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第九話 狩猟隊、副隊長クライン



 ────


「それで、会議の結果はどうなったんだ?」


 いつもの訓練の帰り道、ギリーはセリスにそう聞いた。

 

「エクスについて言えば追い出される心配は、しばらくない。まぁ、状況次第では分からないがな」


「安心したぜ! 俺も少しだけ、追い出されないか心配だったんだ!」


 ギリーは嬉しそうに、笑い声を上げる。

 これにセリスは少し呆れてみせた。

 

「何だ? 初めて会った時には、あんなに嫌っていたじゃないか?」


「ああ、正直まだ気に入らない所はあるさ。相変わらず正体不明の怪しい奴だしな、追い出されたって不思議じゃないと思っていた。でも……やっぱり追い出すのは可哀想だろ」


「……ふっ、優しいんだな、ギリーは」


 そう話している内に集落の姿が見えて来た。




 

 集落の外れの廃墟屋上には、発電用の太陽光パネルが設置されている。

 

──いくら仕事を新しく用意したからと言っても、これだと分別作業と変わらないよ──


 今度はエクスは太陽光パネルの設置作業を行っていた。

 こうしたパネルは、ずっと外に放置していると機械生物などの餌食になることが多い。だからこのように発電が十分可能な時に設置して、発電を行っている。それ以外の時は屋上から一階下の格納室、畳んで置いていた。

 しかも今日は、この区画を任されているのはエクス一人。設置する数は少ないからと言うことらしいが……それでも数十基のパネルを一人で、正直しんどい作業だ。


 

 エクスが作業をしていると下から話し声がふと聞こえて来た。

 見るとそこには、セリスとギリーが歩いている。エクスの瞳はきらりと輝く。

 

 ──あの二人か、一応作業も一通りは終わったし、ちょっと会ってみることにしようかな──


 そう考えつくやいなや、エクスは屋上から跳躍して飛び降りた。

 


 

「──やぁ。セリスにギリー、調子はどうだい?」


 いきなり目の前に飛び降りて来たエクスは、現れて早々こんな事を口にした。


「突然上から……驚かすなよ、エクス」


「全くだ。こんな形でしか登場出来ないのか、お前は」


 対する二人は半ば呆れた様子を見せる。

 だが、そこまで気にする様子はエクスになかった。


「まぁまぁ、そう言わないでよ。僕だってずっと退屈していたんだからさ。ちょっと驚かせたいと思っただけだよ」


「……はぁ、子供かよ。て言うか、何かまた仕事を任されていたんだろ? そっちは終わったのか?」


 エクスは頷く。


「勿論、一通り終わったさ! だから一緒に帰ろう。仕事の報告もしないとだからね」


 ともかく勝手な存在ではあるが、何だか憎めない所がある。

 断る理由もないためエクスも迎えて三人は、集落への帰路につく。






 三人は集落へと戻って来た。が、そこには既に別の狩猟隊のメンバーがいた。


「やぁセリス! いつもお仕事、ご苦労さまだね! いや……今は半人前のお守りをしているんだったっけ」


 二人組のメンバーの内一人、キザで少し嫌味な自信過剰が強い感じの機械人の青年が声をかけた。

 全体的な構造はギリーと違い人間のそれに近い。しかし四肢の腕先と足先、頭部や胴体の一部は部分的に機械らしく、人口皮膚もまるでカーボンファイバーのような質感と、黒に近い色をしていた。

 青年はまるで狐耳のように尖ったセンサー機器を動かしながら、金色に輝く一対のアイセンサーで三人を見る。


「……クライン、お前も相変わらずだな。正直面倒くさいのだが……」


「ふっ! いい気になるのも今のうちさ! 近いうちに狩猟隊の隊長の座は、僕のものだからな。ほら見ろよ!」

 

