最後の一つが見つからない?!
あのあと、百波が琴羽にも同じことを聞いたのか、彼女が古瑞にキスをしたことが百波にバレ、その所為で臍を曲げた百波の機嫌取りに苦労した。
なんとか機嫌取りに成功したのが、何故か日に日に百波はしよぼくれていった。琴羽との事を隠した以外に何も思い当たる節がなく、取り敢えずそっとして置いたのだが……
一週間経った今日、等々百波は手に持った書類をぶちまけ奇声を上げてしまった。
「~~~~~~~~っもうやだぁああああああ!!」
「っわ、吃驚した。如何したの、百波。」
「もうやだ!特定出来ない!判んない!み~つ~か~ら~なぁあああい!!」
騒ぎ始めた百波に声を掛けると、ばっと振り返り古瑞に抱き着いてきた。ヨシヨシと宥めながら、散らばった書類に目を向けた。其処には似たような写真が載っており、近くに落ちていた一枚を拾い上げた。小物入れのようなそうじゃないような形だが、どれもデザインが似たようなものだった。
「ねぇ、百波?これは次に取りに行くやつの資料?」
「……………うん。万里ちゃん曰く、それが最後の品物で‥一番手元に戻ってきて欲しいやつなんだって。」
「へぇ~‥、で?何をそんなに煮詰まってたの?と言うか、これは何?」
「それはね~、オルゴールなのよ~!」
花瓶の水を入れ換えていた万里が、会話に加わった。古瑞の背中に張り付きながら、手元の書類を覗き込んだ。
「オルゴール?でも、備考欄とかには小物入れとかジュエリーボックスやら書かれてるよ?」
「そうなんだよ~。万里ちゃんからオルゴールの特徴とか聞いて、何時も通り検索かけたんだけど‥出てくるのは全部違うんだよ~。」
「そうなんだ……って、ほらいい加減泣き止んで、百波。」
「わぁ~、ほんとだ~。同じようなお柄がたくさぁん!でもでも、ももちゃん~。これ全部、ママが探してるのじゃ無いよ~?」
「………………へ?」
古瑞の背中から離れたら万里は、そこかしこに散らばる書類を集めて、一枚一枚に目を通しながらそう告げた。それを聞いた百波が間抜けな声を上げ万里に顔を向けると、彼女はペンを握りながら写真になにかを書き込んでいた。
「違うって‥なんで判るの?」
「だって~、ママが探してるのには~、此処と‥此処と‥此処に……ママ達のお名前が入ってるんだも~ん。」
「俺達の‥名前が入ってるの?判りやすく?」
「ううん~。ちょっと見ただけじゃ判らないように~、パパがデザインしてくれたのよ~。確か~‥、パパが描いたのが~この辺りに~……在った~!はい、これがそうよ~。」
ペンでマークを付けると、集めた書類を机に置きリビングの棚を漁り始めた。そして一枚の紙を取り出すと、古瑞達に見せてくれた。受けとり見ると、それは手書きで描かれたデザイン画だった。そのデザイン画には確かに、飾りに紛れて『mari』『senba』『yuwa』とローマ字で描かれていた。その図案と百波が調べた書類を見比べると、デザイン似ているが、何れにも三人の名前は描かれていなかった。
「………ほんとだ。どれも似てるけど‥こうして図案と比べると全然違う。」
「でしょ~?覚えてたママを誉めて誉めて~!」
「偉い偉い。それで、万里ちゃん。如何してこれが一番なの?」
「これはね~、パパがママに『結婚しましょ』って、お約束したときにママにプレゼントしてくれたのよ~。」
「へ?じゃ、結婚する前から俺達の名前って決まってたってこと?」
「そうよ~!ママがパパのお名前になる前に、せんちゃんがもうお腹の中にいて~、ママは二人子供が欲しかったから~、ももちゃんのお名前も決めちゃったの~!」
「…………性別無視で、名前決めたんだ。随分、危険な賭けに出たね。」
嬉しそうに頬を染めながら話す万里に気付かれないよう苦笑いを浮かべていると、会話をしながらパソコンを弄っていた百波が印刷した紙を差し出してきた。
「ねぇねぇ、もしかしたらこれかな?」
「どれどれ~。あ~、これよ~!ももちゃんすごい~!」
「検索範囲を日本以外にもしてみたんだ。そしたら、ヨーロッパのお金持ちが輸入したみたい。」
「ヨーロッパか……流石に其処へ探しに行くのは、無理だな。」
「でもね、そのお金持ち‥今年になって亡くなっちゃったみたいで、持ち物全部売りに出されちゃったみたい。」
「あ~‥、八方塞がりか。ん~‥如何したもんか。」
「はいはぁい!けいちゃんに~、探してもらうのは~如何~?」
「いやいや、流石に螢に相談したら、千羽が怪しまれるから!」
「えぇ~!?折角良い考えだと思ったのに~。ママ悲しい。」
百波は、ショボくれてしまった万里の頭を撫ぜた。それで機嫌が良くなった万里は、ニコニコと父親の描いた図案を眺めて、百波はもう一度行方を探そうとパソコンに向かった。
そんな二人を見ながら、万里の『近江に相談』と言う言葉がぐるぐると頭の中で回っていた。
(螢‥だと、百波が言うように疑われる可能性が高過ぎる……。かと言って、他の伝なんて…………あ)
知り合いの顔を一人一人思い浮かべながら考え込むと、一人だけ‥近江よりは危険人物ではない筈の人物が思い浮かんだ。だが、正体がバレる危険性より違う意味で危険性がかなり高いその人物に頼んでも良いものかと、頭を悩ませる。
(でも‥これ以上俺達が調べられるとしたら、あいつしかいないし――‥リスクは高いけど‥賭けてみるか。)
結局はそれ以外に良い案が浮かばず、腹を括り古瑞は連絡を取るためにスマホを取り出した。
次話は、9/22の10時になります。