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第十二話 ちょっとした疑問


 ────


 鉄塊と化したマキナグリュプスをセリスは見下ろす。

 あれから少し経ったらしく、ギリーもその場へ到着した。


「さすがセリスだな。これを一人でやったなんてさ!」


 褒めるギリーに、彼女はフッとほほ笑む。


「有難う。だが、お前の射撃の腕のおかげでもある。決して一人ではないさ」


 するとギリーはある事に気が付いた。

 

「ところで……アイツは?」


「さぁな? 多分どっかで道草でもしているんだろ?」

 

「はぁ、言われたとおり罠を用意したのは良いが、だからと言って勝手に居なくなって言いわけないだろうに」


 呆れてセリスはため息をつく。

 まぁまぁと、たしなめるギリー。


「気持ちは分かるけどさ、こうして無事に一体仕留められたじゃないか。これ一体でもみんなは大喜び……」


 が、そんな時──





「ギリー、それにセリスも! 悪いけど離れた方がいいよ! 危ないからさ!」


 突如そんな声が響く。

 聞こえたのは上空から。二人が上を見ると何かの物体が煙を上げて、こちらに向かって墜落して来るのが分かる。

 ギリー、セリスは急いでその場から離れる。それとほぼ同時に物体は地上に落下し、土煙を巻き上げる。


「はぁ、ちょっと苦労したかな。……二人は大丈夫だった?」


 土煙から姿を現したのはエクス。セリス達に声をかけ、自分の服についた汚れを手で払っている。 

 

「……エクス、何をしていた? 確かに指示通りに罠を仕掛けてはくれたらしいが、近くに待機するように伝えたはずだ」


 セリスは若干不機嫌そうにしていた。

 だが当の本人は、あまり気にしている様子は無い。


「まぁまぁセリス。ある物を見つけたからつい……ね」


「ある物って、何だよ?」


「ギリーは気になるかな? ……ふふっ、見たら驚くと思うよ」

 

 すると土煙が晴れ、先ほど落下した物体の正体が分かった。

 落下したのは先ほどセリスが仕留めた物と同じ……機械生物の残骸だ。


「おいおい! もう一体マキナグリュプスがいたのか!」


「まぁね。罠を仕掛け終わったときに、偶然見かけたのさ。一人で追いかけるのは大変だったけど、どうにかね」


「なるほどな、なかなか……やるじゃないか。……だが今後は勝手な真似は止めて欲しいな」


「ごめんね、セリス。次からは気を付けるさ」


 そう言っている割にはやはり反省しているかどうか、微妙な感じのエクスだった。


「……はぁ、仕方がないな。

 しかしこれはお手柄だ。きっと集落のみんなも、大喜びするはず。

 さて…………後幾らか狩りを続けた後、帰るとしよう」


 若干セリスはあきれて苦笑いをするも、若干微笑ましい様子でもあった。

 新しい仲間、エクスは勝手な所もあり、よく分からない所も数多い。……それでも明るくて、悪い人ではないことも知っていたからだ。

 



 ────

 集落への帰路、エクス、セリス、そしてギリーの三人は破壊した機械生物の残骸を運んでいる所だった。


「全く……これで私が世話する者がまた一人増えたわけだ。別に君らの保護者と言うわけではないのにな」


 セリスは一人そんな事をぼやく。


「ごめんな、セリス。まだまだ俺が不甲斐ないせいで」


「おっと、すまない。別にギリーについては私は文句ないさ。君は素直で、まだまだ未熟ではあるが、教え甲斐もあって私も楽しいからな。私が言いたいのは……」


 そう言いながらセリスは横目に、鼻歌交じりで台車を引っ張るエクスの姿を呆れて見る。

 台車は動力付きで、大量の物資を載せていてもあまり力を要せずに運べる。

 



