第十八話 再決闘、エクス対クライン
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キャラバン車両はしばらく走り、荒野の中で停止した。隊員達も車両から降りる。
その中にはガインとディーゴも、視線の先には……。
「ははっ、まさかこんな形で再戦する事になるとはね! 実にいい! この間の借りを──たっぷりと返してやるよ!」
自身の伸長と同等の長い棒を持ち、とにかくハイテンションなクライン。ブンブンと勢いよく振り回し空を切る音が聞こえる。
「本当は要らないんだけど、これを使うのがルールだし、仕方ないか。それにしても……変なの」
一方エクスはと言うと、クラインと同様の棒を持ち物珍しそうに眺めていた。
「はっ、まさかこんな事で時間を取ることになるとは……」
「吾輩の意見にはガイン殿も同意したのだろう? それにこれは、良い見世物になりそうだ」
ガインの文句にディーゴはそう返す。
また彼は、両者向かい合って対峙しているエクスとクラインに対し、改めて説明する。
「貴殿らには今回のトラブルに対する罰、そして腕試しと言うことで今から決闘を行ってもらう。
負けた方には、罰則として車両の清掃を命じる。丁度あちこち汚れが溜まって来ていたのでな」
「エクス! 今のうちにその棒でモップ掛けの練習でもするんだな! そっちの方がお前にはお似合いさ」
クラインは棒の先をエクスに向け煽るも、当の本人はさほど気に留める様子もない。
「なお、両者に渡した練習試合用の武器、相手への攻撃はそれのみでしか適用しないこととする。もし素手や足など、それ以外で攻撃を加えた際には失格だ。
身体の一部分にでも攻撃が加えられればその方の勝利、理解したな?」
「ああ! バッチリだとも!」
「……了解。まぁやるからには、負けはしないけど」
エクス、クラインはともに頷く。
「よろしい。では、双方とも武器を構えたまえ」
二人は棒を構え臨戦態勢を取る。エクスへの因縁が強いクライン、彼はこう呟く。
「覚悟しろよ。あの時の恨み、ここで晴らしてやる」
それを聞き届けたのかは定かではない。だが、それに応じるかのように、ディーゴも頷き決闘の合図を行う。
「準備は出来たようだな。それでは────始め!」
開始と同時に、クラインは先手を打つ。
「はぁあああっ!」
エクスはそれを避ける。だが……その動作には若干の遅れが見えた。
──うーん。これを持ったままだと、少しやりにくい感じだよね──
両者が手にしている長棒。リーチは長いが、その分慣れていなければ機敏に動くには邪魔になる。エクスはその扱いにやや苦戦しているようだった。
「まだまだっ!」
今度は棒を逆回転させ連続でエクスに迫る。それも避けられたが今度は鋭い突き、横への薙ぎ払いと、間髪置かない連続的な技を繰り出して行く。
クラインは今までこれ以上に長い大剣を振り回し、機械生物を相手に狩りを繰り返してきた。その立ち回り、動きに対しては彼に分がある。
前回の決闘では負けたものの、この条件下では有利なのはクラインの側。
一瞬の間に数多の猛攻を受け、ついに避けきれなくなったエクスはついに手にした棒で、クラインの攻撃を防ぐ。
鍔迫り合い、両者拮抗する二人。
「くっ、はははっ! ──どうだ、もう油断なんてしない。これが僕の全力だ!」
最初決闘した時には、自信過剰な性格で相手を思いきり下に見てたクライン。
……だが一度敗北を喫し、自らの自信も打ち砕かれた彼は、全身全霊の力とポテンシャルをぶつけて来ている。
性格には問題あるものの、クラインは狩猟隊の副隊長を務めるほどの実力だ。慢心も捨て本気を出せば、エクスにさえ引けを取らない。
「それに、あれから僕もさらに腕を磨いた! 雑用しながらの訓練、それも全て、お前へのリベンジのためだ!」
「……やるじゃない。ここまで追い詰めるなんて、ね」
エクスは追いつめられたように、苦々しい表情に浮かべる。こんな様子を見せたのは集落に来てから初めてだった。
「なかなかやるね……クライン。君はすごいよ」
「ようやく僕を認めてくれたな! ──そうだ、僕の実力を、まだまだたっぷり味わうといいさ!」
両者の実力は拮抗し、互いに後ろに飛び退き仕切りなおす。
今度はエクスからも打ちかかり攻撃を仕掛ける。クラインは防御しながらも、彼もまた攻勢は衰えない。
「はっきり言ってこんな勝負、僕にとってはあんまり意味だってないよ。掃除くらいだったらどうだっていいし」
「はっ、だったら!」
クラインは叫び、鋭い突きを繰り出す。
突きは空を切りエクスの姿は彼の目の前から消える。……だが!
