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a Lotus thief  作者: 刻埜
本編
5/15

探偵vs元ヤンvsワンコ

如月の家に行ってから数日。

古瑞は店に、実に四日振りに顔を出した。

実はあの後、如月から貰ったクッキーを三人で食べたのだが、何故か万里と百波が体調を崩して付きっきりで看病していたのだ。クッキーを食べる際、鈴代が顔面蒼白していた理由が何となく判ったが、でも古瑞的にはあのクッキーはとても美味しい物であった。看病中にうっかり『また、食べたいな』等と呟き、二人に大号泣されたのには心底驚いた。


臨時休業と言う形を取り、蛍漓にも事の次第を告げると、何故か彼女から説教を食らってしまった。如何やら、『試作品の味見』と言う嘘の所為らしく、『レシピ通りに作りなさいよ!』と再三怒鳴られた。

『本当に美味しかったのになぁ』等と残念がりながら準備を続けていると、何時も通りの顔触れが続々と来店してきた。


「千羽!!」

「蛍漓、久し振り。」


昼過ぎに一休みでもしようかと考えていると、乱暴にドアが開けられ蛍漓が飛び込んできた。何時ものように挨拶をすると、何故か蛍漓は古瑞に抱きついてきた。


「如何したの?痴漢にでもあった?」

「そんな輩が居たら、二度と日が拝めないようにしてる。」

「恐ろしい高校生だな…じゃ、何が遭ったの?」

「…………………」


ちょっとやそっとの事で動転する事が無い蛍漓が、何故此処まで動転しているのか判らず訊ねるが、蛍漓はただ抱き付くだけで何も言い出さなかった。如何しようかと困っていると、そんな二人の様子を見た客から冷やかされた事で蛍漓が復活し、客に怒鳴り付けると着替えるためにバックヤードに向かった。


そうして暫く何時も通りしていると、入ってきた客に蛍漓が声を上げた。驚きそちらを見ると其処には、何処か見覚えのある、でも知らない青年が立っていた。


「あ?なんだ、あんた此処で働いてんのかよ。」

「あんたには関係ない!さっさと出ていきな、千羽には近寄らせない!」

「ちょいちょい。一応お客さんだから。追い出すな追い出すな。」


そう苦笑いを浮かべ仲裁に入ると、蛍漓には睨まれ青年からは凝視されてしまった。何だろうと不思議がっていると、古瑞を上から下まで眺めた青年の口端が不敵に吊り上がった。


「あんた、これ食えるか?」

「今は仕事中なんで……」

「ふ~‥ん。じゃ、閉店まで居るわ。」

「帰れ!!」

「蛍漓!」


蛍漓の横を通り過ぎ古瑞の目の前のカウンターに座ると、目くじらを立てた蛍漓が掴み掛かろうとした。それを止めようと声をかけると、ちょうど良く客から注文が決まったと声を掛けられ蛍漓は足音も荒くそちらに向かっていった。

それに苦笑していると、じっと古瑞を見詰める青年に気付き首を傾げた。


「俺の顔に、何か付いてる?」

「………如月 栾って、知ってるか?」

「………いいや、知らない?」

「ふ~‥ん」


一瞬、ドキリとしたが一切表情には出さず、そう答えた。古瑞の返答を聞いても、青年の口元は笑みを刻んでいて、でも瞳は何処か古瑞を探るように見詰めていた。

結局、閉店までずっと青年から観察するような視線を向けられ続け、何時も以上に疲れてしまった。こっそりと溜め息を吐いていると、刺々しい口調で蛍漓が青年に声をかけた。


「ちょっと、あんた何時まで居るんだ!もう、店仕舞いだよ!帰れ!!」

「あんた、名前なんて言うんだ?」

「あたいを無視するな!」

「落ち着いて、蛍漓!俺は古瑞 千羽だよ。君は?」

「……如月 (しん)。あんたの〝知り合い〟に、似てんだろ?」


それが誰を指しているのか瞬時に判断は着いたが、でもその相手と〝自分〟は他人だ。顔を合わせたこともない。だから、答えは一つ。


「俺の知り合いには、居ないよ?」

「あっそ。まぁ、白切りたいならそれでも構わねぇけどな。」

「白なんか切ってない?ところで、如月君は何の仕事をしてるの?」

「何でも屋。今受けてる依頼が、ある泥棒を探すってやつなんだ。」


ニヤニヤと笑いながら聞いてもいないことを教えられ、古瑞は自身の口元が引き攣るのを感じた。物凄く居心地の悪い中、バタンと勢い良くドアが開きバタバタと人が入ってきた。


「蛍漓!あんたの彼氏が変なのに狙われてるってほんと!?」

「せんばぁああ!ストーカー被害に遭ってるってほんと!?」

沙和(さわ)‥なんで馬鹿連れてきたの?」

「蛍漓‥なんで友達がこの時間に?」

「変なの‥に、ストーカーね……。酷い言われようだな。」


来たとき同様に慌ただしく古瑞に近寄ってきた百波と、何故か殺る気満々の蛍漓の友人―澁谷 沙和。そんな澁谷に文句を垂れる蛍漓に、いつの間にか『変なの』や『ストーカー』呼ばわりされている蓁。そんな四人を見て、古瑞はズキズキと痛み出した頭を抱えた。見に覚えの無い呼称をされても、なにが面白いのか口元が笑みを刻んでいる蓁に気が付いた百波が、一気に噛み付いてきた。


