無茶振りTea party
あの悪夢のような出来事から数日。
取り敢えず、何事も無かったかのように振る舞う古瑞に、開き直ったのか蛍漓は前にも増して古瑞にアピールするようになった。家出の原因‥と言うか真実は、古瑞がなかなか蛍漓を恋愛対象として見ないことに業を煮やし、強行手段のために一芝居うったとの事だった。その話を聞いた百波は憤慨し、脳内花畑な万里は『お嫁さんが来る~』と喜んでいた。そんな二人を宥める毎日を過ごしていた。
そんなある日家に戻ると、万里が何時も以上に嬉しそうに駆け寄ってきた。
「お帰りなさ~い、せんちゃん!次が見付かったのよ~!」
「へぇ、次はなにが見付かったんだい?」
「次はね~、お紅茶セットよ~!」
「あ‥もしかして、シルバーのティーセットが見付かった?」
「そうなの~!ももちゃんがね~、偶々見付けたのよ~。お友達になった子がね~、持ってたみたい~。」
「へぇ‥、随分身近に在ったんだね。」
思わぬ場所から見付かり感心していると、万里に腕を引かれながらリビングへと向かった。其処には何時も通り、色んな資料を散らかしまくっている百波が居た。
「千羽、お帰り~!次見付けたよ~!」
「みたいだね。それで、誰が持ってたの?」
「今月頭にね、編入してきた子が居たんだけど、その子が持ってた。こないだ遊びに行ったら、使ってたよ。」
「ふ~ん。その子は何処に住んでいるの?」
「前に行ったさ、花咲さんの近くだよ!名前はね、琴羽 アイシャだよ~。」
「花咲さんの近く‥って事は、結構お金持ちなんだ。」
「何処かの王族?の、血が流れてるんだって~。」
凄いよね~と、暢気に笑う百波から数枚の写真を渡された。見てみると、黒に近い焦げ茶のストレートの髪の毛で褐色肌の、何処かアラビア系の女の子が映っていた。
琴羽 アイシャ様
今宵、貴方様がお持ちの『銀細工のティーセット』を、頂きに参上致します
それは、元より我が家宝
貴方様がお持ちするような代物では在りません
空の黄水晶が煌めく頃、蓮華の華とともに参ります
努努、油断召されぬよう
Lotus
「………………それで、言い訳は在りますか課長?」
「………………仕方無いだろう!先方が『家の中は要らない』と言ったんだ!如何しようも無いだろう!!」
「ほんと、使えませんね。前回の説教が効いていないみたいですね。」
「あ~‥、螢がまた課長さんを正座させてる。」
既に忍び込んだ琴羽邸の屋根の上から外を眺めていると、相変わらず上司相手にぶちギレている近江が見えた。それに苦笑いを浮かべながら下へと降りると、裏口の鍵を開けソッと中へと入った。
足音を発てないようキッチンへ向かい、ティーセットを探し始めた。百波が話していた通り頻繁に使っているのか、目当てのティーセットは直ぐに見付かった。音を発てないようにティーセットを布に包もうとしていると、カタリと音がしそちらを振り返った。其処には暗がりでも判る焦げ茶の髪の女の子が、キョトンと此方を見ていた。
「………アナタは、誰ですか?」
「予告状を出した泥棒だよ。君が琴羽 アイシャさん?」
「泥棒‥あ、Lotusですか?」
ぱたぱたと近寄ってくると、琴羽はキラキラした眼差しで古瑞を見上げてきた。予想外の反応に若干戸惑っていると、琴羽は古瑞が持つティーセットを奪った。それを自身の躯の後ろに隠すと、彼女はにっこりと花が咲くように笑みを刻んだ。
「え‥と、それは渡して貰えない、って事なのかな?」
「違う。一つ、アイシャのお願いを聞いてください。そうしたら、これはアナタに差し上げます。」
斑目のような事を言い出す琴羽に、古瑞は思わず口元が引き攣るのを感じた。でも、願いとやらを聞けば渡してもらえるとなれば、聞かないわけにはいかない。そう判っているから、古瑞は肩を竦めて苦笑いをした。
「仕方ないか。お願いって?」
「聞いてくれるのですね!でわ、明日!一緒にティーパーティーをしてください!」
「ティーパーティー?俺と、君の二人で?」
「はい!そうしたら、これを差し上げます!」
「あ~‥それくらいなら、構わないかな。」
「嬉しいです!でわ、明日の午後に、〝普通〟の格好で来てください!」
「…………え?」
「アイシャ、アナタの普段の格好が見てみたいです!だから、明日は普通の格好で正面から入らしてください!」
とんでもないことを言い出した琴羽に、古瑞は頭を抱えてしまった。
