第十五話 漆黒の機械騎士
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荒山に囲まれた女王の居城。
その玉座の間にて地球唯一の人類を自称する、人類女王は一人鎮座していた。
「……」
その様子は誰かを待っている様子であり、近くには女王の右腕でもあるダモスがたたずむ。
玉座の間を包む暗い闇──。闇の中からぼうっと浮かび上がるかのように、一人の人物が姿を見せた。
「ふむ、ようやく姿を見せたか、シャドー」
シャドーと呼ばれた人物はハイテクな機械甲冑を全身に纏い、頭部は楕円状、何かの仮面に近いものであった。
まるで卵のようにつるりとした顔は、それ全体が一種のセンサーとなっているらしく、時々その表面に光のラインが走る。
甲冑と頭部、そして背からたなびくマント。すべてが漆黒に統一され、シャドーの名の通り闇に紛れる影そのものであると同時にファンタジー世界に現れる黒騎士の印象までも思わせた。
女王を前にシャドーは跪いて首を垂れる。
「──女王陛下、ただいまグリーンパーク集落から帰還いたしました」
いかにも合成されたような機械的な声、普通の機械人ですらここまで機械的な声など持ちえない。
その報告に女王は頷く。
「それで、様子はいかがであったか?」
「集落に関しては特に問題なし。レジスタンスに関しては……管轄外です。何しろレジスタンスの掃討はそこのダモスの仕事ですから」
だが、この物言いはダモスの逆鱗に触れた。
「貴様! 女王に雇われた、たかが傭兵ごときが無礼であるぞ!」
しかし……シャドーは全く意に介す事はなく、それどころかダモスの存在そのものを無視しているようだ。
ダモスの怒りはさらにこみ上げる…………。
「女王の腹心である私を無視するか──」
感情に呼応するように、彼のフードから覗くチューブは波立つ。
「……ならば! その報いを受けるがいい!」
ダモスは腕をかかげ、そこから触手のようにチューブを伸ばしシャドーに襲い掛かる。
だが──。
「愚かな」
次の瞬間、輝く金色の軌跡が闇に奔る。
鋭い何かにより触手が一瞬で切り刻まれ、辺りに散ばった。
そしてまた一瞬の間に、ダモスの顔面には黄金色に輝くビームの刃先が突きつけられる。
「……ひぃっ!」
怯えたダモスは情けなく腰を抜かし、尻餅をつく。
彼の目の前にはビーム刃が伸びるグリップを握り見下すシャドーの姿があった
「下等な、ガラクタが」
不完全な機械的な合成音声ではあったものの、その声色には強い侮蔑が滲み出ていた。
そのままシャドーはビームブレードを掲げ、ダモスへと降り下ろし止めを刺そうと──。
「止めろ! シャドー!」
女王の静止により、ビームの刃は寸前でピタリととまる。
「この場でさらに機械と鉄屑で汚す気か。無礼であるぞ」
「はっ、女王陛下、申し訳ございません」
シャドーは頭を下げ、謝罪する。
見るとどこからか機械兵士が現れ、ダモスの腕の残骸を片付け始めていた。そして当の本人はまだ床から起き上がれずにいた。
「……ダモス、貴様には下がってもらう。これ以上その存在は不要だ」
内二体の機械兵士は、ダモスを持ち上げると、そのまま玉座の間から運び出す。
人類女王と、そしてシャドー。
「さて、報告の続きを聞こう。集落には異常はないと言ったが……あのよそ者はどうか?」
「集落には溶け込んでいるようです。現在は狩猟隊の一員として活動しており、存在としても違和感のない物に見えました」
女王は頷く。
「ああ、だろうな。奴は彼女とも行動を共にしている。……立場を考えれば当然だろう」
そしてシャドーに対しこう指令を出す。
「私はあの者には、興味がある。そこで……貴様には『直接』奴と接触し、その価値を見極めてもらう。手段は、分かるな。
仮に敗れた所で、所詮はその程度に過ぎない存在だ」
シャドーは再度跪き、答えた。
「全てはこの星唯一の人間──女王の望みのままに」




