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天使と潔癖  作者: 水沢 郁巳
15/52

15 このひと、ほんとメンドクサイ

いつも読んでいただいているみなさん、ありがとうございます。初めての方もR15設定は念のためで、基本的にほのぼのハッピーなお話ですので、読んでいただけたら幸いです。毎日、17:00~19:00ごろ、次話投稿の予定ですが、今後不規則になるかもしれませんので、よかったらブックマークお願いします。

 それから三週間。

 ハワードさんに言い含められた、ローエングラン家使用人一同は、心を一つにした。三人衆は辞めさせられたわけではなく、あくまで定年退職。適度に不調の心配をしつつ、人生の再スタートを応援するムードを盛り上げる。退職金は準備もあるだろうからと、ハワードさんが退職通告の一週間後くらいに渡していた。

イーリは、ハワードさんをとおして、料理長が自分の店でデゼールワインを仕入れたいと言われたのだが、あとくされはなくしたい。

「うーん。デゼールワインは人気でシーズン前から買い付けられているのよね……」

 言外に匂わせる。若い領主夫妻は領地にあんまりものが言えない的な。

「でも、応援したい気持ちはあるのよ?例えばだけど、物件のお家賃ておいくら?」

「いえいえ!そんなつもりで言ったんではないんですが……!」

とか何とか言いながら、料理長さんは家賃の額をきっちり端数まで教えてくれた。

 そんなこんなで、すっかり前向きに辞める雰囲気を作り上げて、三人衆最後の日。


 ささやかな見送りの会を開いて、庭にテーブルを出して軽食で歓談。ご近所付きあいは大切なので、イーリは近くの教会の牧師さんに来てもらって、家人の健康と、ついでに三人衆の加護を祈ってもらった。血と肉に見立てた、ワインとパンを振舞う。牧師さんはご一緒にどうですかと勧めたら、大喜びでたくさんワインを呑んだ。

 オーリが内務省から帰ってきたタイミングでお開きにして、オーリは自ら花束とお祝い金(料理長の一週分の家賃相当。一人だけという訳にはいかないので三人とも。端数は切った。)を渡し(二重に手袋をしていた)、感謝の言葉も口にした。

 使用人一同は、三人が角を曲がって、見えなくなるまで手を振って見送り……

屋敷に戻ってきた後、ハイタッチを交わしていた。

 終わった終わった。退職金の上にお祝い金まで出したのだ。これで、この後なんか言ってきても突っぱねてやる。

「ハワード!ハワード!!あれ、ちゃんと片付けといてよ!!」

 オーリが指さしているのは、庭に出したテーブルと、食べた後の食器たち。

(そういうところよ、オーリ。君の、そういうところが、だめ)


 同時進行で解決中。懸案事項その2。家暗い。

「浴室を新しくしたい?」

「そう。大きなひび割れがあるでしょ?オーリは気にならない?」

「あー、あれね……まあいつかはやらなきゃと思ってたけど……」

 ある日の夕食で。

「あと、絨毯も張り替えたいのよ。黒ずんでるじゃない?板張りの床がいいんじゃないかと思うんだけど。掃除もしやすいし」

「ふーん……掃除しやすいのはいいな」

 掃除しやすい=清潔。

「ついでにカーテンも変えたいのよね。あんまり好きじゃないの、ゴブラン織り」

「好きにすれば」

「ありがとう!白いコットンの、洗濯しやすいカーテンにするからね!」

 洗濯しやすい=清潔。あんまり興味ないのね、インテリア。今日はここまで。


 別の日の夕食。

「オーリって、飾ってある絵と彫刻に思い出とかあるの?」

「え?別にないけど……」

「なんかおどろおどろしくて不気味で……夜中とかに見ると、すごく怖いの」

「僕は見慣れてるけど、イーリが嫌なら外したら」

「売って家を改装するのに使ったら、だめ?」

「いーよ。好きにしたら」

 先々代のコレクションに特に思い入れもないらしいオーリはあっさりそう言った。

「オーリさま。お売りになるのでしたら、エヴァンス邸の家令に、懇意にしている美術商を紹介してもらおうかと思いますが、よろしいですか?」

 ハワードさんが、横からオーリにお伺いをたてた。

「そうか、頼む。僕からも明日エヴァンス公爵に会ったら、お願いしておくよ」

「はい。あとはお任せくださいませ」

「イーリがいろいろ言ってるけど、できるだけ聞いてあげて」

 む。私が我儘言ってるみたいじゃない。失礼しちゃう。


 別の日の夕食。今度は、ハワードさんから提案。

「僕の部屋の改装?」

「そうです。オーリ様の部屋も、絨毯とカーテンを変えますが、この際、隣の収納部屋とオーリさまの部屋をつなげようかと。家職人もできるとのことですので」

 オーリの部屋の隣には、収納部屋があって、オーリの衣装なんかをしまってあるのだが、間の壁にドアがないので、一旦廊下に出ないと行き来できないのだ。かなり大きな収納部屋で、オーリのものだけじゃく、先代のものとかハワードさんにももはや何がしまってあるのかわからない状態なのだが。

「収納部屋の窓側半分に、オーリさま専用のお風呂と洗面を作ろうかと。廊下側半分に衣装と本をしまうような作りにします」

 オーリは本が好きで、たくさん持っているのだが、本棚が自室から離れた書斎にある。浴室とトイレも別の場所にあるので、オーリは、家のなかであっちこっちしないと生活できないのだ。ま、家って普通そういうもんだけど。で、あっちこっちするから、あっちこっちの整頓掃除が気になる。

 ハワードの提案が実現すると、オーリは最低限、玄関と食事室(ダイニング)と自分の部屋にしか足を踏み入れないですむようになる。

 自分専用の風呂トイレ、クローゼット本棚案が、いいと思ってくれたようで、オーリは頷いてくれた。けど。

「僕の部屋の改装は、僕が屋敷にいるときにしてよ。見ていない時に、部屋に人が入るのはだめだから」

「はい。かしこまりました」

「僕の物はハワードと、アリとイサク以外には触らせないで。十分注意してほしい」

「はい」

「それから……」

 注意事項が多い。イーリは、うんざりが顔に出ないようにしながら、もぐもぐした。

(このひと、ほんとメンドクサイ)


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