第十三話 ショッピング
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グリーンパーク集落、商店区画は広場周囲にある一廃墟の内部に位置していた。
そこは集落で暮らす機械人によって改修がなされ、中は支柱や壁により補強されていた。
丁度、元々はショッピングモールか何かだったのだろう。屋内の長い通路の両側には幾つもスペースが存在し、そこの機械人による商店が立ち並ぶ。
通常のエネルギーは補給区画で無料補給が可能だが、ここではそれよりも良質なエネルギーやオイルが販売されており──人間で言う所の味が良いと言う所か──また機械人のパーツと言った様々な部品や機械装置も販売されていた。
そして狩りに使う武器なども……。
「いらっしゃい! ギリー坊やと……おや? 今回は新入りのご登場かい?」
武器商店の店員は外骨格状の身体構造を持つ、女性の機械人だ。全体的なフォルムとしては鎌の代わりに二対四本の腕を持つ、カマキリに近いと言った所だろうか。
「ちょっとマティスさん、その『ギリー坊や』って言うの……やめて欲しいぜ」
図体こそ彼女よりも大柄なギリー。そんな彼がまるでバツの悪い子供のようにタジタジだ。
「あははっ! だってまだ成人の儀が終わってないじゃあないか。『坊や』ってのも、あながち間違いじゃないだろ?
──まぁ成人の儀が終わって一人前になったら……ちょっと考えてみても良いけど、それまではギリー坊やだな」
そう言ってマティスは気持ちがいいくらいに豪勢に笑う。
「さてと……ギリー坊やはよく、セリスからのお使いで来る事が多いが君は初めてだな。確か、名前は……」
「僕はエクス。よろしく、マティスさん」
エクスは彼女に手を伸ばしてにこっと挨拶をする。
するとマティスは四つある腕の一本で、エクスと握手した。
「ほうほう! エクスとは良い名前じゃないか! 私は少し前他の集落の交易から戻って来た所さ。……だから、新入りの活躍は話でしか聞いていないが大層凄い事をしたんだってな。
女王の兵士を撃退し、性格はアレだが狩猟班のナンバー2であり副隊長クラインとの決闘に素手で勝利したとは、大した奴じゃないか!
……まぁクラインは『元』ナンバー2か」
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「はっ……くしょん!」
一方廃墟の屋上、一人太陽光パネルの設置を行っていた狩猟隊の『元』ナンバー2、クラインは大きくクシャミをした。
人間と違い本来クシャミをする必要なんてないが、機械人はどこからか人間の文化に生活、習慣などを学んでいる節もある。
だから機械だとしてもクシャミはするのだ。
──これは、誰かが俺の噂でもしてるって奴かよ。そりゃ──あんな醜態を晒せばな──
クラインは苦々しい思いで再び作業を再開する。……案外彼は真面目な性格でもあった、ただキザなわけではない。
──にしても、もしアイツが勝ったらその雑用と俺の狩猟隊としての仕事を交代しても良いなんて……とんだ提案を受けたものだ──
数日前……エクスとの決闘に彼は敗北した。
そして今は約束通り、エクスの代わりとして、集落の雑用として働いている。
決闘での決まり事は集落の人間にとって絶対と言っても良い程に、重要なものだ。しばらくの間はこうしているほかにない。
ちなみに今の狩猟隊ナンバー2は、別の機械人が代わりを務めていた。
──まぁ、俺だって決闘に持ち込んでその勢いに乗ってセリスから隊長の座を奪おうと考えてもいたし、自業自得って言うのもあるが……秒で新入りに瞬殺とはな。……ああ! 思い出すだけでムカつくぜ! ──
……と、こんな感じで苛立つクライン。何かに当たりたいとも思ったが……今は作業中であることを思い返しどうにか飲み込む。
──いつかチャンスがあれば、その時は思い知らせてやるさ。
エクス…………名前は覚えたぜ!──
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「クライン……えっと、誰だっけ?」
だがエクスはその事に対して、あまり印象になかったらしい。
「おいおい、もう忘れたのかよ? マティスさんだって言ってただろ、以前エクスが決闘した大剣を持ったあのキザな奴さ」
ギリーの口添えによりやっとクラインの事を思い出したエクス。
「……ああ! あの青年の事だね、思い出したよ」
「はぁ。何で俺がエクスの手助けをしないといけないんだか……」
マイペースなエクスに振り回されるのはセリスだけではないようだ。
そんな漫才めいたやり取りを見ていた、マティスは可笑しそうな様子を見せる。
「いやーアンタ達二人はなかなか良いコンビじゃないか、気に入ったよ!
