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第十六話 別の集落へと……




 ────


「さてと、本日はどこで狩りをするのかな」


 エクスの問いにセリスは答える。


「今日は南西部の旧工場プラントで行う。エクス、ギリーは基本はペアで私は単独で探索する。

 だが距離はあまり離れず、随時連絡をするように」


 エクス、セリス、そしてギリーは広場に置かれた町の地図が記された古い看板を見ながら、そう話していた。


「ああ、分かったぜ! セリス!」


 威勢よくギリーは言った。


「そうだ、エクスはマティスの所に武器を修理に出したのだろう。ちゃんと受け取りを忘れずにな」


「もちろん、言われなくても分かってるってば」


 ピースサインを送って、エクスはニッと笑う。


 

「──悪いが、少し待っていてもらおう」


 しかしそんな時、何者かの声が響く。

 彼らのもとに現れたのは樽のような身体を持つ、威厳のある機械人だった。


「ガインさん、狩猟に関する権限は私に委ねられています。交易を担当するあなたが口を出すことではないはずですが」


 彼は集落の外との交易と外交を任されている有力者の一人、ガイン。この前の有力者会議において、ガインはエクスに対し好意的ではない事はセリスには分かっていた。

 女王へと盾突いた存在、彼女もそれを危険視する気持ちは十分に分かるが、それでもエクスには色々借りがあり当人も悪人とは言えない。可能な限りは味方として立ちたかった。


「ふむ、セリスはずいぶんと手厳しいものだが……今からする話は確かに私の越権行為である部分もある、それは認めるしかない。

 しかしこれは長老とウーシェイ、リズにも許可を得ているものだ。ギースについては、まぁ君でも想像つくだろうが」


「前置きは十分、私はまだ要件を聞いてませんから。それでガインさんの話とは?」


「話が早いな。今から我々はラグーンサイド集落へと交易に向かう所だが、以前の交易で数人が負傷したでいで護衛の人員が不足している。

 エクスは狩猟の腕も確かだと見た。だから護衛として一時雇いたいと考えたのだ」


 これを聞いて複雑な様子を見せるセリス。

 話通りなら、そもそもエクスでなくとも別の狩猟隊の人員から借りれば良い話だ。

 なのにエクスを指名した。と言うことはエクスの危険性を見定めることも、目的の一つと考えるのが妥当である。


 ──しかし長老達も許可しているとも言っていた。だとするなら、それもまた必要な事かもしれないな──


 心配な部分も多いが、セリスもエクスに対し様子を探りたいのも事実。ならここは……。


「私は構わないとも。……エクスも、それで構わないな」


 話を聞いていたエクスは素直にうなづく。


「僕は平気さ。それに、ここに来てからの初の遠出みたいだから。僕もワクワクするよ」


「それでは決まりだな。交易のためのキャラバン隊は一時間後に出発する、エクスはそれまでに準備をしておきたまえよ。

 では私は先に準備を整えに戻るとしよう」


 話を済ませたガインは三人の前から去って行った。彼がいなくなった後、セリスはふうっと息を吐く。


「一時間、と言うことは私たちが先に出発だな。これで私とギリーの二人だけだが、まぁ軽い狩りだから問題はないはずだ。

 ……エクス」


「ん?」


「言っておくが、あのガインはお前の事を気に入ってはいない。少なくとも途中でおっ放り出されないよう用心することだ」


 セリスはそんな忠告をするが、それをあまり気にする素振りを見せずに、ニコニコ笑っているエクス。


「平気平気、問題ないよ! それじゃ……僕は武器を取りに行って準備をするよ。

 またね二人とも。それにギリー、後で君やロジェくん達に、帰ってきたら思い出話をおみやげにするからさ!」


 セリス、ギリーはそのまま狩りへと。そしてエクスは……今から旅立つ準備をと向かう。





 ────


 キャラバン隊の出発間近。目の前の物体にエクスは目をキラキラさせていた。


「……へぇ、キャラバンってこんな物を使うんだ」


 平たいトラックのような車両がいくつも連結され、その上には交易に扱う品物や、そして機械人が入るスペースとなるテントが乗っかっていた。


