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a Lotus thief  作者: 刻埜
本編
13/15

消えた怪盗

「お帰りなさぁい~!」

「ただいま、万里ちゃん。はい、オルゴール。」

「わぁい!有難う~二人とも!~」


出迎えた万里にオルゴールを渡してやると、彼女は本当に嬉しそうに微笑んだ。万里は二人の頬にキスをすると、リビングへ走っていった。それを追うように百波も歩いていき、古瑞は髪色を落とすためバスルームに向かった。


色を落としタオルで拭いながらリビングに顔を出すと、万里は今まで古瑞に頼み取り戻した品々を並べて眺めていた。

ニコニコと笑みを浮かべる万里に、古瑞も口元を弧にすると、万里と自分用に飲み物を用意した。彼女用のカフェオレを机に置くと、気付いた万里は嬉しそうに礼を告げた。


「………良かったね、こうして戻ってきて。」

「うん~!せんちゃんと~ももちゃんのお陰よ~!最初はね~、オルゴールだけで良かったの~。でも、全部が全部パパとの思い出が在って~‥、せんちゃんにはいっぱい我が儘しちゃったね~。ごめんね~?」

「気にしてないよ。もう、朧気にしか覚えてないけど……それでも俺にとっても、父さんとの思い出が詰まってる物だったし……」


昔を思い出すように、並べられた品々を眺めた。確かに、苦労はしたし大変な目にも遭った。それでも、薄れる父親の面影がこうして戻ってきた事の方が、断然嬉しかった。

そんな古瑞の気持ちが判ったのか、万里は小さな鍵を取り出すとオルゴールの鍵穴に差し込んだ。カチリと鍵が開き蓋を開くと、可愛らしい曲が流れ始めた。そして、中から何かを取り出すと、それを古瑞に手渡した。


「これ、あげるね~。」

「………指輪?」


渡されたのは二対の指輪。一つは透明な水色の石が嵌め込まれ、もう一つにはピンクとも紫とも見れる石が嵌め込まれていた。


「水色のが~セレちゃんで~、ピンクが~クンちゃんよ~!」

「………正式名、覚えてないんだね。」


相変わらず、勝手に名前をつけている万里に苦笑する。後で調べてみようと片隅に思い、古瑞は綺麗に細工されている指輪を眺めた。


「それね~、パパとママが~お互いに買い合った指輪なの~。だから~、せんちゃんがお嫁さんを見付けたときに~渡してあげて~?」

「…………母さん」

「あ、せんちゃんのお嫁さんは蛍漓ちゃんだったわね~」

「千羽は俺のお嫁さんになるのぉおおお!!」


ふふ‥と笑い蛍漓の名を出した万里に、何処で聞いていたのか百波が叫びながら現れた。突進してくると、古瑞から水色の指輪を引ったくると自分の左薬指に嵌めてしまった。そしてピンクの指輪を古瑞に嵌めようとしたが、サイズが合わず討ち沈んだ。

サイズを直すのは少し躊躇われ、チェーンを通し首から下げることにした。


そして寝る間際、石の名を調べると水色の石は『天青石(セレスタイト)』、ピンクの石は『リチア輝石(クンツァイト)』と判明した。何となく宝石言葉を調べてみて、思わず口元が弧を描いた。



天青石‥家庭内円満

リチア輝石‥純愛



これを知っていて互いに選んだのだとしたら、お似合いの夫婦だと想った。



紙面から『怪盗ロータス』の名が消えて数ヶ月。

古瑞はのんびりと、喫茶店営業に精を出していた。あれから、盗みに入った人々が何処から聞き付けたのかこの店に顔を出すようになり、友人も増えた。


栾は鈴代と一緒に来店しては、何時もお菓子を差し入れてくれる。


鈴代は蛍漓と気が合ったのか良くお喋りをし、近々この店で働きたいと言い出した。


斑目も舞台の合間に訪れては、次の舞台のチケットを譲ってくれたり、色んな裏話を聞かせてくれた。


一番始めに常連と化した琴羽は、来店する栾達とも仲良くなり楽しそうにしている。


栾や鈴代と共に来店する蓁は、未だにちゃんとした『報酬』が貰えなかったのを根に持っているのか、来る度に古瑞に迫るようになった。だが、毎回蛍漓の妨害に合い上手くいっていない様子だ。


そしてロータスが居なくなり暇になったのか、近江も前より頻発に顔を出すようになった。気になり聞くと、余りにも上司が使えないため、上に行くために勉強中らしい。半叩き上げの自分が上にいけば、少しは警察内も良くなる気がする‥と溢していた。


ちゃらんぽらんな癖に、予想以上のハイスペックを隠し持っていた飛炎は、相変わらず店で時間潰しをしながら蛍漓にちょっかいを掛けたり、遊びに来る栾達と騒いだりしていた。あの時の言葉通り、近江にロータスが古瑞で在ることを告げる気がないのが、唯一嬉しいことだった。


今日も今日とて騒がしかった店内に、古瑞は微笑みを浮かべた。


閉店時間になり後片付けをしていると、徐に蛍漓が口を開いた。


「ねぇ、千羽?一つ、聞いても良い?」

「なに?」

「ずっとね‥気になってたんだ。千羽と‥『怪盗』って、似てない?」

「怪盗‥て、ロータスの事?」


知らぬ振りでそう聞くと、蛍漓はこくりと頷いた。なぜ気になったのか、如何して気付いたのか‥聞きたいことは在るが、如何せもうロータスをやることはない。ならば、言ってしまおうかと思った。


「蛍漓も、なかなか鋭いね。」

「………じゃあ、やっぱり‥千羽が?」

「秘密‥だよ?」


そうウィンクをし、蛍漓をカウンターに座らせると、古瑞は事の始まりを話始めた。


全ては、愛する家族のために。

母の‥願いを叶えるためにやったことなのだと、古瑞は蛍漓に教えた。









                  様



             今宵、貴方様がお持ちの『     』を、頂きに参上致します


             それは、元より我が家宝

             貴方様がお持ちするような代物では在りません


             空の黄水晶が煌めく頃、蓮華の華とともに参ります


             努努、油断召されぬよう



                                       Lotus


END


これにて本編完結。

次話は登場人物と番外編で、9/24の10時になります。

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