 見ると二人が持ってきた台車の上には、巨大な頭部の残骸が乗っていた。それはあのギガノユンボの頭だった。


「僕たち二人でコイツを仕留めたんだ。最後は僕が、コイツで頭を切り落としてやったさ! 君たちにも、見せたかったよ」


 自慢げに、クラインは自らの武器である鉛色の大剣を構えてみせた。

 



「ごめんなさい、うちの兄さんが迷惑をかけてしまって……」


 クラインとは対照的におどおどと、頭を下げて謝るのは残りのもう一人、機械人の少女だった。

 構造はクラインとほぼ同じだが少し小柄で、機械パーツから覗くカーボンファイバー状の人工皮膚の身体つきは形の良くふくよかな胸や下半身見て取れ、女の子らしさを感じた。

 そして顔つきも丸っぽくセンサー機器は猫耳みたいだ。


「別に大丈夫だ。確かに面倒くさいが、そこまで悪い奴ではないし…………少しは愛嬌があって可愛いくらいだからな。だがミースもすごいじゃないか、クラインと共にギガノユンボを倒すなんて。……危なくはなかったか?」


「いえ、私は遠くから狙って撃っていただけでしたから。主に相手をしていたのは兄のクラインです。見ていて少し……危なっかしくて心配だったけど」


 そう謙遜するミースはとても可愛いらしい。背中に背負う黒光りした、長身の狙撃銃がミスマッチに思えるほどに。


「おいおい、そんな事はないだろ? 僕はそう簡単にはやられないさ」


 対するクラインは、相変わらずの自慢をしていた。


「妹のミースだってまだ成人になるのは三年も先だけど、狙撃の腕は良いんだぜ? そこのでくの坊とは大違いって訳」


 すると嫌みの矛先が直接ギリーに向いた。彼はそれに激高する。


「誰がでくの坊だっ! 言っておくけど、ギガノユンボを倒したから何だ! このエクスは一人で倒したんだぞ! お前らなんか、二人で相手しないと勝てなかったじゃないか!」 





 するとクラインの目の色が急に変わってエクスを見た。


「へぇ? 君が噂のよそ者って訳。機械歩兵との闘いは僕も見ていた、まぁ僕には遠く及ばないけど……まぁまぁじゃないか。でもギガノユンボを一人で倒したって言うのは、言い過ぎだと思うな。

 それでどうなの? 引き下がるなら今のうちさ?」


 エクスは少し考えた。確かに倒したことは倒したが直接倒したわけではない。何て答えたらいいか、正解が分からずに沈黙する。

 だがそれをクラインは、肯定と受け取ったらしい。


「……どうやら本当みたいだね、面白い。──なら!」


 クラインは大剣の切っ先をエクスに向けた。


「──ん?」


「エクスとやら、僕と決闘しろ! 勿論ただでとは言わない、何か望むことがあるなら何だってしてやるよ! まぁもし万が一……お前が勝ったらな!」


 突然の事に、思わずエクスもちょっと驚く。


「ちょっと待て! いきなりそんな真似など……」


「もう! 兄さんってば、あんまり迷惑をかけないで!」


 そう制するセリスとミースも、クラインは無視して続ける。

 

「もちろん、みんなの前でだ。まぁまぐれかもしれないがそれでも一人で、ギガノユンボを倒したらしいじゃないか。

 だったら良い勝負になる! 僕の華麗な腕前を見れば、きっと狩猟隊隊長への昇格間違いなしだ。ハハハハハッ!」


 もう勝った気でいるのか、クラインは高笑いする。

 一方で、挑戦を突き付けられたエクスはと言うと、面白そうにしていた。


「へぇー、一騎うちってわけ。いいね、面白そうだし受けて立つよ!

 もし僕が君に勝ったら、狩猟隊のメンバーとしての仕事を、代わってもらうよ。ここに来てから、ずっと面倒でつまらない仕事ばかりだったしね」


 これを聞いてクラインは手をたたく。


「そう来ないとな! 本当に勝てたら僕がお前の代わりに、その仕事を引き受けてやるよ!

 なら、それじゃあ……一緒に来てもらおうか」


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