「トラックの上にテント……か。何か変な感じだけど」


 キャラバン車両を眺めていたエクスに、機械人の一人が声をかけた。


「君が狩猟隊からの補充人員かい? そろそろ出発するから、そうだ……二番車両のテントに乗り込んでくれ」


「うん、分かったよ」


 エクスは指定通り、二番車両へと向かうことにする。


「そうそう、狩猟隊からはもう一人補充に来ているから……仲良くやってくれよな」


 去り際に機械人が、そんな事を言った気もしたが……あまり気にすることではないと、そう考えた。




 二番車両の側面には階段が取り付けられ、そこを登りテントの中へと入ると何人もの機械人がそこにいた。

 テントは真ん中にあるハッチ──恐らくそこから車両内部に入るのか──を中央にやや大きめの広間があり、その両側はテントの柱も兼ねる三段のベッドが並ぶ。

 一段ごとのベッドは一人用でなく二人用の大きさであり、二人ペアで割り当てられていると考えられる。

 ベッドも床も全て金属で作られ、テントの布も何らかの合成繊維、いくらか自然と一体化した集落とは違いここは幾らか殺風景と思うのは……単に比較しての話だろうか。

  機械人は広間で談笑していたり、またある一角ではサイコロのようなもので賭け事を、ベッドで横になり眠っている者もちらほら見受けられ。。


 

 テントに入ったばかりのエクス。今度は頭に合成繊維のターバンを巻きつけた、屈強な機械の体の機械人が近づく。

 全身を構成する機械は、まるで人間の鍛えられた筋肉を思わせる。


「ようやく来たな、エクスとやら。吾輩はキャラバン隊副隊長のディーゴ、長旅になるとは思うがよろしく頼む」


 そう言ってディーゴは大きな手を伸ばして、握手を求める。


「こちらこそ、よろしくディーゴさん」

 

 対するエクスの手は彼より一回り小さいものの、その握手にこたえた。


「隊長のガイン殿はどうやら貴殿を気に入っていないようだが、吾輩には隊員となった以上は全員がかけがえのない仲間である事に変わりない。たとえ一時期のものであったとしてもな」


「その好意、とても嬉しいよ」


「……だがガイン殿に関してもどうか許してもらいたい。あの方はあの方で、貴殿が集落に与える影響を深刻に考えての事。決して悪意があるわけでないのだ」


 見たところ、ディーゴはかなりの好人物のようだ。やや偏屈そうなガインに対する副隊長と言う立ち位置、バランスとしてはなかなか良く取れているだろう。


「さて、ところで君の場所なのだが、そこの……二段目のベッドを自由に使ってくれ」


 彼の指さす先には入り口から左側の、やや中間に位置するベッドであった。


「分かった。なんだか見た目の割には優しい人そうで安心したな。僕は護衛で雇われたみたいだし、もしもの時には力になるよ」


「……ふむ、良い心がけだ」


 と、そんな時──

 辺りからシグナルが鳴る音が響く。途端、下からエンジンの稼働音とともに辺りはぐらっと揺れる。



 エクスは気になりテントから外を覗くと、外から見える集落の景色が、ゆっくりと後ろへ動いて行く様子が見て分かる。

 いや……動いているのは自身が乗るこのキャラバン車両の方だ。


「ほう? 貴殿は本当に初めてらしいな。こうも興味深々とは、実に面白いとも言うか……」


 そんなエクスの様子をディーゴは興味深そうに思う。


「もし外の景色を眺めたいなら四番車両へ行くと良い。あそこには大型の荷物がシートに掛けて置いてある、上を登れば広く見渡せるだろう」


「へぇ、そうなんだ。ありがとうディーゴさん、早速行ってみるよ」


「……だが、仮にも交易で扱う品だ、シートがかけられてはいるが、くれぐれも傷つけないように気をつけて貰いたい」


 こうしてエクスを含めたキャラバン隊の一行はグリーンパーク集落から最寄りの、だが距離はとても遠い……ラグーンサイド集落へと旅立つ。

 人間を探して一人旅を続けてきたが、こんな形で遠くに出かけることになるのは初めてだった。

 これから何が待っているか──好奇心で胸を躍らせる、エクスである。


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