第十四話 ──交流
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それからセリスにお使いの報告と購入したライフルを渡した後、エクスの一日の仕事は終わった。集落の機械人が暮らすのは商店と同様、広場周囲の廃墟であった。
改修されアパートのような住宅となった廃墟に、部屋をあてがわれて暮らす彼ら。エクスもその中の一人として部屋を貰っていた。
内装はシンプルで眠るためのベッドと、横に外付けのバッテリーをつなげた簡易なエネルギー補給機器があった。
──やっぱり、かなり寂しい感じ。……長くここにいるならインテリアでも用意しようかな──
そのあまりに寂寥とした様子に、思わずエクスがこう考える程だった。
──さてと、今日はもう寝ようか。こんな物があるって事は彼らも眠って夢を見るんだろうね──
エクスは眠りにつこうとした、そんな時……。
「──ん」
部屋に空いている窓、そこからは外の廃墟群が見える。
中でもひと際高い廃墟の屋上に──何かの人影らしきものが一つ見えた。
「あれは……」
人影はそれに気づいたのか、すぐに行方をくらました。
しかしエクスは驚く様子を、全く見せていない。
──相変わらず監視が続いている、か。少しだけ気になる所だね──
どうやら監視について知ったのはこれで初めてではないらしい。
──確か、初めて確認したのは、そう、人類女王と名乗る存在の使者を僕が倒した翌日くらいだね。ってことはやっぱり、僕の行動が原因みたい。……彼らは監視の目に気づいているんだろうか──
それに今回の監視についてはほんのささいな事かもしれないが、気になった所が一つあった。
──いつもは骸骨みたいな機械兵士だったけど、今回の監視は……シルエットが違ってたような。兵士とは別の存在かな、奇妙だ──
エクスはそれについて考えるが、それよりもこの事で分かったことがあった。
──でも、少なくとも今は、集落への襲撃ではなく監視程度に済ませているしね。向こうもどう出るか考えているのか、大きく動く様子もないし、ひとまずは気にしないでいいかな──
と、エクスはそう結論付けた、そんな時……
「おう! エクス! まだ起きてるか?」
元々廃墟となった建物に、機械人により新しく作られた金属製の扉。その向こうから、誰かの声が聞こえて来る。
「えっと、この声は──。とりあえず開けるよ」
扉の開閉はレバー式だ。
エクスが扉に付属するレバーを引くと、扉内部の空気が圧縮する音とともに横に開いた。
するとそこにいたのはギリーと、その友人である三人の機械人だった。
外見は様々で、ギリーのような機械体であるがそれよりもずっと小柄で、少女的な体形のゴーグル型センサーの女の子に、黒髪で童顔なセリスのように人間に近い姿の少年と、クライン、ミースに近いカーボン皮膚の吊り上がったツインアイの少年の三人。外見は三種三様だ。
「やっぱりギリーかい。それに君たちは……」
「ははは! 俺の後輩たちさ。まぁ同じく半人前だが、何年か後には立派な大人になるだろうさ。
こっちの可愛い子ちゃんがドリスで、オドオドしている童顔な方がロジェ、そして強気な感じで小生意気な奴がジェイだぜ」
「初めまして、エクスさん。ここでの生活にはもう慣れたかな?」
「……あの、クラインさんとの決闘、見てました。とっても格好良かったです」
「ふん! なんだかあまり強そうに見えないけど、まぁよろしく」
外見のみならず性格までも異なる三人、エクスはすぐに彼らを気に入った。
「こちらこそよろしくね。えっと、ドリスちゃんに、ロジェくん、それにジェイくんだよね、仲良くしよう」
ギリーは仲の良い四人の様子に、安心した様子だ。
「ははは! 互いに打ち解けたようで良かったぜ。そうそう、エクスの所に来たのは他でもない。丁度俺の部屋で四人で集まって『スゴロク』って言うゲームをしているんだ」
「ほう? 『スゴロク』は知っているんだ」
「いつからだったが、長老に教えてもらったんだけどな。昔、人間が遊んでた悪戯らしいんだと、それをみんなでやってたんだが、良ければエクスもやらないか。賑やかな方が楽しいしな」
「スゴロクって遊び、なかなか楽しいよな。だってここでの遊びって、少ないんだからさ」
ジェイはそう言う一方、ロジェはもじもじしていた。
「でも……ちょっと難しいよね。なんだか上手くサイコロの目が出なくて、ゴールに入り辛いし」
「だからこそ面白いじゃない! ゲームだけじゃなくて、みんなでおしゃべりしたり、それも楽しいよ」
表情は変わらないものの、ドリスはにこにこ笑っているような仕草をしていた。これにエクスはちょっと考えた様子を見せる。
「たしかに、それもまた興味深い。僕は君たちの事をまだ知り足りないから。……いいよ。一緒に遊ぼう」
「そう来なくっちゃな! ほら、俺の部屋は向こうだぜ」
「それにしても──ギリーも変わったよね。最初の頃は僕を嫌ってたんじゃなかったっけ」
「まぁ、気に食わない部分もあるが悪い奴じゃないのは十分に分かったしさ! とにかく夜も長いし、せっかくだから楽しもうぜ」
と、半ば強引にエクスはギリーに連れ出され、部屋を出た。
──やれやれ、本当に個性的で面白いね──
と、そんな中くすっと笑う、エクスであった。