だから……精一杯サービスしようじゃないか! 何が買いたいんだい?」
……そうだった、エクスとギリーは銃弾の補充とセリスのライフルを買いに来たのだった。
「えっと、確かこの機関銃と、ギリーの狙撃銃の弾丸と、そしてセリスのライフルだったっけ。狩猟で破壊されたから代わりが欲しいって」
「了解した! どれ、二人とも銃を貸してくれ」
マティスはエクス達から銃を受け取ると、それぞれを品定めする。
「……ふむ、エクスのそれは女王の機械兵士が使用するものだな。奴らの使う銃は共通規格だからな、弾については在庫は十分にある。
だがギリーのそれはちょっと、ハンドメイドのオリジナルだから難しいな。合うのを探すにはちょっくら時間がかかりそうだ。
まぁ──少し待っていてくれたまえよ」
商店の奥にはいくつもの棚がたくさん並んでいた。マティスは四本の腕を器用に使い、棚を開け閉めして確認する。
彼女が探し物をしている間、エクスは商店に陳列する武器を見回す。近接用ならナイフや剣、槍や斧などがあり、刃先はよく研がれているのか鈍い輝きを放つ。
使われる金属は鉄など通常よりも硬化な特殊合金を使っているらしいが、それでも機械生物の装甲を切断するのはなかなか難しい。主な用途は装甲の隙間から内部の関節やケーブルを切断するのが基本的な使い方だ。……しかし。
「へぇ、クラインの奴が使うような良い大剣もあるじゃないかよ。あんな性格だが、あいつ、これで機械生物を装甲ごとぶった切るような事を平気でするからな。だって……自分の腕も相当改造して、滅茶苦茶腕力を上げているみたいだしさ」
ギリーはその中に置いてある大剣を目にして、そんな事を話していた。やはり例外はあるらしい。
「確かにクラインの奴、凄い勢いでアレを振り回していたしね。当たったら僕でも不味かったかも」
「ははは! そりゃ真っ二つだな!
まぁそんな真似をしたら腕の負担も大きいし、剣だって激しく痛むし、良いとこばかりじゃないんだけどな。
クラインだって傷んだ大剣をよく取り換えてたし腕のメンテも人よりしてたらしいぜ。そう言えば『毎回、腕がガタガタでやってらんないよ!』って愚痴ってもいたな、あいつは」
「ふーん、大変なんだね彼も。
……ところで、こっちには銃器が並んでるみたいだね。こっちも色々と豊富かな」
並んでいるのは近接武器だけではない
小型のハンドガンから、ライフル、散弾銃、狙撃銃などの各種揃えられ、重機関銃、大砲、ミサイルなどの重火器までもが置かれていた。
これらの武器は遺跡などで残っていた人類の知識を元に、様々な機械人や組合が制作したものだ。
しかし仕組み、構造に関する断片的な情報の欠如や現存する材料の関係で、別の材質、見様見真似や推測により異なる構造で作られる場合が殆どである。よって作られた武器はかつて人類が使用した物と比べれば異質であり、種別においても仕組み構造による種別でなくかつての武器と近い性能を持つ物を大まかに区分けしたにすぎない。
「マティスさんは集落一の武器マニアでも有名だからな。交易で他から手に入れたものもあれば、彼女自らで機械生物なんかの残骸から組み立てたりもするんだ。
ほら、俺が使っているこの狙撃銃だって、マティスさんが作ったものなんだぜ?」
そんな話をしていると、ようやく目的の物が見つかったらしくマティスは銃弾の入った袋を二つと、そしてやや大きさがある銃身を持つ黒鉄色のライフルを一つ手渡す。