「あ!あんただな!?俺の千羽にストーカーしてんの!」

「いや、身に覚えはねぇな。逢ったのは、一応今日が初めてだ。」

「千羽に逢ったことはなくても、見たこと在るってだけだろ!千羽は俺のなんだから!」

「おぃコラ、千羽はあたいの嫁になるんだ。お前にはやらない。」

「………千羽は嫁になんか出さないよ。なに、俺から奪おうっての?潰すよ?」

「上等……フルボッコにしてやんよ」


バチバチと火花を散らす二人に、本格的に頭が痛くなり額を押さえていると、ふと影が覆い被さった。何だろうと手を外し顔を上げると蓁が顔を寄せてきた。驚き身構える間もなく蓁は耳元に近付いてきて、ふと笑うと小さく呟いた。


騎士(ナイト)が沢山だな、泥棒さんよ。」

「…………………っ」

「化けの皮剥がすのが、楽しみだ。」


言葉と共に耳朶を食まれ手を突っぱねると、蓁はあっさりと離れていった。口元は先ほどから変わることなく楽し気に吊り上がっていたが、しかし目だけはギラギラと獲物を狙う獣のように光っていた。


「……随分、可愛い反応だな。顔、真っ赤だぜ?」

「~~~~~~~っ!」

「…………っ離れろ!」


ボンっと、音がしそうな程顔を真っ赤にさせた古瑞に、もう一度手を伸ばそうとすると、小さく風を切る音がして素早く身を躱した。今まで自身が居た場所には、自分より小さな拳が在りそれを辿っていくと、金髪をした少女・澁谷が蓁を睨んでいた。


「……………」

「蛍漓の彼氏に、ちょっかい出すの止めてくれる?」

「……俺とやり合おうってか?」

「ことと次第によっては、ね」

「生憎と、ガキを相手にしてる暇ねぇんだ。じゃな。」


不敵に笑うとそう言い蓁は店を出ていった。それに安堵の溜め息を吐いて、まだ多少怒りの様子の澁谷に声をかけた。


「あのさ、俺は何時から蛍漓の彼氏に成ったの?」

「ん?蛍漓が何時も、そう言ってるわよ?」

「……………ほとちゃん、ちょっとこっち来て。」

「なに、千羽。」


ずっと百波と睨み合っていた蛍漓に声をかけると、物凄く素早い動きで古瑞に近付いてきた。中学入学頃から〝蛍漓〟と呼ばれている所為で、〝ほとちゃん〟と久し振りにちゃん付けで呼ばれたことが嬉しかったのか蛍漓は先程までの殺気と、何時もの無表情をかなぐり捨て満面の笑顔をしていた。


「あのね、ほとちゃん。俺が彼氏だなんて、言っちゃ駄目。」

「……………なんで?」

「三十路一歩手前の俺より、若くて良い人が沢山居るんだから‥嘘でも言っちゃ駄目だよ。」


低い位置にある蛍漓の頭を撫ぜるように手を置き言う。始めは嬉しそうにしていた蛍漓は、古瑞の言葉を聞くにつれどんどんと不機嫌そうになり聞き終わった今となっては唇を突きだしぶすくれていた。何故蛍漓がぶすくれているのか判らず首を傾げると、パシンと手を叩かれた。


「~~~~っ千羽以外と付き合うつもりなんか無い!!」

「ほ‥ほとり?」

「千羽の馬鹿!アホ!鈍感!!味音痴!!!」

「ちょ‥蛍漓!制服着替えてないよ!?」

「学校なんか、サボってやんよぉおおお!!」


そう叫びながら、ドアを蹴破らん勢いで外へ飛び出していくと、澁谷が慌ててそれを追い掛けていった。ガランガランとドアに付いている鈴が鈍い音を鳴らしているのを唖然と見ていると、百波が勝ち誇ったような顔で笑っていた。

そんな百波にも首を傾げていると、直ぐに笑みを浮かべた百波がカウンターの中に入ってきた。


「ね、帰ろ!万里ちゃんも待ってるよ?俺、お腹空いた!!」

「………………………はぁ。」


何が何だか良く判らないが、取り敢えず考えることを放棄し、大きく溜息を吐いた。

百波を先に外で待たせ、素早く片付けていると、ふとカウンター上に置かれているラッピングされた袋を見付けた。何だろうと見てみると、中にはクッキーが入っていた。見た目と匂いから、この間如月から貰った物と同じクッキーだと判った。


「そう言や、如月君が来たとき食べてみろって言っていたな。」


きっと、あのクッキーを『美味しい』と評した泥棒が自分だと予想し、同じ物が食べれるか如何か試そうとして持ってきたのだろう。何だかんだで食べさせるのを忘れていた癖に、帰り際の様子ではかなりの確率で泥棒が古瑞だと疑っているのだろう。『やりにくくなる』と苦笑し、菓子袋をポケットに入れた。また来店したとしても、『持ち主が判らず仕方無く処分した』等と嘘をいっておけば大丈夫だろうと予想し、百波や万里に気付かれないように味わおうと思った。


「千羽~!早く帰ろうよ~!」

「はいはい、今行くよ。」


待ち草臥れた百波が外から叫び、それに返事をしつつ電気を消した。


(この間と色合いが違うから、味も違うんだろうな。楽しみだ。)


ポケットの中のクッキーに笑みを漏らし、扉に鍵を掛けた。



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