「そう以前のようには──そこだっ!」
彼は長棒を上へと薙ぐ。
そこには消えたエクスの姿。棒を持ったままだと動きが分かり易いのもあるが、クライン自身の反射能力も格段に上がっていた。
エクスは防ぐも、弾かれて飛ばされる。しかし上手く地上に着地し態勢を整える。
「やっぱり、以前よりも強くなってるね。
確かにあんまり意味はない。でもだからといって僕は……負けるのは正直言って、好きではないんだ!」
「ふっ! いい目じゃないか! それでこそ、叩き潰し甲斐がある! 覚悟しろよ!」
エクス、クラインは、再び戦いを再開する。
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熾烈な戦いを繰り広げる二人。観戦する機械人はそれに見とれる。
「……すごいな、あの棒だけでここまで戦えるなんて。お前、あんな真似出来るか?」
「おいおい、冗談だろ?」
「二人とも狩猟隊だって事だからな。そりゃあんな風に、動き回れるはずだ」
と、こんな話をしていた彼ら。ディーゴもこれには満足な様子だ。
「やはり、なかなかやるではないか。吾輩の目に狂いはなかったと言う事だ」
悔しいがガインもそれを認めるしかない。
「ぐっ、認めたくはないが、かなり有能であることは受け入れざるを得んだろうな」
キャラバン隊のメンバーは、二人の決闘を見守っている最中。
ふと、一人の機械人が少しよそ見をしていた時、地面が僅かに盛り上がったのを察知した。
「……まさか、気のせいだよな」
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エクス、クラインの間には相変わらず激しい打ち合いの音が響く。
「動きについてはようやく慣れたよ。
最初は慣れてなかったけど、君が随分と手本を見せてくれたみたいだし」
今はエクスが優勢に立ち、防戦へと追い込まれるクライン。
しかし、それでも彼の闘志は消えない。
「いくら動きが良くなったと言え! ……僕は負けるか!」
エクスの薙ぎ払いを、クラインはその下を掻い潜り真横に回る。
これならいける! 横へと薙いだばかりなら、態勢を再度整えるのに僅かに隙がある。彼は棒を振り上げエクスの顔面を狙う。
「その綺麗な面、ぶっ潰してやるさ!」
これには相手も不意をつかれたらしく、若干驚く。
「……くっ!」
だが間一髪でどうにか避ける。頬すれすれに棒が横切り、風圧で髪もすこしたなびく。
──外した! けどまだまだ!──
再度攻撃を繰り出そうと試みるも、さすがにこれ以上はエクスが許さない。
クラインの攻撃を防ぎ、再び両者は拮抗する。
「しぶといぜ、本当に。いい加減……やられちまえよ!」
「それはお互いさまだよ。……僕だって、これ以上は面倒なんだからさ」
双方とも後退し、再び両者は構え互いに隙をうかがう。
「それじゃそろそろ、決めさせてもらうぜ!」
強く叫んで、クラインは地面を強く蹴った。
そして攻撃を仕掛けようとした……その時。




