聞いたエクスは面白そうに笑う。
「戦友……か、いいね。敵も減っているみたいだし、一気に片付けようか! クライン!」
「ああ! エクス!」
二人はそう言って、共に残りの機械生物を相手にする。
────
戦いの終わった後、機械人は残骸から使えそうなパーツを外して運び入れている。集落と違い持って行ける量は限られる。必要な分だけ持って行き後はそのまま放棄、後は別の機械生物が片づけるだろう。
倒された機械生物の残骸を眺め、感心した様子のディーゴ。
「こちらが応戦準備を終えるまでの短い時間で……もう全滅させたのだな」
そうつぶやく中、エクス、そしてクラインは車両へと戻って来た。
体は機械生物の体液やオイルで、どちらとも汚れている。
「ただいまディーゴさん。ちょっと汚れたけど、僕たちでやっつけたよ」
「ああ。数は少し多かったけど、大したことなかったぜ」
それでも余裕そうにそう言う、エクスとクライン。
「ご苦労だったな、二人とも」
ディーゴは労いの言葉を、二人にかける。
「貴殿らの腕も見せてもらったが、どちらも申し分のないものだったぞ。ガイン殿も文句が言えなかったくらいだからな。さてと……体については二番車両の内部に簡易な洗い場がある。そこで落として行くといい」
そして今度は外で作業をしている機械人に、こう呼びかける。
「皆の者、間もなく我らも出発だ! 急いで車両へと戻るように!」
これを聞いた外の機械人も、作業を切り上げてキャラバン車両へと戻る。
やがて全員は車両に戻り、そして再び別の集落へ向い再び走り出した。
────
道路もない、荒野を走るキャラバン車両。
その二番車両の内部に設けられた洗い場にてクラインとエクスは、別々に身体を洗っていた。
「なぁ、エクス」
二人の間は壁で仕切られているものの、壁越しにクラインが話しかける。
「改まって、どうしたの?」
「……さっきの戦い、とても良かったぜ。決闘の時だって強かったし、機械生物と戦ったときも頼もしい味方って感じでさ」
声とともに聞こえるのは、水の流れる音。
「ふふっ、ありがと。嬉しいよ」
「思えば僕が狩猟隊から離れたのも、あのセリスから狩猟隊の座を奪おうと変な知恵を回した僕の自業自得だし。
今更だけど君に八つ当たりしたって仕方ない……さ」
「へぇ、何だかクラインらしくないね」
「けど勿論、狩猟隊隊長の座は諦めてないんだぜ。いつかセリスの奴より強くなって、俺が代わりに隊長になるんだ!」
「やっぱり、前言は撤回。本当に相変わらずだね……ふふ!」
「我ながら確かにな! ……くくくっ!」
二人は揃って可笑しそうに笑い合った。
そしてしばらくした後、クラインはこんな事を言う。
「決めた! エクス、お前を僕の友達にしてあげるさ。僕が隊長になった暁には副隊長にしてやってもいいぞ! 何しろ妹のミースは、そうした役職は好きじゃないみたいだからな。
どうだ、嬉しいだろ?」
「あはは……、ならその時には……ね」
思わずして打ち解けた、エクスとクライン。雨降って地固まる──と、言うべきだろうか。