「あの‥ね?一応、俺はお尋ね者なんだ‥だからそれはちょっと……」
「それなら渡せません。それに、昼間に正面から来れば、アイシャの友達と言うことになります。だから、バレる心配はないです!」
「………明日も警察は、居るんじゃないの?」
「だいじょぶです。警察にはアイシャが誤魔化します。だから、安心して明日来てください。」
頑として譲らない琴羽に古瑞は説得を諦め、明日のお茶会に来ることを約束し裏口から出ていった。
翌日、変装せず琴羽邸に訪れると、昨日は沢山居た警察が一人も居なくなっていた。何を如何言って近江達を退かせたのか気になるが、何となく考えないようにしてインターホンを押した。直ぐにドアが開き喜色満面の琴羽が出迎えてくれた。
琴羽に連れられ広い庭へと行くと、其処には可愛らしいテーブルにあのティーセットが置かれており、既に準備万端だった。互いに座ると、古瑞は持参してきたお菓子を取り出しテーブルに出すと、琴羽はとても喜んでくれた。
「そう言えば、アナタのお名前はなんと言うんですか?」
「あ、俺は古瑞 千羽だよ。宜しくね、アイシャ。」
「はい!宜しくです、千羽!」
ニコニコと楽しそうな琴羽に、自然と古瑞も笑顔が浮かび、お茶会を開始した。
「千羽は、何処でアイシャの名前を知ったのです?」
「あぁ、実は君の友達に百波って居るだろう?あいつ、俺の弟なんだ。」
「ほんとですか!百波とは、とても仲良し!素敵な奇跡!」
「ふふ、奇跡だなんて大袈裟だな。アイシャは面白いね。」
琴羽から百波の大学生活の話を聞いたり、琴羽の母国の話を聞いたり、古瑞が開く喫茶店の話をしたりと、楽しいお茶会となった。
あっという間に夕方となり、お茶会はお開きとなった。琴羽と一緒に食器を片付け、約束通りティーセットを譲り受けた。
「有難う、アイシャ。」
「そう言う約束。お礼は要りません。」
「はは、そうだね。じゃ、俺は帰るよ。あ、くれぐれも俺の正体は内緒でね?」
「はい、千羽の正体は誰にも喋りません!お店の方にも、今度行かせてもらいます。」
可愛らしい事を言う琴羽に笑みが溢れると、古瑞は琴羽の頭を撫ぜた。そんな古瑞に最初はキョトンとしていたが、頭から手が離れると琴羽は古瑞の肩に手を置き背伸びをすると、古瑞の頬にキスをした。突然の事に驚いていると、琴羽は満面の笑みで家の中へと入ってしまった。万里には数え切れないほど頬にキスをされているが、他の人にされたことなどあまりなくて、若干古瑞は赤面してしまった。
「せ~ん~ば~~~!!」
「‥っと、ただいま百波。」
「千羽、千羽!ねぇ、誰かに迫られたりとかしてない?キスとかされてない!?」
「………え?」
「せんちゃん、お帰りなさ~い。せんちゃん、ももちゃんたら凄いのよ~。さっきね、ももちゃんの髪の毛がピ~ンと立ったのよ~!魔法みたいよね~!」
「魔法‥では無いと思うけど……如何したの?」
ドアを開けると、何時も通り百波からの抱擁を受けたが、何時もと違い彼は何故か涙目だった。早口で告げられた百波の言葉に驚いていると奥から万里もやってきて、百波に起きた不思議現象を話してくれた。だが、要領を得ない内容で意味が判らず困惑してしまった。
「今日って、アイシャの所に行ってたんでしょ?なんかされなかった?襲われなかった?だいじょぶだった?!」
「いやいや、何の心配をしてるの百波……。俺がアイシャに襲われる訳無いだろう。」
「判んないよ!?こないだのヤンキーみたいな事になるかもしれないじゃん!!千羽は俺のだもぉおおおん!!」
「わ~、ももちゃんがせんちゃんにグリグリしてる~!ママもやる~!!」
「ちょ、万里ちゃんはやらなくて良いから!ほら、百波も離れて!」
「い~や~だぁあああ!!」
何時かのように古瑞の胸に押し当てた頭を、高速で懐かせる百波に万里も真似をしようとしてきた。慌てて万里を止めて、百波を引き剥がした。
「何も心配要らないよ。俺は何もされてない。」
「…………………ほんと?」
「ほんとほんと。ほら、お腹空いたろ?ご飯作るから離れて。」
「ママお腹空いた~!あ、せんちゃん、お紅茶セットは~?」
「ちゃんと貰ってきたよ。後で、あれで食後のお茶をしよ。」
わぁい、と喜びながら万里はリビングへと戻っていった。それに笑いながら、未だくっ付いている百波の頭を叩き二人で万里の後を追った。




