旅は続く
これから
「ふぅはぁぁ~。やっぱ風呂はいーなー。」
狭いながらも浴槽に貯めたお湯に浸かりホカホカになって真っ裸で出てくる。
「うーわっ!ともくんおっさん臭い。てか、パンツはけっ!」
「あぁん?何だと?まだピチピチの30代に向かって。てかこっち見んなっ!!変態め。」
「ばっ!?ばっか!変態はそっちでしょーがっ?!乙女にそんなもん見せんなっ!」
「確かに反応は乙女だな。」
「全部丸っと乙女だよっ!!」
乙女には到底思えぬ言い争いをしつつ、パンツを履く。
「アレどうする?」
「ともくん使いなよ。」
「ん?棗恐いの?」
「…ぅん。……恐いよ。…どうなるか分からないし、もしも、暴走したら……」
安心させるように棗のサラサラの髪を撫でて見る。
「聞いた話じゃ変身と言うか進化と言うかそうなったあとに暴走したらしいもんな。」
棗はソファの背もたれに頭を倒しほっとした表情で目を閉じて撫でられるに任せている。
「ん~でも暴走は困るんだよなぁ。俺一人なら構わないんだが。まぁ保留にしとこう。」
「ん。任せるよ。」
「…これから北上してみようと思う。他にもキューブがあるなら欲しいし。」
「安全か分からないのに?」
「安全かどうかを考えたら、そもそもなにもしなくても暴走するかもしれないし安全な場所だって無いだろ?切り札っぽいものは多い方が良い。」
「っぽい……ね…。まぁどこへでもともくんに付いていくから。」
「へぇ……急にデレたな。」
「……ともくん大好きだよっ❤️」
「まぁどっちでもいいけど。」
「もっと興味もとう?」
昨日の狩りで珠も結構集まったし、移動には良い頃合いだろう。
「あぁ、ダウンが欲しいなぁ」
「寒そうだもんねー」
「途中で探そう。」
「そろそろ休もうか。」
だいぶ日が傾いてきている。後1時間もすれば暗くなってくるだろう。野宿するよりは建物に入りたい。ホテルが有れば最高だけど。
「結構歩いたね。足が棒のようだよ。」
「ともくんは全身棒みたいなもんじゃん。」
「ぐさっ!傷付いたわ~。もう立ち直れないかも知れない。」
「えへっ❤️」
「えへっ❤️じゃねーだろぅ?いたいけなおっさん傷つけて喜ぶなよ。」
「秋の風物詩のオヤジ狩りってやつ?」
「そんな風物詩ねーし、使い方違うし、どこでその言葉覚えた?」
近道するためにずっと線路を歩いていた。適度な距離で駅があるし、駅の回りにはそれなりに商業施設もある。ホテルを探すのも好都合だ。もう駅が見えている。
無人のホームにあがり改札を抜けて外に出る。
時々思い出したように寄生された何かが向かってくる。今もジャーから手足が生えた猫を吹っ飛ばした所だ。
駅前には立派なホテルがあった。
受付で鍵を借りて部屋に入る。
「しかし、統一感がねーな。」
「そう?こんなもんでしょ?」
部屋をキョロキョロと見回して棗は言う。
「部屋のことじゃなくて、寄生されたあいつらの事。そして何故か人が居ない。いろんな生き物に寄生された何かや元、人はいるのに、人に寄生された何かは居ない。違いは無いのかも知れないけど。最も違いがないなら俺は木に寄生した人なのか、人に寄生した木なのか。人としての記憶はあるけど、この自分が人なのか、木なのかが分からない。」
「ともくんは人でしょ?エロいもん。」
「そこ?エロいと人なの?!」
「いや、むしろエロいのはともくん。」
「何でそこまで。棗さんにエロい事したっけ?」
「したら冷凍保存する。」
「はぁ。まぁ棗が人に寄生した氷だってのは分かる。」
「何でよっ?!あたし氷っ!??」
「冷たすぎる。」
「OK。コールドスリープいくわよっ❤️」