 最も……このエクスがどこまで非力かどうかは、疑わしいことこの上ない。

 あの時、機械歩兵やクラインを相手にした能力は並大抵なものではなく、それに……。


「僕は別にセリスには迷惑かけていないよ? ほら! 僕だってこんなに仕留めたからね!」


 彼が引く台車には多くの残骸が載せられている。これは全部、エクスが仕留めたものだった。もちろんその中にはマキナグリュプスの残骸もあった。

 ギリーもそれには凄いと思っているようだ。


「俺も見ていて凄いと思ったぜ。人間の身で、セリス程ではないにしても殆ど同じくらいの数を仕留めるなんてな。それにこの前はクラインだって……。前から嫌味な奴だったから、スカッとしたぜ」


 彼が引く台車にはエクスのものより幾らか多く残骸が積まれていた。こちらはセリスの狩りの成果だ。

 

「さすが、この集落の狩猟隊長って所だね。すごいよ!」


 エクスは軽くウィンクしてみせた。


「それに……僕の場合は本当にたまたまさ。クラインとの決闘は運がよかったし、狩りについても僕が貰ったこの拾い物がなかなか良いからさ」


 そう言うエクスは、あの機械歩兵から奪った機関銃と槍を背中に背負っていた。


 ────


 集落に到着すると、三人は狩りの獲物を処理係に受け渡した。


「……ほうほう、マキナグリュプスを二機とは大した成果ではないか」


 セリス達から残骸を受け取った巨大な腕を持つ大柄の機械人は、感嘆の声を上げる。


「ああ、これだけあれば希少資源にも余裕があるはずだ。確か──発電プラントのリアクターが幾つか調子を悪くしていただろう? 

 あれの修理に丁度良いはずだ」


「整備係の連中も、なかなか修理出来ないとぼやいていたからな。きっと満足するだろうよ」


 集落端に高く積み上げられたこれまでの狩りに遭った獲物の成れの果て……機械生物の残骸の山。

 何人かいる獲物の処理係は、多くがが大柄な機械の体であり、特に両腕は大きくまるで重機のような頑強さを誇っている。もしくはそうでなくとも、外付けのアタッチメントを備え付けていた。

 彼らはその強固な腕で残骸を解体し、そしてそれを部分ごとに分けて幾つかの山へと積み分ける。

 


 残骸はこのように保管されているが、機械人の修理のためのパーツ取りに、設備や装備の開発などで必要であればこの残骸の山から必要な分を運び出して、更に細かく分解して新たに再構築するのだ。


「それじゃ、ちょっと預からせてもらうぜ」


 処理係は三人から残骸を受け取ると、その大きな腕で残骸を解体する。

 そしてそれまでは機械生物の全身を保っていた物は、その手足や頭、胴体などバラバラにされ、かろうじて原型を留める程までに解体された。

 解体した残骸の多くは他の処理係に渡されたが、いくらかの部品は大まかに取り外され、再びセリスへと渡される。


「悪いなセリス、このパーツはプラントの整備班へと渡しておいてくれないか。ちょっと身体がギクシャクしててな、俺も整備に向かいたいんだ」


「……まぁ、この後はすることもない。私は構わないさ。ああそうだ……」


 セリスは、ギリーとエクスに目を移す。


「じゃあ二人は、私が部品を整備班に持って行く間、商店区画で銃弾の補充に行ってくれないか?

 特にエクスは、銃弾をかなり消費したみたいだからな。ちゃんと用意しておくように」


「はいはい、了解だよ」


「とりわけギリーの銃弾は高いからな……これくらいで足りるだろう、持って行くと良い。

 ……ついでに壊れた私のライフルも買って来て欲しい。どんな物かは店の店員にでも聞いたら分かるさ」


 そう言って、セリスは加工された金属で作られたメダルのような物を渡す。恐らくは通貨のようなものだろう。


「ちぇっ! 買い物だったら俺に任せてくれればいいのにさ!」


「エクスはあまりここでの生活に慣れてないだろう? ここは一度、経験させるのも良いはずだ」


「……ははっ、何だか意外と面倒見が良いんだなセリスって。もしかして……エクスに何か特別な感情でもあるのか?」


 半分冗談交じりの、ギリーの言葉。

 それを聞いたセリスは、ちらりとエクスの姿を見た。しかし──


「別に……そんな訳ではないさ。それじゃあ二人とも頼んだぞ」


 何事もないように彼女に促す。

 エクス、そしてギリーは集落の商店区画へと向かうことにする。


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