「ほら? こんな感じで良いかな。弾はこれで良いはずだし、セリスが使うライフルなら、この型だろ? その特徴がないのが特徴なんだが、なかなか使い易いんだよな! そこまで狙いをつけなくても、ただ銃口を目標に向けて引き金を引くだけで誰だって当たるさ。
良ければ君たち二人の分も付けようか?」
エクスは、セリスから渡されたメダルに目を向けた。
「……いや遠慮しておくよ、今回は必要な分しか渡されてなさそうだし。代金はこれで足りるかな」
「ふむ、丁度足りるって感じだな。代金も確かに受け取った、毎度あり!」
代金を受け取ったマティス。すると、今度はこんな事を話した。
「──それとさっきの話を聞いていたんだが、ギリーの狙撃銃、見てくれこそ悪いが良い銃だぜ。私の自信作の一つさ。確か狩りで何度か使ったんだろ? どうだギリー、使ってみての感想は?」
ギリーは少し考えてから、質問に答える。
「ふむ、重さもあんまり感じないし、狙いやすいし威力も高い。半人前の俺だから支援の役回りが多いし、凄く助かっているさ」
「だろう? 制作するときにも苦労したからな、その甲斐があったってものだ」
マティスはうんうんと、納得するように頷く。
「やはり手作りの方が私は好きだからな。……そう言えばエクスくんの武器は、ふむ、女王の機械兵士のものだったな。ちょっと見せてもらって構わないかな?」
「うん、僕は問題ないよ。……はい」
エクスの持つ武器に興味を持った彼女、かつて機械生物の物であった機関銃と槍、それを受け取るとしげしげと観察する。
「こっちの方は、工場か何かで大量生産を行っているみたいでどれも規格が統一されているのさ。これも──その規格通りみたいだね。
私としてはどれも同じでつまらないってのが正直な感想だが、それでも使い勝手は悪くない。これはまさにそんな武器さ」
「僕としても使いやすいしね。少なくとも、狩りをしている分には不自由ないさ」
しかし、何やらマティスは苦い表情を浮かべる。
「……だが、見た所だとかなり傷んでもいるぞ。おそらく今は問題ないが、すぐに不具合が出てくると思うね」
「言われてみればエクスのそれ、幾らかボロボロになってるぜ。拾い物ってのもあるしそろそろ替え時なんじゃないか?」
ギリーも彼女に同意する。二人の言う通り、実際痛みが激しいからだ。
「でも、替えるって言っても、今はそんな余裕は……」
するとマティスは、自信満々に答える。
「なあに! その銃と槍を貸してくれれば、タダで新品同様に改良してやるよ! 私からの歓迎のしるしさ」
「だってさエクス。せっかくだから頼めばいいじゃないかよ、マティスさんの腕は保証するぜ」
二人からそう言われると、さすがのエクスも断わりきれない。それにタダで改良してもらうのも悪い話ではない。
「なら──好意に甘えて、頼んじゃおうかな」
「ははは! そう来ないとな! それじゃ、武器はそのまま預からせてもらうぜ。……大丈夫、悪いようにはしないさ」
マティスはエクスから受け取った武器を、店の奥へとしまう。
「さてと、武器の改良には数日、早くても四日って所か。それまでは──気長に待っていてくれ」
どうやら、そう言う話らしい。改良が終わるまで、こうして待つのも、悪くないだろう。
「……さてと、用事も済んだことだし、戻るとするか! セリスにも報告しないといけないしな」
ギリーに促され、エクスもそろそろ戻ることにする。
「ありがとうマティスさん。それじゃあ……宜しくお願いするよ」
「ふっ! 礼儀の良い子は好きだぜ。んじゃ、また楽しみにしてくれよな」
店を後にする二人に、彼女は手を振って見送った。