「待った待った!棗さんは熱い心を持ってます!熱いから!厚い氷だからっ!」
「凍れ。」
ひとしきり騒いで、シャワーを浴びてベッドで一息つく。
「はぁ~さっぱりした。」
棗が出てくる。ピッタリした服ではなく部屋着って感じのジャージだ。
俺の寝てるベッドに座る。
「……他の国に行けないかな?」
「ん。どうだろうな。流石に飛行機や船がないとこの島国からは出られないだろう。小さな船じゃ海なんて渡れないだろ。」
「ぅ~ん。他にも生きてる人いるかな?」
「どうかなぁ。居てもおかしくないけど。俺も棗もいるんだしな。」
「あぁ、鳥なら海を渡れるだろうから、羽がある人がいればここから出られるかもな。他は……棗が海を凍らせる……とか?」
「無理でしょ。」
「ですよね。」
1週間程歩き続け気候も変わってきたと実感できるほどに空気が冷たくなってきたころ大きめの街にたどり着いた。
「久しぶりの街だな。」
「やっとふかふかベッドで眠れりゅぅぅ~。疲れたしお風呂入りたいよぉ。」
「まぁ取り敢えず、ホテル探すかぁ」
地図は一応持っているし方角もだいたい分かるが、変なのが彷徨いている以上どこで何がどうなってるかは行ってみないと分からない。
国道を進むのがショートカットっぽいがその分周りは味気ない。
車やバイクが使えればいいが、道路も渋滞のままだったりもするので使えないことも多い。
なので仕方なく徒歩で移動することになる。自転車でもいいが、的にされやすい上に咄嗟の反撃や防御がしづらく棗を危険に晒しやすくなる。
そのため徒歩移動が無難だろうという事に落ち着いている。
人が増えればやりようもあるかも知れないが。
「しかし棗は寒さを感じるのか?」
「え~?なにソレ?人扱いしてぇ?」
「だって氷の能力なのに寒いって?風呂も入るしなぁ。」
「溶けて消えちゃうと思った?」
「う~ん。まぁ弱点っぽくはある。」
「ちゃんと寒さは感じるし、お風呂は気持ちぃし大好きだよ?」
「……不思議だよな。」
「不思議ちゃんではないですよね?」
「いや、意味が違う。」
「まぁこれのお陰で生きてるし、良い出会いもあったからいーんじゃない?」
棗は嬉しそうにニヤついている。
「…。」
「ここデレるとこだよ?」
「どうぞ?」
「あたしが居なくなったら寂しいでしょ?」
「うん。寂しくて死んじゃうかもー。」
「…もっと興味もとう?貴重な女の子だよ?ちょっと前も言った気がするよ…。」
「まぁ、冗談抜きで移動手段何か欲しいなぁ。徒歩だと限界もある。とはいえ、現状2人だとたとえ飛行機や船があったとしても扱えない。船なら多少駄目でも動かすくらいは出来るだろうが、目印が無いから漂流がヤバい。流されたら即詰みだろうな。食事の心配が無いとはいえ、敵が居てこそだ。海の中までウイルスが広がっているか分からんし。」
「都合の良い生存者を見つけるしかないかぁ~。」
「焦ってもどうにもなら無いよ。本屋で船舶免許の本でも探すか。後その内、海の方にも行ってみよう。」
まだ別の大陸に行ける可能性が無くなったわけではない。いずれ行けるようになるかも知れない。
海を渡ったとしても多少風景が変わるだけで、今とやることが変わるとは思えないが。
このまま2人でのんびり旅をしながら朽ちるのも悪くはない。そう思える程に、世界は絶望的な変化をし、2人の時間は退屈な世界に彩りを添えてくれた。
動くものは化け物だけ。
コミュニケーションが出来る存在に出会えた事は、幸運であり、失うことへの恐怖も同時に手に入れてしまった。
変わりが無い世界と替わりの居ない相棒と共に朽ちるまでは生き続けよう。と、そんな考えが頭をグルグルと渦巻いていた。